中等度以上の認知症のある初診患者さんの認知症診療は致しておりません。中等度以上の認知症を疑われる方が初診された場合、認知症の検査を受けていただきます。その結果が中等度認知症の方には専門医療機関への受診をお勧めしています。軽度の認知症があって、糖尿病、高血圧等認知症以外の診療を希望される場合、診療致します。
なお、認知症発症以前より当院を通院されている方が認知症を発症した場合、ご希望により引き続き当院で診療致します。これは、初対面の認知症専門医に転院し環境を変えるより、認知症専門医ではありませんが10年以上のお付き合いのある私が継続して診療した方が、患者さんの病状によい場合もありうると考えているからです。
2017年3月12日施行改正道路交通法における高齢者ドライバー診断書の発行について
高齢化社会となりアクセルとブレーキの踏み間違い、高速道路の逆走など、高齢ドライバーによる俄かに信じがたいような事故が頻発、なんと1日当たり20件近く発生しているそうです。このような背景から、高齢運転者対策を施した改正道路交通法が平成29年3月12日施行されました。
改正点の詳細は、警視庁ホームページをご参照下さい。今回の改正は我々医師にも大いに関係があります。
改正以前から75歳以上のドライバーには3年毎の運転免許更新時に認知機能検査が義務付けられていました。その結果、たとえ認知症の恐れがある(第一分類)と判定(検査受験者の約2.2%)されても、一定の違反行為が把握されなければ医師の診断書提出は義務付けられていませんでした。そのため、平成27年の診断書提出該当者は全国で300人ほどしかいませんでした。しかし、今回から第1分類に判定された高齢者は全員、医師の診断書が義務付けられました。そしてその結果、認知症であると診断された場合、免許取消しまたは免許停止になります。また、3か月の期限内に診断書を提出しなかった場合も運転免許の取消しまたは停止になります。
更新時の認知機能検査で第2分類(認知機能が低下しているおそれがある)、第3分類(認知機能が低下しているおそれがない)と判定された高齢者は、どのような違反行為を犯そうとも次回3年後の免許更新まで認知機能検査を受ける義務、機会はありませんでした。たとえ第3分類と判定されても、75歳以上の高齢者なら、3年の間に認知機能が低下、運転に支障をきたしうります。ましてや、認知機能が低下しているおそれがあると判定された第2分類の方ならなおさらです。にもかかわらず、これまでは全く放置された状態になっていました。しかし、今回の改正では、免許更新時の認知機能検査で第2分類、第3分類と判定された75歳以上のドライバーであっても、右図にあるような信号部無視など18の認知機能低下時に犯しやすい違反をした場合、臨時の認知機能検査が義務付けられました。この結果、認知症と判断されれば当然免許取消しまたは免許停止となります。このように次回免許更新までの3年間に認知機能低下が疑われた場合、医師の診断を受けなければならなくなりました。
さらに臨時の認知機能検査で認知症の恐れがなくとも、直近の認知機能検査と比較して認知機能が低下していた場合、臨時高齢者研修を受けなければなりません。
また、そもそも免許更新時の認知機能検査で第2分類、第3分類と判定されても、本年度より3時間(第2分類)、2時間(第3分類)の高齢者研修が義務付けられています。
以上の如く臨時認知機能検査制度、臨時高齢者講習制度が新設され、医師の診断を受けなければならない機会が増え、三鷹市内でも100人以上が対象者になるのではないかと推測されています。
ところで、この医師の診断書ですが、認知症に関して専門的な知識を有する医師(専門医)または認知症に係る医師(主治医)の診断により作成されたものを提出することになっています。ですから、当院でも認知症のある75歳以上の高齢ドライバーが診断書発行を依頼する場合もありえます。
さらにこの診断書様式ですが、公安委員会が示した「診断書記載ガイドライン」の内容に応じた必要事項が記載されていなければなりません。医師の自由裁量の様式では不可です。この様式では、単に認知症の有無のみならず、認知症の病型分類を診断する必要があります。
まず、健常者や、認知症と診断するほどではないが認知機能の低下がみられる状態、「軽度認知障害、mild cognitive impairment;MCI」を除外し、認知症(広義)疑いを選別します。広義の認知症疑い症例の中には、アルコール多飲、薬物、うつ病等の影響で認知機能が低下している場合がありますので、これらを除外します。残った認知機能障害症例の中には、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、薬剤誘起性、甲状腺機能低下症など治療(回復)可能な認知症もありから、これらを除外診断します。残りが狭義の認知症となります。認知症には様々な病型(アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、その他)があります。
病型分類まで診断するためには、頭部CTあるいはMRI検査が必要となります。ですから当院のみで診断書を完成させることは不可能です。
そもそも診断書作成を依頼される方は、引き続き車の運転を希望されているから来院されるわけです。運転を希望されなければ自主返納すればよくわざわざ認知症の診断書は不要です。運転免許証を身分証明書として所持したいと考えているだけなら、
自主返納した場合、生涯身分証明書として使用できる運転経歴証明者を発行してくれます(認知症との結果になった診断書のため運転免許取消しまたは停止となった場合、この証明書は発行してもらえません!さらに、自主返納した場合、地方自治体や各種企業によっては様々な特典を用意しています。ちなみに、
三鷹市の場合、住民基本台帳カードを無料(通常500円)で交付してくれるだけですが。
また、運転免許の更新時や、運転中に一定の違反行為をして認知機能検査を受検、第1分類と判定されたということは、免許更新時期、場所を認識したり、現実自動車の運転をしたりしている方なわけですから、
ある程度生活が自立しており、自ら認知症との病識のない方、少なくとも中等度以上の認知症ではない方が診断書発行を希望されているということになります。そのような方に、本人の希望、認識とは裏腹に、認知症と診断し運転免許取消しまたは停止となるような診断書を発行するからには、一縷の疑念もない診断書としなければ、患者さんの納得は得られません。
このような状況を鑑み、当院では、診断書発行を希望し来院された場合、以下のように対応します。
1、当院通院中でない方の場合、診断書の発行をお断りし、認知症専門医(
杏林大学もの忘れセンターや
のぞみメモリークリニックにご紹介します。
2、当院通院中の方の場合、自主返納の特典と人身事故を起こしたときの重大性をお話し、自主返納をお勧めします。
3、自主返納を固辞、診断書発行を希望された場合、当院単独で診断書発行が不可能 であることをご説明し、紹介状を作成、専門医をご紹介します。