ご希望される場合は事前にお電話でご予約くださいますようお願い致します。
★印の検査はお申込みをいただいた時点で専用の容器をお送り致しますので、お早めにお願い致します。
◆印のついた検査は同日できない場合もありますのでご了承ください。
(金額は税込、令和6年4月1日現在)
1) |
甲状腺 |
甲状腺刺激ホルモン(TSH)
※甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や低下症(橋本病)の早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
2) |
糖尿病 |
HbA1c(ヘモグロビンA1c)
※糖尿病を診断するための検査で、直近「1~2か月間」の血糖値に比例して変動します。そのため、血糖値(血中ブドウ糖濃度)と異なり、食直後に採血しても変わらず、正確に診断できます。 |
1,650円 |
インスリン抵抗指数(HOMA-R)
※血糖降下ホルモンのインスリンが効きにくい体質の有無を調べます。 |
2,200円 |
3) |
頚動脈 |
◆頚動脈超音波検査
※好発部位である頸動脈の動脈硬化の有無を調べます。 |
7,700円 |
4) |
上腹部 |
◆腹部超音波検査
※肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、脾臓などの腫瘍、ポリープ、炎症、結石などの有無を調べます。 |
5,500円 |
◆肝線維化/脂肪化検査
※通常の腹部超音波検査に、肝線維化=肝硬度(SWM法)と脂肪化(ATT法)の程度を測定する検査を追加。最近、脂肪肝が肝硬変、肝癌のみならず大腸癌、乳癌を引き起こすことが明らかになっています。通常の腹部超音波検査で見つからない軽度の脂肪肝を拾い上げ、脂肪肝から肝硬変になっていないか調べます。 |
2,750円 |
5) |
心臓 |
運動負荷心電図検査
※狭心症の早期発見と心筋梗塞の予防に役立ちます。 |
3,300円 |
NT-proBNP(採血)
※心臓は血液の循環ポンプですが、そのポンプが問題なく機能しているか調べます。 |
2,200円 |
6) |
肺 |
★喀痰細胞診検査(自己採取)
※胸部X線では見つかりにくい肺門型肺がん等の発見に役立ちます。 |
3,300円 |
7) |
新型コロナウイルス |
中和抗体検査(採血)
※中和抗体の量を調べます。以下がよい適応です。
1、気付かないうちに新型コロナに感染していないか
2、以前の風邪症状がCOVID-19でなかったか
3、予防接種により、感染予防に十分な抗体を獲得しているか
4、企業防衛のため、職場の抗体保有者の割合を調べたい
5、不特定多数の方と接する仕事に従事している
6、感染で重症化しやすい高齢者や基礎疾患のある方と同居している
|
6,600円 |
8) |
胃 |
ペプシノゲン(採血)
※この検査は胃がんの高危険因子となる胃粘膜の老化・委縮性を検査します。(但し、胃切除手術をした方は結果が陽性となりお受けいただいても無意味となります) |
2,200円 |
★ヘリコバクターピロリ(採便または採血)
※潰瘍、胃の老化、胃がんの原因の一つといわれているピロリ菌の有無を調べます。 |
2,200円
2,200円 |
◆上部消化管内視鏡検査
※食道・胃・十二指腸を内視鏡で観察します。経鼻・経口お好きな方を選択できます。(要予約)
※胃レントゲン検査から変更する場合の追加料金は、4,950円です。 |
15,950円 |
9) |
前立腺 |
腫瘍マーカーPSA(採血)
※前立腺がんの早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
10) |
C型肝炎 |
HCV抗体反応(採血)
※C型肝炎ウィルス感染の有無を調べます。 |
2,200円 |
11) |
婦人科 |
◆婦人科内診+子宮頚部細胞診
※婦人科医による子宮触診と子宮頚部細胞採取 |
5,500円 |
乳房視触診 |
2,200円 |
乳房 |
◆乳房超音波検査(マンマエコー)
※乳がん発見のためのより精密な検査、乳腺の発達している20~30歳代までの方にお勧めします。 |
4,400円 |
◆乳房レントゲン検査(マンモグラフィー)
※乳ガン発見のためのより精密な検査、乳腺が脂肪に置き換わってくる40歳代以降の方にお勧めします。超音波とレントゲン両方を受けるのがベストですが、隔年で交互に受ける方法もあります。 |
5,500円 |
12) |
腫瘍マーカー
※腫瘍マーカーとはガン細胞が作る物質を血液から検出する検査です。血液だけではガンの診断は出来ませんが、他の検査(レントゲン、超音波、尿、便検査等)と組み合わせることにより、ガン発見の精度上昇が期待されます。 |
CEA(採血)
※肝臓、胆嚢、膵臓、胃、大腸、肺、乳房、卵巣ガンの早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
CA19-9(採血)
※肝臓、胆嚢、膵臓(体尾部)、胃、大腸、肺、卵巣がんの早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
AFP(採血)
※おもに肝細胞がんの早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
エラスターゼ1(採血)
※膵臓(頭部)がん、膵炎等の疾患の早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
CA125(採血)
※卵巣がんの早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
13) |
循環器 |
血管年齢
※血管の硬さと足の血管の詰まりをしらべます。動脈硬化の検査です。 |
2,200円 |
※small dense LDL(超悪玉コレステロール)
通常の悪玉、LDLコレステロールの中にある動脈硬化惹起作用の強い超悪玉コレステロール。例え通常の悪玉LDLコレステロールが正常でも、この値が高い方は動脈硬化硬化が非常に進みやすい。 |
5,500円 |
14) |
骨塩 |
骨密度
※骨粗鬆症の早期発見に役立ちます。 |
2,200円 |
15) |
眼底 |
緑内障また高血圧、糖尿病、動脈硬化などの内科的疾患の診断に役立ちます。 |
1,650円 |
16) |
眼圧 |
緑内障などの発見に役立ちます。 |
1,100円 |
- 受付時間 午前9時~午後5時まで(水曜日、土曜日は11:30まで)
ただし健診の内容によっては時間と曜日が指定される場合があります。
- 各種団体、組合を通じて受診される方は各要領に基づきお手続きください。
ピロリ菌、ペプシノゲン法とABC検診~胃がんは早期発見の時代から予防する時代になりました!
ヘリコバクター・ピロリ菌感染の人体への影響
1983年胃に生息する細菌、ヘリコバクター・ピロリ菌(下図)がオーストラリアの二人の研究者により発見されました。
胃粘膜とピロリ菌
それまで、胃液に含まれる胃酸は強酸で、金属をも溶かす塩酸が主成分のためとても微生物が生息できるような環境ではないと思われていました。しかし、このピロリ菌の発見により上部消化器疾患の概念が大きく変わることになります。なぜ、ピロリ菌が強酸性の胃酸の中で生息できるのかというと、ウレアーゼという酵素を産生し、胃粘液中の尿素を分解してアルカリ性のアンモニアを作り、自身の周囲の胃酸を中和して棲みよい環境に作り変えていたのです。
ちなみにこの大発見を成し遂げた二人は2005年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。明治乳業が2006年頃からLG21乳酸菌を使ったヨーグルトのTVコマーシャルにその一人マーシャル教授を起用したのでご存知の方もいるのではないでしょうか。
ピロリ菌が胃に感染すると、萎縮性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、MALTリンパ腫、胃原発悪性リンパ腫などの消化器疾患、さらには特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、蕁麻疹などの胃外疾患の原因となることが明らかになっています。数ある細菌の中で唯一悪性腫瘍の原因となりうることが明らかになっている病原体です。
胃粘膜にピロリ菌が感染すると、胃粘膜の炎症、すなわち胃炎が発症します。ピロリ菌感染は持続するため、胃の炎症も慢性化、慢性胃炎になります。さらに、炎症が持続すると胃粘膜が菲く萎縮した状態になっていくため、慢性萎縮性胃炎と呼ばれるようになります。下図は正常胃粘膜皺襞と萎縮性胃炎を表したものです。
正常胃粘膜皺襞と萎縮性胃炎
深々とした絨毯の毛が使い古されて擦り切れた状態をイメージしてください。胃の粘膜の萎縮は加齢とともに徐々に進行していくため、ピロリ菌が発見されるまでは、萎縮性胃炎は胃の老化現象と考えられていました。まれに萎縮性胃炎の見られない高齢者がいますが、その方々は実はピロリ菌に未感染だったのです。つまり、胃の老化=萎縮性胃炎はピロリ菌感染が原因であって、ピロリ菌に感染していなければたとえ高齢になっても、胃の粘膜は若々しい状態であることが明らかになりました。
ピロリ菌の感染経路は完全には解明されていませんが、経口感染であろうと考えられています。具体的には胃の免疫機能が未発達な乳幼児期(3~5歳未満)にピロリ菌保菌者の親との濃厚接触(接吻や口移しで離乳食を食べさせる:口口感染)、糞便に汚染された水や食物の摂取(糞口感染)による感染が有力視されています。成人になってからの感染は一過性に終わり持続感染することはほとんどありません。以前は世界中のほとんどの人が保菌者でしたが、先進国などでは上下水道や衛生観念の普及とともに保菌率は急速に低下しています。下図「先進国および開発途上国におけるピロリ菌感染率(パリエットホームページより)」をご参照ください。
日本も同様に高齢者ではほとんどの方が保菌していますが、20歳以下の人では既に保菌率は10%程度まで減っています。下図「日本人のピロリ菌感染率の過去と将来予測(武田薬品工業ホームページより)」をご参照ください。)
このように昔は日本人のほぼ全員がピロリ菌保菌者であったため、ピロリ菌による萎縮性胃炎は日本人のほぼ全員に発症していました。そのため、萎縮性胃炎=加齢現象と考えられていたのです。
ピロリ菌感染の有無を検査する方法には大きく分けて内視鏡による生検組織を必要とする侵襲的方法と内視鏡検査を必要としない非侵襲的方法があります。
侵襲的検査には、
- 直接ピロリ菌を分離培養する方法(組織培養法)
- 胃粘膜組織を顕微鏡で観察し、直接ピロリ菌を観察する方法(組織鏡検法)
- 胃粘膜組織中のピロリ菌が有するウレアーゼ活性の有無を調べる方法(迅速ウレアーゼ検査)
非侵襲的検査には、
- 検査薬を服用後の呼気を採取し、胃内のウレアーゼ活性の有無を調べる方法(尿素呼気試験)
- ピロリ菌に感染すると体内で産生される血中または尿中の抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を測定する方法
- 糞便中のヘリコバクター・ピロリ抗原、すなわち菌のかけらを調べる方法、などがあります。
どの検査方法も一長一短があり、100%完全な検査方法ではありません。
一つの検査方法で陽性となった場合、感染ありと診断して間違いありませんが、逆に陰性となっても検査感度が100%でないため、必ずしも未感染とは断言できません。必ず、別の方法で再検査して陰性を再確認する必要があります。
ペプシノゲン法について
ペプシノゲンとは胃液の中に含まれる消化酵素ペプシンのもととなる物質です。ペプシノゲンにはⅠとⅡがありますが、胃粘膜の萎縮とともにその分泌量が変化するため両者を測定することによって胃粘膜の萎縮の程度を調べることができます。ペプシノゲンは胃粘膜細胞から血液中に少量移行するため胃液を採取しなくとも血液で測定することができます。つまり、血液検査であるペプシノゲン法により簡単に胃粘膜の萎縮度を調べることができるのです。
萎縮性胃炎は胃がんの前がん病変、つまり、萎縮性胃炎になるほど胃がんになりやすいことが解っていました。そのため、血清ペプシノゲン検査を行うことにより萎縮性胃炎の程度、すなわち胃がんになりやすさを推定することができるのです。下図は日本の代表的な地域のペプシノゲン法陽性率と胃がん死亡率をグラフにしたものです。このようにペプシノゲン法の陽性者の多い地域ほど胃がん死亡率が高いことがはっきりと見てとれます。
胃癌死亡率とペプシノゲン法
このようにペプシノゲン法は、胃がんになりやすさ、リスクを評価する検査です。ですから、ペプシノゲンが陽性だからといって今現在胃がんが発生しているとは限りません。ペプシノゲン陽性者に対して胃内視鏡検査などを実施、胃がんの有無を調べる必要があります。
従来胃がん早期発見のための検査としてバリウムを使った胃X線検査が行われています。ペプシノゲン陽性者に限定して内視鏡を実施する方法と胃X線検査で異常を指摘された方に胃内視鏡検査を実施する方法を比べた場合、胃がん発見率においてペプシノゲン法は胃X線検査と同等以上であるとの結果が得られています。そのため、昨今ペプシノゲン法は胃がん検診で活用されています。しかし、厚労省は、ペプシノゲン検査は治療目的ではなく予防目的であるとして保険適用を認めていません。
ペプシノゲンはいくつかの条件で検査値が変化するため正確に測定することができません。腎不全(血清クレアチニン値≧3mg/dlが目安)、胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎の治療薬である胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬(タケプロン®、オメプラール®、オメプラゾン®、パリエット®、ネキシウム®)を2ヶ月前以内に服用していた場合、ペプシノゲン値は高くなり、偽陰性になることがあります。逆に、胃切除術後の場合ペプシノゲン値は低くなり、偽陽性になることがあります。そのため、これらに該当する方は検査対象からはずすべきです。
また、すでに食道、胃、十二指腸疾患で治療中の方や、胃や十二指腸疾患が疑われる症状のある方は、健診を受けるより、保険診療として医療機関で精密検査や治療を受けるべきです。
ペプシノゲン値は成人では逐年測定しても5年程度ではほとんど変化しないため、一度測定したら次回検査まで5年程度間を空けてもかまわないと考えられていました。しかし、後述するようにピロリ菌の除菌治療が一般化すると、ペプシノゲン値が変動する症例が散見される可能性があり、この判断に関してはまだ流動的です。
胃がんリスク検診、ABC検診について
一方、上述のように萎縮性胃炎の原因は、ピロリ菌であることが明らかになり、
「ピロリ菌感染→慢性萎縮性胃炎(ペプシノゲン法陽性)→胃がん」
といった病気の成り立ちが解明されてきました。下図のようにピロリ菌感染者と非感染者を10年以上観察したところ、ピロリ菌感染者の約2.9%から胃がんが発症しましたが、逆にピロリ菌に感染していなければ胃がんの発症はほとんどない(感染の有無が厳密に調べられた最近の研究では、ピロリ菌未感染胃癌は、胃がん患者1,000人のうち、たった5人程度しかいませんでした)ことが明らかになりました。もちろん、ピロリ菌に感染すると将来全員が胃がんになるわけではありません。後述の如くピロリ菌感染者の0.4~0.5%が1年間に胃がんを発症します。積算すると生涯でピロリ菌感染者の約1割の方が胃がんを発症します。ピロリ菌感染に加え、①塩分過剰摂取、②野菜、果物の不足、③喫煙、④発がん物質、メンタルストレスなどのリスク要因が加わり、発症するのではないと考えられています。
ピロリ菌感染者の胃がん非発症率
以上の知見を踏まえ、ピロリ菌検査とペプシノゲン法を組み合わせた胃がん検診が考案され、徐々にその有用性が認められ、自治体検診などに利用されてきています。具体的には、血清抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体と血清ペプシノゲン値を組み合わせその陽性陰性より下図(日本胃がん予知・診断・治療研究機構のホームページより)のように4群に分類します。
胃がんリスク検診(ABC検診)
この方法が考案された当初、C群とD群は単にペプシノゲン陽性のC群として一まとめに分類されていたためABC検診と呼ばれていました。そのためC群とD群に分類された現在も、慣習でABC検診と呼ばれています。
A群はピロリ菌陰性でペプシノゲン陰性、すなわち胃粘膜の萎縮が見られない群です。胃は健康的で若々しい状態です。そのため、胃がんはほとんど発生しません。ほとんどであってまったくではないのは、A群の中には以前はピロリ菌が陽性でB群と判定されていた方が後述のようにピロリ菌が除菌され、今回A群と判定されている方(偽A群と呼びます)も混在しているからです。現在、偽A群は10~20%と推定されています。さらに、広島大学のデータでは、胃がんのうち0.66%は、ピロリ菌感染既往もなく、つまり偽A群でもなく、ピロリ菌とはまったく無関係な胃がんが存在することが明らかになってきました。タバコを吸わなくても肺がんになる方がいるように、極わずかではありますが、ピロリ菌に感染していなくても胃がんになる方がいます(印環細胞癌と胃底腺型胃癌)。逆にA群の方は胃酸分泌が最も盛んなため、過剰分泌された胃酸が食道に逆流するために発症する逆流性食道炎の発生頻度が最も多い群です。ちなみに私自身はA群です。
B群はピロリ菌に感染していますが、未だ胃粘膜の萎縮が進んでいない群です。何れ胃粘膜の萎縮が進展するでしょうから、将来的には胃がんが発生しやすくなるはずです。現時点での年間胃がん発生頻度は1000人に1人、つまり、0.1%程度と少ないです。しかし、高度な胃の炎症を背景とした未分化型胃がんは発生しやすいので注意が必要です。また、B群はピロリ菌の粘膜障害性による胃潰瘍に留意すべき群といえます。
C群はピロリ菌に感染し、胃粘膜の萎縮も既に進んでいる状態です。ですから年間胃がん発生頻度は増加し500人に1人、つまり、0.2%程度になります。C群では胃粘膜萎縮を発生母地とする胃腺腫や過形成ポリープなども発生します。
D群は胃粘膜の萎縮が進展していますが、ピロリ菌に感染していない群です。胃粘膜の萎縮があるにもかかわらずピロリ菌に感染していないのは、胃粘膜の萎縮があまりにも進み過ぎ、胃粘膜がほとんどなくなり、ピロリ菌が逆に棲めなくなってしまったのからです。ただ、実際にはピロリ菌の生息数が減少しただけで、ほぼ全例でピロリ菌はわずかながら生息しています。D群は胃粘膜の萎縮が最も進んだ状態ですから、最も胃がんの発生しやすい状態で、年間80人に1人、1.25%も胃がんが発生します。10年観察すれば8人に1人が胃がんを発症します。お年玉付き郵便葉書きの4等、お年玉切手シートの当選確率は2%です。つまり、D群は、お年玉切手シートが当ったことがある方ならありうる確率、かなり高い確率といえます。これらのデータは48から49歳の方を対象者としたデータのため、高齢者ではさらに高くなると思われます。
BからD群の分類された方は2次精密画像検査として胃内視鏡検査を実施します。毎年実施するに越したことはないのでしょうが、これまでの研究でB群では3年毎、C群で2年毎、D群で毎年実施すると従来の胃X線検査と遜色ない胃がん発見率が得られるとの結果が出ています。なお、A群に関してはがんの発症がほぼ0なわけですから基本的にファローアップ不要です。しかし、実際には以前はピロリ菌に感染し、胃粘膜の萎縮が少し進んだ後、ピロリ菌を除菌された方などが紛れ込んでいる可能性があります。というのも後述の如く、ピロリ菌は2種類の抗菌剤とプロトンポンプ阻害剤(PPI)という胃酸を抑制する薬を同時に内服して除菌するのですが、PPIは胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎の治療薬として頻繁に使用される薬剤です。ですから、それらの持病のためPPIを常用している方が、偶然、気管支炎、副鼻腔炎等々抗生物質が必要な病気になり、両者を併用すると確率は低いですが、偶然ピロリ菌が除菌(自然除菌)されてしまうことが報告されています。自身が気づかないうちに持続感染していたピロリ菌が偶然除菌されることがありうるのです。ピロリ菌除菌群はE群と呼ぶこともあります。自然除菌の場合、ピロリ菌を除菌したとの認識、自覚がありませんから、その一部は偽A群としてA群の中に紛れ込んでいます。そういった可能性を考慮すると、定期的な胃X線検査や5年に1度程度の内視鏡検査を受けるか、尿素呼気テストなどでピロリ菌陰性を再確認した方が良いでしょう。
ABC検診の問題点
ABC検診はこのように非常に有用な検診手段ですが、いくつか注意する点があります。
ピロリ菌検査には上述のごとくさまざまな方法がありますが、ABC検診では血清抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体検査を使用しています。それは、
- 胃内視鏡を受ける必要がなく非侵襲的~受診者に負担の少ない、医療事故の発生しにくい検査方法であること
- ペプシノゲン検査が血液検査であるため、1回の採血で検査が完了すること
などのためです。安全かつ簡便であることは受診率を向上させる上で非常に重要な点です。従来の胃X線検査はその有用性が実証されてはいますが、検査を負担に感じる方や嫌う方が少なからずいるため、どうしても受診率が上がりませんでした。当たり前ですが、どんなに胃がん発見率の高い素晴らしい検査法であっても、兎に角まず受検してもらわなければその効果は発揮できません。
血清抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体検査は、免疫の発達が不十分な小児や、免疫が衰えてきた高齢者では偽陰性となる場合があります。また、上述のように胃粘膜の萎縮が進み過ぎるとピロリ菌が棲めなくなり、ピロリ菌抗体価は減少、陰性になることもあります。
また、ピロリ菌に感染し、抗体価が上昇するのは1ヶ月程度を要します。ですから、感染後1ヶ月以内に受検すると陰性となります。
さらに、除菌後抗体価は徐々に低下していきます。ですから、ピロリ菌抗体陰性といって、一度もピロリ菌に感染したことのない方(A群)と以前は感染していたが今は感染していない方(E群)が混在しているはずです。ですから、ABC検診実施時には必ず問診で過去のピロリ菌除菌の有無を確認する必要があります。さらにさらに、ピロリ抗体検査は10.0U/ml以上が陽性(ピロリ菌感染有り)の基準値となっています。ですからピロリ菌陰性のA群は9.9U/ml以下です。しかし、3.0~9.9U/mlの間は陰性高値といわれ、A群の約2割を占めています。この陰性高値の76.9%が過去の感染者で、9.3%(2割のうちの9.3%のため、0.2×0.093=0.019で都合A群の約1.9%)は現感染者であったことが報告されています。ですからたとえA群と判定されても、陰性高値の方は別法(便中ピロリ菌抗原、尿素呼気試験など)でピロリ菌感染の有無を再確認する必要があります。このようにABC検診も含めピロリ抗体測定結果の解釈は複雑なため、診察室の中だけでは充分に説明できません。そのため、当院ではヘリコバクター・ピロリ抗体価が3.0~9.9U/mLの陰性高値を示した方に、「ヘリコバクター・ピロリ菌検査を受けた方へ」と題するリーフレットを配り、診察室に入る前に一読をお願いしています。
ピロリ菌除菌療法と胃がんの予防について
ABC検診の結果、胃がんの高リスク群と判定され、早期発見のため定期的に胃内視鏡を受検することは大切ですが、
「ピロリ菌感染→慢性萎縮性胃炎(ペプシノゲン法陽性)→胃がん」
という病気の成り立ちが解明されているわけですから、当然、たとえピロリ菌に感染していようとも駆除することができたら胃がんを予防できるのではないかといった期待が沸いてきます。
現在、ピロリ菌は2種類の抗菌剤と胃酸分泌を抑制するプロトンポンプ阻害剤(胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎の治療薬、胃酸を抑制すると抗生物質の効果が高まるため投与する)を1週間内服することで70~80%の確率で駆除、すなわち除菌することが可能です。1回目の除菌治療が失敗しても、薬の種類を変えるとやはり90%程度の確率で除菌可能です。ですから積算すると約97%の方で除菌可能です。しかし、換言すると残念ながら約3%の方は二次除菌でも失敗します(後述の「タケキャブ錠発売に伴うピロリ菌除菌治療の延期につて」に記載したように、現在は二次除菌まで失敗する確率は0.15%程度に減少しています)。三次除菌からは保険証が使えないため、なんとしても二次除菌までで成功したいところです。明治乳業のLG21乳酸菌を使用したヨーグルトを食べると除菌成功率が10%余り上昇することが報告されています。具体的は除菌前3週間から除菌中の1週間を含め4週間、レギュラータイプの112g入りのヨーグルトを1日2個食べて実験しています。無糖の商品も発売されていますので病状に合わせ適当に食するとよいでしょう。除菌治療の副作用は下痢、味覚異常、肝機能障害、皮疹、出血性腸炎などで治療を止めれば治ります。特に危険な副作用はありません。
ピロリ菌を除菌すると胃や十二指腸潰瘍がほとんど再発しなくなります。また、胃MALTリンパ腫、過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血なども改善することが既にわかっています。また、胃がんに関しては、除菌により明らかに胃粘膜の萎縮は改善しますし、現時点でも既に、
- 胃がんの発症率が30%以下に減少する
- 若年で除菌したほうがより有効性が高い
30歳までに除菌すると99%胃がんを予防できます。
男性は50歳頃まで、女性は60歳頃まで除菌すると90%以上予防できます
- 高齢者においても胃粘膜の萎縮、老化を阻止するのに有効である
- 胃がんの早期発見に有用(胃粘膜がきれいになり、胃がんが発見されやすくなる)
が判っています。
除菌適応の年齢制限について、高齢などの制限はありません。しかし、一般に除菌による副作用が出やすくなります。また、除菌治療に使用される薬剤の添付文書効能効果欄に「通常、成人には、・・・」と記載されているため、未成年者に対する除菌治療の保険適応はありません。ただ、上記の如く若年で除菌すればするほど胃がん予防効果が高まるため、中学生以上の未成年には本人、家族の同意を得た上、自費診療での除菌となります。ちなみに、佐賀県では2016年より全国に先駆け県内全域の中学3年生を対象に学校健診にピロリ菌検査を導入、陽性者には除菌治療費の助成も始めました。なお、上述の如く成人以後の感染は一過性に終わり持続感染することはほとんどありませんから、一度除菌に成功するとピロリ菌に再感染する確率は、きわめてまれでほぼ0と考えてよいほどです。
従来、ピロリ菌除菌療法のみならずピロリ菌の検査は、胃十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がん内視鏡的粘膜下層剥離術後しか保険適用がありませんでした。各種学会が保険適用の拡大を求め厚労省に要望していましたが、医療費抑制政策のため認められていませんでした。2009年日本ヘリコバクター学会がピロリ菌感染者はすべて除菌治療の適応者であるとのステートメントを発表、マスメディアでも報道されました。そのため、胃がんの家族歴のある方など、胃がんに対して意識の高い方が自費でのピロリ菌検査や除菌を希望し来院されていました。しかし、ついに、2013年2月21日より萎縮性胃炎に対しても除菌治療が保険適応なりました。ピロリ菌に感染すると全例萎縮性胃炎になりますから、実質的にピロリ菌感染者全員の除菌治療が保険適応になりました。ただし、あくまでも胃がん予防のための除菌治療ですから、除菌前に胃内視鏡検査を行い既に胃がんができていないか確認することが義務付けられています。
当院では、健診スクエアを併設しているため、従来ABC検診を実施しています。ピロリ菌抗体陰性の場合、便検査での再検査をお勧めしていますので、4,200円~6,300円で実施できます。さらに、B~D群と診断された場合、自費で除菌治療を受けることもできます。当院は医薬分業しているため処方箋を発行するのみです。処方箋はどちらの薬局でもお薬に交換することができます。自由診療のため薬代に定価はなく6,000~8,000円程度のようです。なお、除菌後はさらに除菌の成否を確認する検査が必要です。除菌が失敗した場合、さらにもう1回同程度の費用が必要になります。おおよそ検査代から薬代まで含め一次除菌ですめば19,000円~二次除菌まで行った場合31,000円程度です。保険証を使わずともこの金額で胃がんになる確率が激減するなら決して高い買い物ではないと思います。もちろん、除菌により胃がんの発生が完全に0になるわけではないので、除菌後も定期的に胃がん検診を受診されることを重ね重ねお勧めします。
除菌成功後のデメリットとして、胃粘膜が再生するため胃酸の分泌が回復、逆流性食道炎を発症しやすくなります。すなわち、A群にもどっていくからです。食欲も旺盛になり体重が増加しやすくなります。お酒が以前より強くなって肝機能が悪化した方もいました。これらの点は必ずしもデメリットというべきものではないかもしれません。
将来的にはABC検診が佐賀県のごとく若年層にも普及し、胃粘膜の萎縮が進展する前のピロリ菌若年保菌者が皆除菌され、日本中から萎縮性胃炎が一掃され、胃がん検診そのものが不要な時代になることを切に望んでいます。
当院ではそれまでの間、胃がんの早期発見、さらには予防の観点から来院されるすべての方に折に触れ一度ABC検診を受診するようお勧めしています。
高齢者におけるピロリ菌除菌療法の意義
本項ではピロリ菌除菌による胃がん予防に焦点を当てて解説してきました。しかし、記載したように高齢者(65歳以上)、とくに後期高齢者(75歳以上)になると除菌後の胃粘膜萎縮の改善スピードは若年者に比べどんどん遅くなり、胃がん発症予防効果も減弱します。年を取れば取るほどケガが治りにくくなるのと同じです。では、高齢者のピロリ菌除菌はあまりメリットのない治療法なのでしょうか。
そもそもですが、先述したようにピロリ菌感染が引き起こす病気は「萎縮性胃炎→胃がん」のみではありません。胃・十二指腸潰瘍、MALTリンパ腫、胃原発悪性リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血、蕁麻疹など多岐にわたります。
ところで、高齢になると動脈硬化性疾患を罹患する方の比率が急激に増加します。動脈硬化性疾患とは、血管が老化し、段々と詰まっていく病気です。具体的には狭心症・心筋梗塞や脳梗塞などです。それぞれ日本人の死因の2位と4位です。動脈硬化については脂質代謝内科の項をご参照下さい。
動脈硬化疾患では血液をサラサラにして血管が詰まるのを予防する薬を服用します。具体的には低用量アスピリンを服用、血液を固める働きのある血小板の機能を阻害し、血管の細い場所で血液が凝固するのを防ぎます(抗血小板療法)。低用量アスピリン服用すると、脳梗塞の再発が約25%低下します。
しかし、低用量アスピリンの副作用として胃粘膜傷害による潰瘍発症があります。その詳細な機序は割愛しますが、アスピリンは、シクロオキゲナーゼ-1(COX-1)を阻害、プロスタグランジン生成を抑制、胃粘膜の微小循環障害、組織修復抑制、粘液産生減少をきたし、潰瘍(胃粘膜に傷つき、ポケット状の穴が開くこと。下図参照(「NATOM IMAGES ©Callimedia」より転載))を誘発すると考えられています。
低用量アスピリンを1か月以上服用すると10.7%に潰瘍が発症したとのデータがあります。しかもそれらの8割の方は無症状でした。先述の如く低用量アスピリンを服用するのは高齢者ですが、高齢者潰瘍は無症状の場合が多いのが特徴です。潰瘍を発症した場合、時にその傷口から大量に出血することがあります。低用量アスピリンを服用した場合、重症消化管出血を生じる割合は、年0.12%と報告されています。そのため、低用量アスピリンを服用するとき、潰瘍予防のための胃薬(プロトンポンプ阻害薬;PPI)の併用が必須となっています。
アスピリンは当初鎮痛剤として開発された薬です。解熱・鎮痛・抗炎症薬には様々な種類がありますが、アスピリンはそのうち、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に分類されるものです。NSAIDsにはアスピリン以外に、商品名で挙げるとオパイリン、ポンタール、ボルタレン、インテバン、インドメタシン、ブルフェン、二フラン、ロキソニン、フルカム、ロルカム等々多数あります。NSAIDsは最も頻用される解熱鎮痛剤で、膝や腰などの関節の痛み、腰痛、関節リウマチ、五十肩、打撲や骨折、痛風、歯痛、頭痛、風邪の咽頭痛や発熱など様々な痛みに使用されています。テレビCMで頻繁に宣伝されていますし、皆さんも一度や二度、服用されたことがあるのではないでしょうか。これらは、アスピリンと同じ作用機序の薬ですから、NSAIDsはみな一様にアスピリン同様の胃粘膜傷害の副作用があります。非常に使用量の多い薬ですから、副作用による胃・十二指腸潰瘍症例も珍しくなく、「NSAID潰瘍」と呼ばれています。
そもそも消化性潰瘍の二大要因は、ピロリ菌感染とNSAIDsで、その他の要因の潰瘍はわずか2%しかありません。某大学病院で出血性潰瘍で緊急入院された方の服薬歴を調べたところ、NSAIDsが35.3%、抗血小板薬・抗凝固薬(低用量アスピリンやアスピリン以外の抗血小板薬、ワーファリンなど血液の二次凝固を抑制する薬)が25.4%、副腎皮質ホルモンが5.6%でした。高齢者では、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞の再発予防として低用量アスピリンを服用される以上に、腰痛や膝痛などの関節痛でNSAIDsを服用されている方の方が多いのは明らか。ピロリ菌感染率は高齢になるほど高くなりますから、高齢者の場合、ピロリ菌感染者が、NSAIDsや低用量アスピリンを服用している場合も決して珍しくありません。このような方は潰瘍の二大発生要因が重複するため、高率に潰瘍を発症します。
このような状況を鑑みると、ピロリ菌感染高齢者における除菌療法を意義は、単に胃がん発症予防のみならず、むしろそれ以上に胃・十二指腸潰瘍予防、とくに抗血小板療法やNSAIDs服用中に頻発するNSAID潰瘍予防にあるといっても過言ではありません。ですから、高齢者であっても、ピロリ菌感染者には積極的に除菌療法をお勧めしています。
タケキャブ錠発売に伴うピロリ菌除菌治療の延期について
2015年2月末頃を目途に武田薬品工業からカリウムイオン競合型アシッドブロッカー「タケキャブ錠」が発売になります。この薬は従来プロトンポン阻害剤と呼ばれていた胃酸分泌抑制薬の新薬で、従来の薬剤(オメプラゾン、オメプラール、ネキシウム、タケプロン、パリエット)と比べ明らかに胃酸分泌抑制作用が強力です。これら胃酸分泌抑制薬は、主に胃や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの治療に使用されますが、さらに重要な役割としてヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療に使用されます。
先述の如くピロリ菌除菌治療では、2種類の抗生物質(菌の生育を抑える薬)とこの胃酸分泌抑制薬の合計3種類の薬剤を投与します。胃酸分泌抑制薬を投与する目的は、抗生物質は胃内の酸性の環境では効果を発揮しにくいため、胃酸分泌を抑制することにより胃内pH(酸性~アルカリ性を表す指標)を中性に近づけるためです。ちなみに、使用する抗生物質一つ、クラリスロマイシンは胃内pHを中性近くまで上昇させるとその作用は100倍以上増します。ですから、ピロリ菌除菌療法ではより強力な胃酸分泌抑制薬を使用するほど除菌成功率が増加します。
現在、ピロリ菌の一次除菌の成功率は、ピロリ菌の耐性化が進んだため、70~80%程度に下がっています。一次除菌が失敗した場合、二次除菌を行いますがその成功率は約90%程度です。ですから、現在、一次~二次除菌療法で最終的に97%の方がピロリ菌の除菌に成功します。しかし、換言すると約3%の方は除菌に失敗します。現在、三次除菌療法のレジメンは学会等で鋭意研究されていますが確立されたものはありません。また、そのため保険適応が無く、挑戦するにしても自費で行わなければならず、治療費、検査代を含めると1万円前後掛かります。もちろん三次除菌も必ず成功するとは限らず、四次除菌を試みている医療機関もあります。
ピロリ菌除菌の成否は、患者さんにとって将来の胃がん発症リスクを左右する大問題です。また、ピロリ菌は唾液を介して我が子にも感染しますから、自分一人だけの問題にも止まりません。それだけに何としても成功させたいものです。
先述のように今回発売されるタケキャブ錠は、従来の薬品より明らかに胃酸分泌抑制作用が強力なため、ピロリ菌一次除菌療法に使用した場合の75.9%に比べ92.6%と著しく除菌成功率が増しています。また、同様二次除菌療法の成功率は、従来の90%に対し98.0%と明らかに改善しています。一次、二次除菌を積算すると成功率は約99.85%となり、ほぼ全員が成功するといっても過言ではありません。失敗する方は0.15%とこれまでの1/20に激減します。
ピロリ菌除菌は、早く実施すればするほど胃がんになる確率が低くなることが明らかになっています。一方、ピロリ保菌者の感染時期はせいぜい3歳までの幼少期であることが明らかになっています。ですから、例えば40歳で除菌療法を受ける方は既に約40年間ピロリ菌を胃で飼い続けていたことになります。そういった点を考慮すれば、除菌治療が1~2ヶ月程度遅れてでも、必ず成功する治療薬を選択すべきだと私は考えます。そのため、2015年2月末頃まで当院でのピロリ菌除菌療法を中断、タケキャブ錠発売後、タケキャブ錠を使用した除菌療法を再開することにしました。今後も患者さんにとって最大の利益となるような治療法を提供していきます。
追記 2015年2月予定通り、ボノブラザンフマル酸塩(商品名:タケキャブ錠)が発売されたため、それ以後はタケキャブを使用したピロリ菌除菌治療しかしていませんが、現在まで全例除菌治療は成功しています。
2017年度から胃がんリスク層別化検査、ABC検診の判定方法が変更になりました
ABC検診が広く実施されるようになり、新しい知見が集積、2017年4月1日から胃がんリスク検診(ABC検診)の分類法、判定基準が、胃がんリスク層別化検査運用研究会が監修し発表した「新しいABC分類胃がんリスク層別化検査(ABC分類)2016年度改訂版 運用の手引き」に準拠し変更になりました。その概要をお話しします。なお、詳細は、上記手引きをご覧下さい。
まず、C群(ピロリ菌に感染し、胃粘膜が萎縮している状態)とD群(胃粘膜萎縮が進行し、ピロリ菌が住めなくなり、いなくなった状態)を区別する意義が乏しいとする意見が多く、C群とD群を合わせC群となりました。要はABC検診考案当初の分類法に戻すことになりました。これで名実ともにABC検診となりました。胃粘膜萎縮が進行すると棲み家である胃粘膜が減り確かにピロリ菌の数は減っていきます。そのためピロリ抗体価は基準値以下になり、(-);陰性と判断されます。しかし、D群の胃にピロリ菌が全くいないわけではなく、数が減っただけで生息しています。ですから、やはりピロリ菌除菌療法の対象になります。D群は萎縮が進行しているので胃がんになる確率はC群より高めですが、検査後の処置(胃内視鏡検査とピロリ菌除菌)はまったく変わらないため、臨床的には区別する意義は乏しく、合わせてC群とすることになりました。ただ、C群とD群を区別すること禁じているわけではないので従来通りでも構いません。今年度の三鷹市胃がんリスク検診ではABC+E群に分類することになりました。
次に、ピロリ抗体検査の陽性(ピロリ菌がいる)基準が従来の10U/ml以上から3U/ml以上に引き下げられました。これまでも、抗体価が3未満の場合はピロリ菌は陰性(いない)と判断してよいが、3~9.9U/mlの場合、完全に陰性とは言い切れず、グレーゾーンで少なからずピロリ菌現感染者が紛れ込んでいることが指摘されていました。そのため2015年度から抗体価3~9.9U/mlの場合「陰性高値」と表現し、陽性者同様胃内視鏡検査を指示することになっていました。当院でも以前からそのような抗体価の方には、「ヘリコバクター・ピロリ菌検査を受けた方へ」と題するリーフレット配布していました。最近の研究でもやはりこの陰性高値、グレーゾーンの方は、9.3%すなわち100人中約9人が現にピロリ菌に感染しているとのデータが得られています。ちなみに、3未満の完全に陰性(白)と判断される集団にも0.8%ピロリ菌感染者が紛れ込んでいました。一方、10以上の陽性(黒)と診断された集団の中には、過去の感染者が5.4%、未感染者が0.1%いました。このようにABC検診は完全無欠な検査ではありません。胃の画像検査と合わせて総合的に判断しなければなりません。
「陰性高値」の方は、陰性なのに精密検査対象者となり、誤解を招きやすい表現であったため、2017年度よりグレーゾーンの陰性高値を黒(陽性)と改め、シンプルに3以上は陽性、要精密検査となりました。上述の如く、グレーゾーンで陽性の方は9.3%しかいませんが、76.7%の方は過去感染であり、完全に未感染の方は14.0%しかいませんでした。過去感染の76.7%の方は、たとえ現在ピロリ菌はいなくとも、過去感染で多少なりとも胃粘膜が萎縮、傷ついているため、未感染の方より胃がん発症リスクの高い方です。ですから、胃内視鏡検査を進言することは理にかなっています。
少し厄介なのは、ABC検診において、HP抗体陽性基準は3.0以上に引き下げられましたが、HP抗体検査を単独で実施した場合(臨床診断)、従来通り10以上のままということです。検査試薬を製造したメーカーが行った臨床試験から得られたデータにより10以上という基準値を設定、厚労省に申請、検査試薬は承認されているため、それを改めるとなると、莫大な費用を掛けもう一度正式な臨床試験をやり直さなければなりません。その費用負担を考慮、基準値は変えずこれまで通り「陰性高値」という表現で運用していくことになったようです。ですからこれまで通りピロリ菌抗体価3~9.9までのグレーゾーンの方には、別法でのピロリ菌検査(尿素呼気試験、便中ピロリ菌抗原など)を指示します。
当院でも今後は、三鷹市の胃がんリスク検診のみなら当院健診スクエア受診者に対するABC検診においても同様の判定基準で運用しています。
乳がんについて
当院での乳がん検診について
当院での乳がん診療は、あくまでも健診スクエアとしての検診に特化した診療であって、乳がんを疑われた方の生検による精密検査や乳がんの方の治療、診察は行っていません。検診により乳がんの可能性が否定できなかった場合、超音波による再検査で除外診断可能そうな方は当院で超音波検査を受けていただきます。しかし、むしろ乳がんを疑う場合は、杏林大学医学部付属病院や武蔵野赤十字病院、三鷹第一クリニックや受診者の希望される医療機関にご紹介しています。
乳がんの疫学
乳がんの発生増殖には女性ホルモンであるエストロゲンが関与しています。ですから、体内のエストロゲンレベルを高くする要因が乳がんの危険因子になります。具体的には、
- 妊娠や出産経験がない
- 授乳歴がない
- 初経年齢が早い(11歳以下)
- 閉経年齢が遅い(55歳以上)
- 初産年齢が遅い
- 経口避妊薬ピルの内服
- 閉経後のホルモン補充療法(更年期障害)
その他
- 飲酒習慣
- 喫煙習慣
- 運動不足(運動により乳がんリスクが下がる)
- 乳がん家族歴、とくに一親等(親、娘)
- 高脂肪食の摂取(野菜、果物、食物繊維、イソフラボンはリスクを下げる)
- 高身長
- 閉経後の肥満(逆に閉経前の肥満者は閉経前の乳がんリスクを下げる)
- 良性乳腺疾患の既往、MMG上の高密度所見
- 放射線被曝
等です。これらの危険因子の中で自分ではまったくどうしようもないのが乳がん家族歴です。
日本では毎年約8万人以上の女性が乳がんに罹患し、約1万5千人の方が乳がんで亡くなっています。女性が罹患するがんで最も多いのが乳がんで、死亡は大腸がん、肺がん、胃がん、膵臓がんに次いで5番目に多いがんです。乳がんの罹患率、死亡率とも毎年増加しています。(下図、「国立がん研究センター癌対策情報センター」ホームページより)
これは、上記の危険因子をご覧になれば判るとおり、昨今の出生率の低下、生活習慣の変化によるものです。しかし、下図は50~69歳女性のマンモグラフィ検診受診率の各国の比較(「国立癌研究センター癌対策情報センター」ホームページより)ですが、日本の乳がん検診受診率は残念ながら先進諸国の中で圧倒的に低いのが現状です。
乳がんと他のがんとの際立った違いは、下図(「国立癌研究センター癌対策情報センター」ホームページより)のごとく他のがんは高齢になるほど発症しやすくなるのに対し、乳がんは30歳代から増加し始め、40歳代後半にピークとなり、その後は徐々に罹患率が減少することです。つまり、乳がんは他のがんと異なり、子育てや親の介護、仕事などで最も忙しい、充実した時を過ごさなければならない時期に罹りやすいがんなのです。閉経後に乳がん罹患率が低下するのは、エストロゲンの影響が減少するからです。
一方、男性に乳がんに罹患しますが、男性の乳腺は女性より小さいため乳がんに罹患する確率は女性の1/100程度です。そのため、乳がん検診の対象になっていません。
遺伝性乳がんについて
全乳がんのうち約5~10%が遺伝性乳がんです。皆様は米国の女優アンジェリーナ・ジョリー(37歳)さんが乳がん予防のため両側乳房切除術を受けたとの2013年5月のニュース、記憶に新しいのではないでしょうか。遺伝性乳がんの原因として最も多いのがBRCA1/2遺伝子の変異です。この遺伝子は本来がん発症を抑制する遺伝子ですが、その遺伝子配列に変異が生じるとその機能を失い、BRCA1遺伝子変異を持つ米国女性の65%が、BRCA2遺伝子変異を持つ女性の45%が将来乳がんになります。ちなみにジョリーさんも、このBRCA遺伝子に変異があり、将来乳がんになる確率が87%と診断され、両側乳房切除術を受けることを決断したそうです。日本人の場合、BRCA遺伝子変異のある方の生涯乳がん発生率はもっと高く、約80%といわれています。この遺伝子変異のある方の乳がんは、若年発症、両側発症する傾向があります。この遺伝子は常染色体優生遺伝のため、男女に関係なく50%の確率で親から子供へ受け継がれていきます。ちなみに、ジョリーさんの母親は乳がんに罹患、56歳でなくなっています。男性にも遺伝しますが、乳がんに罹患する確率は女性の1/100程度で、60~70歳代になって発症する場合が多いようです。
また、BRCA遺伝子変異は卵巣がんも発症させ、その確率は各々39%、11%です。ジョリーさんの場合、卵巣がん発症の確率が50%以上だったため、今後は卵巣も摘出する予定とのことです。ちなみにジョリーさんの母親は乳がんのみならず卵巣がんにも罹患、さらに母方の祖母も卵巣がんのため40歳代でなくなっています。卵巣がんを発症する確率は乳がんほど高くはありませんが、乳がんより早期発見が難しいため予防的手術を受けるようです。
このように乳がん、卵巣がんの両方を発症するため、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC;hereditary breast/ovarian carcinoma)と呼ばれています。ちなみにこのBRCA遺伝子変異の有無を調べる遺伝子検査は健康保険が使えません。自由診療のため定価がなく、20~30万円が相場のようです。
遺伝性乳がんの家系を早期に発見し、発がんリスクを低下させるような生活指導を行いつつ、乳がん早期発見のための綿密な検診サーベイランス体制の構築が一部医療機関で始まっています。この家系を発見するには遺伝子検査を行えばよいわけですが、とても高額なため手当たり次第に女性全員を検査するような非効率的なことはできません。また、乳がんを発症させる遺伝子のすべてが解明されているわけではないので、遺伝子検査で異常がないからといって遺伝性乳がんではないと断言できません。遺伝性乳がん拾い上げのための診断基準として、一般に
- 第1等近親者(親、子供、兄弟姉妹)に本人を含め3人以上の乳がん患者がいる。
- 第1等近親者に本人を含め2人以上の乳がん患者がいて、そのうち1人が以下の条件に該当する。
- 40歳未満の若年発症
- 両側乳がん
- 他の臓器のがんを合併
- 男性乳がん
が利用されています。
このような条件に合致する受診者がいた場合、遺伝子カウンセリング体制の整った医療機関にご紹介します。
健診のお申し込み⇒0422-70-1037