Take The A Train
by Duke Ellington And His Orchestra
消化器内科が取り扱う臓器は消化管、膵臓、胆嚢、肝臓など、非常に多岐にわたります(下図)
また、疾患の分類としても癌や出血・各種感染症などの緊急性や重篤性の高いものから、便秘や過敏性腸症候群、脂肪肝といった日常的にありふれた慢性疾患を含んでいます。そういった広い範囲にわたる患者様に診察と治療、必要があれば高次医療機関への紹介を通して適切な医療を提供できればと考えています。
消化器分野に関わらずかかりつけのクリニックとして皆様の健康増進と日常のご症状の改善に取り組んでいきます。
平成28年に国の指針が改正され、市町村が行う対策型検診として内視鏡による胃がん検診(下図)が推奨されました。これに伴い三鷹市では2019年から胃内視鏡検診を実施しています。
癌による死亡率は増加傾向にありますが、食道、胃などの上部消化管領域における癌での死亡率は横ばいが継続しています。胃癌に関しては年間で約13万人程度が診断されており、男性では最も多く女性では3番目に多い癌となります。早期の胃癌では自覚症状がほとんどなく、進行癌でも症状がない方も大勢います。
上部消化管内視鏡検査は胃癌検診ガイドラインでも対策型検診・任意型検診として推奨されております。複数の観察研究において死亡率減少効果を示すエビデンスを有しており、内視鏡検診の主な目的は癌を早期発見することで死亡率を減少させることです。
一方、2017年の統計では食道癌の死亡者数は11568人と男性では7番目に多い癌となります。また、近年では上部消化管内視鏡検査の普及に伴い、十二指腸における腫瘍性病変の発見例や治療例も増加しています。
検診によって早期の病変を発見することは内視鏡での低侵襲な治療を可能にし、生存率の向上に寄与します。
上部消化管に存在する腫瘍、潰瘍(下図)だけではなく、
萎縮性胃炎や逆流性食道炎(下図)などの日常的に多く見られる良性疾患を含めた数多くの疾患のスクリーニングを行っていきます。
当院では、当初より経口及び経鼻内視鏡検査を実施していましたが、2023年4月より皆様から要望の多かった鎮静下内視鏡検査(いわゆる「苦痛のない内視鏡」)を開始しました。鎮静下内視鏡検査とは、鎮静薬等を注射し意識を低下させることにより、苦痛を軽減させて内視鏡検査を行う方法です。完全に眠らせるのではなく、大抵は呼びかけで反応する程度に投薬量を調整し検査を行います(意識下鎮静)。苦痛を和らげるとういう点では利点ですが、欠点もあります。以下、日本消化器内視鏡学会ホームページの記載を転載すると、
利点:
・意識がぼんやりした状態になる
・検査の不安やストレスがやわらぐ
・検査による苦痛や不快感がやわらぐ
・検査が繰り返し受けやすくなる
欠点:
・意識がなくなることがある
・血圧が下がることがある
・呼吸が弱くなることがある
・検査後しばらく休む必要がある
・検査当日の運転を控える必要がある
です。経鼻内視鏡検査では嘔吐反射が抑えられるため鎮静薬を使用しません。ですので、当院では検査前、あるいは検査当日以下の資料をお読みいただき、検査方法を選択して頂いております。
また、内視鏡検査を受けるには予約(空きがあれば当日受検も可能)し、下記の如き「上部消化管内視鏡検査の説明書・同意書」の提出が必要です。内視鏡検査を希望される方は、電話にてご予約の上、事前に下記より同意書をダウンロード、ご記入の上、ご持参下さい。
さらに、鎮静下内視鏡検査を希望される方は、さらに下記の如き「内視鏡検査の鎮静薬投与についての説明書・同意書」も必要です。鎮静下内視鏡検査を希望される方は、電話にてご予約の上、事前に下記より同意書をダウンロード、ご記入の上、ご持参下さい。
専門治療が必要であればその都度近隣の専門機関にご紹介を行います。
当院では安全に配慮をした検査を実施していきますので、ご質問・要望等ありましたらお気軽にお尋ねください。
胃癌の発生要因としてはHelicobacter pylori(H.pylori) (下図)感染が大きな要因を占めています。
H.pylori感染は非常に多く年齢とともに上昇し、60歳までに約50%の人が感染するとされています。また、アジア人では多く感染していることが報告され、本邦で胃癌患者様が多い一因となっています。H.pylori感染における萎縮性胃炎を上部消化管内視鏡で診断し、血中抗体検査、便中抗原検査、尿素呼気試験を行うことでH.pylori感染と診断し除菌を行います。適切に除菌治療を行うことは胃癌発生や消化性潰瘍の減少に寄与するとされています。長期間H.pyloriに罹患していた方では継続的な内視鏡フォローを行うことで更なる胃癌の早期発見が期待できると考えます。
また、H.pylori感染自体が胃もたれや食後の疼痛、食思不振などの症状を起こす方もいますので、症状の改善も期待できる可能性があります。
アニサキス亜科線虫の幼虫を含む海産魚介類を摂食後、長さ2~3cmの幼虫がヒトの消化管粘膜に穿入したことが原因で腹痛等の症状を来す疾患です。
原因海産性魚介類はサバ、サンマ、イワシ、アジ、イカ、タラ、カツオ、ニシン、ホッケ、オヒョウなどで、通常食する魚介類のほとんどで発症しています。
発症の仕方によって急性アニサキス症(劇症型)と慢性アニサキス症(緩慢型)に分けられます。食道、胃、十二指腸、小腸、大腸の全消化管において発症しますが、胃の頻度が最も多いです(90%以上)。急性アニサキス症の発症には即時型アレルギー反応が関与しているようです。
症状は、それら魚介類を摂食後、2~8時間後に腹部激痛で発症します。悪心・嘔吐、さらに蕁麻疹を伴うこともあります。腸アニサキス症の場合、摂食数時間~数日後に発症、ときに、腸閉塞を来すこともあります。
問診で、上記生鮮魚介類を食べたことを確認した場合、本症を疑い、内視鏡検査を勧めます。検査で粘膜に刺入した虫体が観察(左図、画面右下に白色のとぐろ巻いた虫体が見えます)されれば診断でき、その後、虫体を生検鉗子などで摘出(中図、鉗子で掴んだ虫体)すると症状は速やかに消失(右図、虫体を取り除かれた後の胃粘膜)します。
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有効な駆除薬はないので、内視鏡で摘出するのが最も有効な治療法です。ちなみに内視鏡で虫体を摘出せず放置しても、1週間程度で軽快します。
もちろん確実な予防法は魚介類を生食しないことですが、マイナス20℃24時間以上冷凍、60℃1分の熱処理で死滅します。ですから、十分焼いたり、煮たりすれば安全です。冷蔵では数週間生存します。25℃以上では生存できないため、夏場には発生しにくく、北海道に多く発生します。酢でしめたり、醤油漬け、塩漬け、日本酒程度では死にません。生姜、山葵には防虫効果があり、調理法として一考です。
アニサキス幼虫は上記魚介類の内臓に寄生していますが、魚介類が死亡すると内臓から筋肉に移動します。ですので、新鮮なうちに速やかに内臓を取り除くと予防できます。
2020年岳父を看取るため20回近く函館に赴いた折、ハマってしまい何度となく活イカを食べましたが、一度もアニサキス症になることはありませんでした。生簀から掬ってすぐに捌いて出されたものだったので安心して食べることができました。(文責髙松慶太)