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脂質代謝内科

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脂質異常症とは

脂質代謝内科とは「脂質異常症」を専ら対象としています。脂質異常症とは血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増え過ぎた状態です。以前は、「高脂血症」と呼ばれていました。しかし、コレステロールには増えてはいけない悪玉のLDLコレステロールと、動脈硬化を予防する働きがありむしろ減ってはいけない善玉のHDLコレステロールがあります。つまりHDLコレステロールは少ないことが問題なのに、「高」脂血症と表現するのは違和感があるため、脂質異常症と呼称が変わりました。余談ですが今でも高脂血症という言葉は使われますが、下記のうち低HDLコレステロール血症を除いた高LDLコレステロール血症と高トリグリセライド血症の二つを意味することになります。

脂質異常症診断基準(空腹時採血)*
(日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版.2017、p.26)

LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症**
HDLコレステロール 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150mg/dL以上 高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症**

*10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶など力ロリーのない水分の摂取は可とする。
**スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場台は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
●LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接法で求める。
●TGが400mg/dL以上や食後採血の場合はnon-HDL-C(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。

脂質異常症治療の目的

脂質異常症になっても高血圧同様まったく自覚症状はありません。痛くも痒くもありません。では、なぜ多数の方が脂質異常症のお薬を飲んでいるのでしょうか。脂質異常症を放置すると徐々に動脈の内面にコレステロールが沈着、血管壁内側が徐々に盛り上がり(この盛り上がりを「プラーク」と呼びます)、内腔がだんだん狭くなっていきます(動脈硬化)。そしてついに閉塞すると血行が途絶え、その血管から酸素や栄養を供給されていた臓器が腐ってしまいます(血管閉塞が原因で組織が壊死することを「梗塞」と呼びます)。高血圧が併存すると、ときに劣化した血管壁に穴が開き出血することもあります(脳出血や眼底出血)。動脈硬化は全身の血管で起こりうります。動脈硬化の関与した病気には、脳梗塞や脳出血、眼底出血、狭心症や心筋梗塞、大動脈瘤や大動脈解離、虚血性大腸炎、腎梗塞や腎硬化症、末梢性動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)などがあります。動脈硬化の画像(「NATOM IMAGES ©Callimedia」)中、血管壁の間に溜まった黄色いものがコレステロールです。つまり、脂質異常症を治療する目的は、お薬を飲んで脂質検査の結果値を改善させること、いい点を取ることではありません。脂質異常症の治療の目的は動脈硬化の進展を抑えることにより、脳梗塞や心筋梗塞などを予防することなのです。

脂質異常症の原因

脂質異常症は、脂質が上昇しやすいという遺伝的素因=体質に、肥満、運動不足、過食など悪しき生活習慣が加わり発病します。両者の合計点で脂質異常症の程度は決まります。
遺伝的素因の程度はさまざまです。
たとえ動物性脂肪を一切食べない菜食主義者であっても強い遺伝子のため重症の脂質異常症をきたす方(家族性高コレステロール血症家族性複合型高脂血症(詳細を下記します))もいます。しかし、弱い遺伝的素因のため節制すれば異常を認めず、生活習慣の乱れがあって初めて脂質異常症をきたす程度の方(多遺伝子性高コレステロール血症と呼びます)もいます。これら脂質異常症をきたす遺伝子はほとんどが常染色体性優性遺伝であるため、肥満や生活習慣の乱れがないのに脂質異常症を発病されている方の父親または母親の片方または両方は必ず脂質異常症のはずです。これら遺伝子素因による高コレステロール血症を原発性高コレステロール血症と呼びますが、動脈硬化惹起性のレベルが著しく異なる「多遺伝子性高コレステロール血症」と家族性複合型高脂血症、後述の肝臓のLDL受容体経路関連遺伝子異常による「家族性高コレステロール血症」は明確に区別する必要があります。
また、女性ホルモンはコレステロールを下げる作用があります。そのため、月経のある間は、女性のコレステロール値は男性より低く推移し、卵巣から女性ホルモンの分泌量が減少する40歳代後半から増加し始め、閉経すると男性を逆転、その後は男性より高値を持続します。このように女性の脂質異常症は男性の後追いで発症してくるため、心筋梗塞の発症率は男性より低いことが分っています。

家族性高コレステロール血症について

健常人の血中コレステロールの3割は食事由来ですが、残りの7割は肝臓で作られます。コレステロールは、細胞膜の材料やステロイドホルモンの原料となる生体にとって非常に重要な物質です。ですから肝臓が生成しているのです。肝臓で生成されたコレステロールは、「油」のため水溶性の血液には溶けません。そのためリポタンパク質という球形の船に乗って血液中を運ばれていきます。その船は全部で5種類(カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDL)ありますが、LDLは肝臓から血管壁にコレステロールを運び、HDLは血管壁から肝臓へコレステロールを回収する役目を担っています。LDLにより運ばれるコレステロールがLDLコレステロール(悪玉)で、HDLにより運ばれるコレステロールがHDLコレステロール(善玉)です。LDLが多くHDLが少ないと血管壁にどんどんコレステロールが運ばれていくので動脈硬化が促進されます。逆にLDLが少なくHDLが多いと血管壁からコレステロールがどんどん肝臓に回収されるので動脈硬化は進みません。両者に含まれるコレステロールに違いは全くありません。ですから、良いコレステロールも悪いコレステロールもありません。ただ、それを運ぶ船、HDLが良い船で、LDLが悪い船なだけです。
肝臓はコレステロールを生成するだけでなく、余分なコレステロールを処分します。血液中の余分なLDLを取り込み処分します。このLDLを受け取り、処分する経路に異常があるとLDLを取り込めなくなり、血液中のLDLが著増、結果としてLDLコレステロールが増加、動脈硬化が著しく促進されてしまいます。このLDL受容体の単一遺伝子の先天異常は遺伝するため、家族内に患者が多発することが多く、家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia:FH)と呼ばれています。
ご存知の方も多いと思いますが、遺伝子は父親由来と母親由来の遺伝子が1組になっています。ABO式血液型を思い出して下さい。Ao(表現型はA)型の父親とAo(表現型はA)型の母親から生まれてくる子どもは、AA(表現型はA)型が1/4、Ao(表現型はA)型が1/2、oo型が1/4の確率になります。FHを引き起こす遺伝子異常は複数知られていますが、いずれもABO式血液型のA型遺伝子の如く常染色体優性遺伝形式(男女に関係なく、正常な遺伝子より強く表現される遺伝形式)をとります。AA型となり、遺伝子異常が重なった方をホモ接合体(HoFH)といい、Ao型となり遺伝子異常が片方だけの方をヘテロ接合体(HeFH)と呼びます。
ホモ接合体は遺伝子異常が2重になっていますから、より著しい高コレステロール血症を示し、LDLコレステロールは600~1,200mg/dL(LDLコレステロールの基準値は139以内)に達します。一方、ヘテロ接合体も150~420mg/dL(平均248)になります。そのため、未治療で放置すると男性では30~50歳位に、女性では50~70歳位に狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患(Coronary Artery Disease:CAD)を発症することが多いです。そのため、FHヘテロ接合体の死因の約60%が冠動脈疾患と言われ、一般人口の5.8%と比較しはるかに高率となっています。その他、腹部大動脈瘤、末梢動脈疾患なども合併します。脳梗塞に関しては意見が分かれています。ヘテロ接合体患者は200~500人に1人程度、ホモ接合体患者は16~100万人に1人程度存在、日本国内には合計25~64万人程度いると推定され、治療を受けている高コレステロール血症患者の約8.5%を占めるとする報告もあります。FH患者の全高脂血症患者に占める割合は少ないですが、先述の如く重症型となるため、65歳未満のCAD患者の約10%をFHが占めるといわれています。
最近、累積LDLコレステロールが冠動脈疾患の発症に関連しているとするモデルが提唱されています(下図、SANOFIホームページより転載)。

累積LDL-Cモデル(SANOFIホームページより)

このようにFH患者が高率に心血管イベントを発症する理由は、生下時からすでに高LDLコレステロール血症に暴露され続けているためです。例えば30歳の方でLDL-Cが同じ180mg/dLであったとしても、FHと非FHの方とでは高LDLコレステロール血症の歴史が全く違うため、未治療の場合、FHの方が約7.8倍高率に冠動脈疾患を発症します。また、一旦発症すると再発率も高く、後段で提示する症例の如く多枝病変(3本ある冠動脈の複数が狭窄~閉塞する重症型の虚血性心疾患)で、かつ完全閉塞病変が多いのも特徴です。
ですから、著しい高コレステロール血症の方を見つけた場合、2親等以内にFHの親族がいたり、若年(男性で55歳未満、女性で65歳未満)発症のCAD家族歴(ヘテロ接合体患者の43.1%に家族歴があります)があったりしないか確認することはFHを診断する上で非常に重要な手掛かりとなります。ただ、実際は、LDL-Cが140とほぼ正常値のFHの方もいるので、基本的に高コレステロール血症の方全員の家族歴を確認しています。

成人(15歳以上)FHヘテロ接合体の診断基準
  1. 高LDLコレステロール血症(未治療時のLDL-C180mg/dL以上)
  2. 腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
  3. FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)
  • 続発性高脂血症を除外した上で診断する。
  • 2項目が当てはまる場合、FHと診断する。FH疑いの際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。
  • 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。
  • アキレス腱肥厚は軟線撮影により9mm以上にて診断する。
  • LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、FHを強く疑う。
  • すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。
  • 早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。
  • FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。

(出典:「日本動脈硬化学会編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」)

15歳未満の小児ヘテロ接合体に関しては別の診断基準となりますが、当院は小児の診療は行わないため割愛します。
一方、FHホモ接合体は、上述の如く非常に重症(そのため「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)指定難病となっています)であるため、総コレステロール600mg/dL以上、小児期から認められる黄色腫と動脈硬化疾患、両親がFHヘテロ接合体などの特徴があり、比較的簡単に診断できます。ただし、総コレステロール値が600mg/dL未満であっても、FHホモ接合体が疑われる場合は、遺伝子診断も考慮されますので、高次医療機関での診断、治療方針の決定が必須です。
ところで、上述の診断基準の中の腱黄色腫とは如何なるものでしょか。血液中に増加したLDLコレステロールは、図、「血栓性アテローム病変の各病期」(「NATOM IMAGES ©Callimedia」)の如く血管壁に沈着していきます。

脂質異常症の原因

同様の現象が血管以外に、結節性黄色腫(肘、膝などの四肢伸側、手首、臀部など機械的刺激か加わる場所)、腱黄色腫(アキレス腱や手足、膝の腱)、眼瞼黄色腫(上眼瞼の内眼角部(ヘテロ接合体の22.9%で出現しますが、正脂血症の方に出現することもあるので特異的な所見ではありません)、角膜輪(角膜辺縁に認める白色環でヘテロ接合体の41.3%に出現します。角膜輪は高齢者でよく見られる所見(図、老人性角膜輪は88歳の母の老人性角膜輪です)ですが、50歳未満で出現した場合、FHを疑います)として出現します。

老人性角膜輪

とくにアキレス腱肥厚(左右差がほとんどなく、時に自発痛、圧痛を訴える方もいます)は、視診や触診で簡単に気づきますが、レントゲン撮影するとその厚みを正確に測定することができます。最大径9mm以上(ヘテロ接合体の平均厚は12.6mm)の場合、異常と判断します。アキレス腱肥厚の程度は、生まれてから現在までのコレステロール値の積分ですから、動脈硬化の程度とよく相関し、肥厚が著しくなるほど、CADのリスクも高まります。図、アキレス腱肥厚は34歳ののとき当院を初診された男性FH患者のアキレス腱撮影です。右は9.23mm、左は10.52mmといずれも9.0mm以上ありました。

アキレス腱肥厚

この方は22歳から高脂血症を指摘され服薬していましたが、ご自分がFHであるとの認識はまったくなく、薬も中断しがちでした。当院受診後FHと診断、CADを疑い某病院循環器内科をご紹介しました。その後、入院し冠動脈造影検査を実施、左冠動脈は3ヶ所で90%狭窄し(左図)、右冠動脈は近位部で完全閉塞(右図)していることが判明しまた。その後6枝冠動脈バイパス術を実施、現在元気に過ごされています。

左冠動脈 右冠動脈

こういった方は決して稀な例ではありませんので、当院では、LDL-Cが180mg/dL以上ある高コレステロール血症の患者さんには、必ずアキレス腱撮影を受けていただきます。
FH同様高コレステロール血症をきたす疾患として代表的なものは、糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群などの続発性高脂血症、家族性複合型高脂血症(Familial Combined Hyperlipidaemia:FCHL)などです。FCHLはコレステロールとトリグリセライド(TG)両方が増加する疾患で、やはり常染色体優性遺伝形式をとります。FHほどコレステロールは高くなく、LDLコレステロールは140mg/dL以上といった程度です。そのため、アキレス腱肥厚や角膜輪を認めません。しかし、TG高値(150mg/dL以上)も合併するため、small dense LDL(後述の「動脈硬化危険因子」の段落の「small dense LDL超悪玉コレステロールについて」をご参照下さい。)が増加(sd LDL-C≧35mg/dL)、LDLコレステロールがFHほど高くな割にはCADを合併します。また、その頻度は100人に1人程度とFHより4~5倍多いため、65歳以下のCAD患者の30%程度を占めるほどです。
FHの治療について。すでに動脈硬化性疾患を併発している可能性が高いですから、まず現時点での動脈硬化の程度を評価する検査(眼底、運動負荷心電図、頸動脈超音波検査、血圧脈波、腹部超音波検査(腹部大動脈瘤評価)、CRPなど)を受けていただきます。生後長く続く高コレステロール血症の病歴を考慮、LDLコレステロール<100mg/dlを管理目標値とします。最近、LDLコレステロール値を下げれば下げるほどCAD発症率の下がることが明らかになっており、すでにCADを発症している場合、二次予防のためにはさらに下げることも考慮するべきです。運動療法や食事療法(上述の如く、健常人では血液中のコレステロールの3割は食事由来ですが、残りの7割は肝臓で作られます。FHの方は場合、そのほどんどは肝臓由来です。ですから食事療法を行っても低下するのは1割程度でしかありません)だけでは十分改善しないため、FHに関しては初めからスタチンなどの高脂血症治療薬を併用していただきます。内服すると明らかにCAD発症率が低下します。また、最近開発された完全ヒト型抗PCSK9モノクローナル抗体の注射を併用していただくこともあります。この注射の効果は絶大で、劇的にLDLコレステロール値は低下します。この薬剤は2~4週間毎に注射しますが、その度受診する必要はありません。糖尿病のインスリン注射同様、在宅で自己注射が認められているため、1~2か月毎に通院することになります。ただし、この注射は高価(薬剤費は約46,000~89,000円/月ですので、3割負担の方で15,000~27,000円になります。)なこともあり、どの医療機関でも処方できるわけではありません。動脈硬化学に精通した医師、医療機関のみが処方できることになっています。もちろん、喫煙、糖尿病、高血圧などの他の動脈硬化危険因子をお持ちの場合、それらも厳格にコントロールする必要があります。
ホモ接合体患者の場合、薬物療法の効果は乏しいため、1~2週間毎のLDLアフェレーシス(吸着療法、血液浄化療法の一つ。血液透析のようなもの)が必要になります。当院で実施できませんので、ホモ接合体型FHと診断した場合、高次医療機関をご紹介します。
以上の如く家族性高コレステロール血症FHはいくつかの点において非常に重要な疾患といえます。
1、若年時から高頻度でCADを合併するため、早期診断早期治療(男性は20歳頃から、女性は30歳頃
  から)が必須の疾患である。
2、日本全体で25~64万人程度いるため一般開業医が遭遇する可能性が高い。
3、全FH患者のうち、正しく診断を受けいるのは1%!!!足らずしかいない。換言すれば99%のFH
  患者は適切な治療を受けていない。
さらに、診断を受けていても適切な治療を受けている患者は
  半分程度と言われている。
4、一人の患者を発見すれば、その家族内に他の患者も発見できる可能性がある。
 健康診断などでLDL-Cが180mg/dL以上であった方、特に若年者の方は、治療はまだ早いなどと自己判断せず、是非ご来院下さい。

低コレステロール血症について

上述の如くPCSK9阻害剤を投与するとLDLコレステロールが劇的に低下、<50以下となることも珍しくありません。明確な基準は決まっていませんが、一般にLDLコレステロール<70、総コレステロール<120mg/dlとなった場合、低コレステロール血症と呼びます。このようにLDLコレステロールが極端に低値となっても、逆に害はないのでしょうか。コレステロールが低いと脳出血になりやすいとするデータも発表されていますが、明確な結論には至っていません。小学生のコレステロール値は120、LDLコレステロール値は60前後のことが多く、この程度では害はないようです。コレステロール値が低い原因はさまざまで、肝硬変、がん悪液質、甲状腺機能亢進症等でも二次性に低コレステロール血症となります。ですので低コレステロール血症が治療として意図的なものなのか、病気によるものなのかその病態によりその是非を判断することが重要です。
低LDLコレステロール血症を呈する難病として、無βリポ蛋白血症があります。常染色体劣性遺伝で100万人に1人以下ときわめて稀です。詳細は厚生労働省難病情報センターのリンク先、一般の方向け解説をお読み下さい。同様、家族性低βリポ蛋白血症があります。様々な遺伝子変異によるものがありますが、アポ蛋白B変異の場合、常染色体優性遺伝でヘテロ接合体は1000~3000人に1人の頻度です。軽症例では多くは無症状ですが、ホモ接合体では無βリポ蛋白血症同様重症になることがあります。

動脈硬化危険因子

脂質異常症の治療の目的が動脈硬化の予防であるとご説明しました。動脈硬化の程度が単に脂質の値のみで決まるのなら、値の高い方は必ず治療しなければならなくなります。しかし、実際には動脈硬化の程度は脂質異常症の程度のみで決まるわけではありません。動脈硬化の発症を促進する因子を「動脈硬化危険因子(リスクファクター)」といいます。それらには下記のようなものがあります。

LDLコレステロール以外の主要な危険因子(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007を改変)
  • 低HDLコレステロール(善玉)血症
  • 加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)
  • 糖尿病(耐糖能異常=糖尿病予備軍を含む)
  • 高血圧
  • 喫煙
  • 冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の家族歴

悪玉のLDL-コレステロールの増加に加え、これら動脈硬化危険因子をどれだけ多数持っているかによって動脈硬化の進展度合いは異なります。想像してみてください。同じ程度にLDL-コレステロールが高くとも、「コレステロールが高く若くして心筋梗塞のため他界した父親の息子で、高血圧、糖尿病の両方を患い善玉のHDLコレステロールが低く、タバコが止められない50歳の男性」と「コレステロールは高かったが心筋梗塞を患わず88歳まで長生きをした父親の娘で、高血圧、糖尿病とも一切なく善玉のHDLコレステロールがたっぷりあり、タバコを吸ったことのない50歳の女性」、どちらの方が、動脈硬化=血管の老化が進むと思いますか。どちらの方が心筋梗塞でポックリ逝きそうでしょうか。
ちなみに、加齢の項目で、男性45歳以上、女性55歳以上となっているのは、男性の方が女性より若くして動脈硬化が進展し、心筋梗塞になりやすいからです。これも男性の平均寿命が女性より短い理由の一つになっています。

脂質異常症は、たとえ同じ検査値であったとしても皆同じように治療するわけではありません。脂質異常症以外の危険因子が少ない方には、値が高くともできるだけ食餌療法を優先し薬は飲ませないように努めます。一方、既に動脈硬化の進展している方には、たとえ軽度の脂質異常症でもおのずと食餌療法に加え積極的に薬物療法をお勧めします。
ですから、当院では初診時に必ず上記の主要な動脈硬化危険因子について、問診や血液検査などで確認します。
これら主要危険因子のうち、禁煙は最も安上がりな治療法です。喫煙者には必ず禁煙を進言しています。

さらに、その他考慮すべき危険因子として下記のようなものがあります。

その他の考慮すべき危険因子(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007を改変)
  • Lp(a)
  • レムナントリポ蛋白
  • ホモシステイン
  • small dense LDL*
  • 急性期反応蛋白(C反応蛋白、血清アミロイドA蛋白など)
  • 催凝固因子
  • EPA/AA比(筆者追加)

(筆者注:*は保険適応外)

これらの項目の中で保険適応になっていないものは高額なため実施しません。また、比較的高価なものが多いため、費用対効果(支払ったお金対して、その患者さんにとってどれだけ有意義な情報が得られるか)を考慮して実施します。闇雲に実施しません。当院は大学病院ではありませんので研究目的に実施することもありません。

 

C反応蛋白(略してCRP)について

C反応蛋白(略してCRP)は廉価な上、保険適応であり非常に重要なため必ず実施します。血液中の悪玉LDL-コレステロール値が高いとそれらが血管の内面に付着、徐々に血管内腔が狭くなり、ついには閉塞してしまうと上述しました。しかし、実際の仕組みは少し違っています。

動画をご覧下さい。
実際は、血管の内側が盛り上がってきた当初、その内部にあるのは脂肪ですから、プラークは柔らかく傷つき破れやすい状態(「不安定プラーク」と呼びます)です。そのため、狭窄したところに発生する血液の乱流等によりプラークの表面に炎症=傷が生じ中身がむき出しになってしまうことがあります(プラークの破綻)。
ご存知のように血液は傷口があると、そこで固まって止血するよう作られています。そのため、血液が間違って血管内面の傷で固まってしまう(「血栓」と呼びます)わけです。血液が固まるのには数分程度しかかかりません。そのため、突然さまざまな臓器が梗塞を起こすことになります。心筋梗塞や脳梗塞が心臓発作、脳卒中などと呼ばれるゆえんです。動画では血管の内側がコレステロールの沈着により盛り上がった後、その隆起の表面に傷ができ、そこで血液が突然固まってしまう様子を表しています。CRPは炎症の指標です。ですから、ほかに炎症を伴う病気がないのにもかかわらずCRPが高値の場合、血管の内側の炎症の存在を強く示唆します。つまり、CRPの増加は梗塞が起こりそうな状態を示しているのです。実際、CRP高値の方は心筋梗塞になりやすいことが分っています。逆に、心筋梗塞を発症した方は、CRPが高い(炎症の範囲が大きい)ほど予後不良となることが分かっています。なお、コレステロールが沈着したプラークができた後、その表面に傷=炎症が生じるだけでなく、むしろ因果が反対で、正常な血管の表面に傷=炎症が生じるため、コレステロールが沈着しやすくなるという研究結果も最近得られています。いずれにしてもCRP増加は動脈硬化が進展し、梗塞の起こりやすい状態へ向かっていることを示しているのです。

 

リポ蛋白(a)(略してLp(a))について

Lp(a)は悪玉のLDL同様、動脈硬化病変への蓄積、冠動脈疾患の独立した危険因子として確立され、その測定は保険適応にもなっています。Lp(a)は、構造上血液線溶系(血液を溶かす仕組み)因子であるプラスミノーゲンと相同性が高いことが明らかになっています。そのためプラスミノーゲンと競合、線溶系を抑制、血液凝固によって引き起こされる病気、肺塞栓や深部静脈血栓症の危険因子にもなります。妊娠、閉経、手術、外傷等で増加しますが、運動や食事の影響を受けず、遺伝により規定されています。換言すると、運動療法、食事療法が無効な因子です。Lp(a)はこれまでそれほど大きく注目されていませんでした。それはLp(a)を測定し、たとえ異常を認めたとしても、Lp(a)を低下させる治療薬がビタミン剤のニコチン酸(商品名:ユベラN/ユベラニコチネート、ペリシット、コレキサミン)や女性ホルモンのエストロゲン(商品名:タモキシフェン、乳癌治療薬で高脂血症に保険適応なし)等しかなく治療が困難だったからです。脂質異常症の代表的な治療薬、スタチン、エゼチミブ(おもにLDLコレステロールを下げる薬)やフィブラート(おもにトリグリセライド;TG≒中性脂肪を下げる薬)は全く無効です。そのため、残余リスク(LDL-コレステロールを治療しても残る心血管イベントリスクのこと。高LDLコレステロール血症を完璧に是正しても、心筋梗塞になる確率は0になりません。換言すれば、LDLコレステロール以外に動脈硬化を促進し、心血管イベントを発症させる危険因子が存在するということです。)の中でもとくに注目すべき因子です。最近、使用可能となった完全ヒト型抗PCSK9モノクローナル抗体製剤は、Lp(a)を劇的に低下させるため、Lp(a)が再び注目を集めています。また、アスピリン(300mgの高容量)にも低下作用があります。
ここで注意しなければならないことは、Lp(a)はその構造の複雑さから測定方法が標準化されておらず、検査試薬(抗Lp(a)モノクローナル抗体)によりかなり誤差があることです。ですから、軽度高値の場合、検査委託会社を変更し、再検査するのも一考です。

 

small dense LDL-C(超悪玉コレステロール、メタボリックLDL-C)について

ご理解頂けていると思いますが再確認です。「総コレステロール」は血液中のコレステロールの合計です。その中には悪玉コレステロールであるLDLコレステロールと善玉であるHDLコレステロールが含まれます。血液中のLDLとHDLコレステロールの比率はおおよそ2~3:1で、LDLコレステロールが6、7割を占めますから、LDLコレステロールの測定が技術的に困難で総コレステロールしか測定できなかった時代、総コレステロールでLDLコレステロール値を代用していました。しかし、その後、総コレステロールに含まれるHDLコレステロールには、むしろ動脈硬化予防作用のあることが明らかとなり、総コレステロールよりも、LDLコレステロールとHDLコレステロールを各々測定、総コレステロールの中身を評価するようになっています。
しかし、その後LDLコレステロール値が正常であるにもかかわらず、動脈硬化の進行する方が少なからず存在することが明らかとなり、LDLコレステロール以外の残余リスクが問題となっています。残余リスクの検討が行われる中、注目されているのがsmall dense LDL(sd-LDL)、別名超悪玉LDLです。
ところで、血液中のコレステロールはそのままの形で流れているのではありません。アポリポタンパク質という物質と結合し安定したリポタンパク質になり、血液中を運ばれます。つまり、コレステロールはリポタンパク質という球形の船に乗って血液中を運ばれていきます。その船は全部で5種類(カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDL)ありますが、LDLは肝臓から血管壁にコレステロールを運び、HDLは血管壁から肝臓へコレステロールを回収します。LDLにより運ばれているコレステロールがLDLコレステロールで、HDLにより運ばれるコレステロールがHDLコレステロールです。LDLが多くHDLが少ないと動脈硬化が促進されますが、逆にLDLが少なくHDLが多いと動脈硬化は進みません。両者に含まれるコレステロールに全く違いはりありません。ですから、良いコレステロールも悪いコレステロールもありません。ただそれを運ぶ船、HDLがよい船で、LDLが悪い船なだけです。LDLやHDLを測定するより、LDLコレステロールやHDLコレステロールを測定する方が簡便なため、通常、LDLに含まれるコレステロール、すなわちLDLコレステロールやHDLに含まれるコレステロール、すなわちHDLコレステロールを測定し、動脈硬化のリスクを評価しています。
上述の如くLDLコレステロール値が正常であるにもかかわらず、動脈硬化の進行する方が少なからず存在するのですが、LDLを詳しく調べてみると、LDLの中には動脈硬化惹起作用の弱い大型のLDLと動脈硬化惹起作用の強い小型LDL、small dense LDLの2種類(LDLの中で平均粒子直径25.5nm以下、比重1.044~1.063g/mlの分画をsd-LDL、他方、直径25.5nm以上、比重1.019~1.044の分画をlarge buoyant LDLと呼びます)が存在することが解りました。①sd-LDLは肝臓で回収されにくいため通常のLDLと比べ血中に滞留しやすい(2日対5日)、②小型のため血管壁内に侵入しやすい、③酸化されやすい。酸化変性したコレステロールは血管壁内に存在する白血球の一種であるマクロファージに貪食され壁内に蓄積しやすい、④ビタミンEなどの抗酸化物質の保護を受けにくい等の特徴があるため、sd-LDLコレステロールは、通常のLDLコレステロールと比べ動脈硬化を引き起こす作用が3倍も強力です。sd-LDL-Cは、その小ささゆえ、血管内皮細胞(下図(「NATOM IMAGES ©Callimedia」)の血管の内腔側の表面にある一層の細胞)の隙間から、血管壁の中に入り込んで行きやすいのです。

しかもこのsd-LDLは小ささゆえ多数存在してもLDL全体に占める割合は増えにくく、LDL全体の量を押し上げません。つまりsd-LDLが多数存在してもLDLコレステロール値を押し上げません。換言すれば、LDLコレステロール値が正常な方であっても、sd-LDL-Cが多数存在している可能性があります。
sd-LDLはどのようにして体内で生成されるのか未だ諸説ありますが、直接的には血清トリグリセライドの上昇がLDLの小型粒子化に深く関連していることが明らかになっています。後述の「高トリグリセライド血症について」の段落もご参照下さい。高トリグリセライド血症は動脈硬化危険因子となっていますが、LDLを小型粒子化するこにより動脈硬化を惹起しています。高トリグリセライド血症は例え空腹時が正常であったも、食後高トリグリセライド血症単独でLDLを小型粒子化することも明らかになっています。
また、上述のように糖尿病、高血圧、低HDLコレステロール血症は動脈硬化危険因子となっていますが、これらはLDLコレステロールをsd-LDL化することが明らかになっています。そしてこれらの危険因子を合併しやすいメタボリック症候群ではsd-LDLが増加しています。そのため別名メタボリックLDLとも呼ばれています。sd-LDLが増加する疾患、病態を下記します。

small dense LDL(sd-LDL)が増加する病態(平野勉、「動脈硬化惹起性のリポ蛋白の代謝、最新醫学」)

  1. 高トリグリセライド血症:Ⅳ、Ⅴ型高脂血症、食後高脂血症、高レムナント血症
  2. 高アポB血症:Ⅱb型高脂血症、家族性複合高脂血症
  3. インスリン抵抗性:肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、糖尿病腎症
  4. 肝性リパーゼ活性亢進、CETP活性亢進
こう考えるとsd-LDLコレステロールは単独で高トリグリセライド血症のみならず、低HDLコレステロール血症、糖尿病、高血圧による動脈硬化をも反映していることになり、一元的に説明可能となります。今後は、総コレステロール値測定がLDLコレステロール値測定に取って代わられたように、LDLコレステロール値測定がsd-LDLコレステロール測定に取って代わられ、sd-LDLコレステロールが脂質異常症診断基準の主たる検査項目なる可能性があります。実際、欧米ではすでにsd-LDL-C測定が動脈硬化危険因子評価において主要な項目になっています。
さて、翻って日本では、sd-LDLコレステロール測定は保険で認められていません。sd-LDLコレステロール測定系開発者である海老名総合病院糖尿病センター平野勉先生の御話では、現在保険収載に向けたデータ収集を行っていますが、2022年頃までかかりそうとのことです。しかし、熱心な患者さんから、sd-LDL-C測定のご希望があり、保険外診療のため高額になりますが、当院では5,500円で超悪玉sd-LDLコレステロールを測定できる体制を構築しました(予約不要)。測定試薬は、デンカ生検のものを使用しています。同社のホームページにはsmall dense LDLについて、動画も交えて詳しい解説が掲載されています。是非参考にしてみて下さい。なお、sd-LDL-C測定が推奨される方は、
 
  1. 狭心症や心筋梗塞の既往のある方
  2. 狭心症や心筋梗塞の家族歴のある方
  3. 血圧の高い方
  4. トリグリセライド値の高い方
  5. 血糖値の高い方
  6. メタボの方
  7. HDLコレステロール(善玉)値の低い方
  8. LDLコレステロール(悪玉)値の高い方

などです。測定を希望される方はどうぞご連絡下さい。検査を受けるには前日までに事前の予約が必要です。検査値は食事の影響を受けません。ですから食事をして来院しても検査を受けることができます。しかし、日内変動があり早朝空腹時が最も高値となり、夕食後が最低値なるため、過小評価することのないよう早朝空腹時採血が最も適切です。
 ところで、このように自身のsd-LDLコレステロール値を知るためには、保険収載になる2022年頃迄待つか、5,500円払って自費で今すぐ測定するしかないのでしょうか。いえ、直接sd-LDLコレステロール値を図らずとも、その値を推測する方法があります。もちろん大雑把ではありますが、トリグリセライドが増えると減り、HDLコレステロールが減ると増えるnonHDLコレステロールもその一つです。nonHDLコレステロールが170mg/dL以上でかつトリグリセライドが150mg/dLの場合、sd-LDLの増加を疑います。
また、上述の「家族性高コレステロール血症について」の段落で、水溶性の血液に溶けにくいコレステロールは、水溶性のアポリポ蛋白と結合、リポ蛋白という球形の舟に乗って血液中を移動するとご説明しました。肝臓はコレステロールを生成しますが、一方で余分なコレステロールの回収もします。肝臓がコレステロールを回収するとき肝臓表面LDL受容体はLDLリポ蛋白のアポリポ蛋白であるB-100を認識して回収します。LDL受容体の不具合でLDLコレステロールを回収できなくなり、高コレステロール血症となる病気が家族性高コレステロール血症です。sd-LDLであろうと、large buoyant LDLであろうとLDL一つに存在するアポリポ蛋白B-100は一つのため、同じLDLコレステロール値であってもsd-LDLの含まれる割合が多いと、一つ一つのLDL粒子が小さく数の多い分だけアポリポ蛋白B-100の量が多くなります。すなわちアポリポ蛋白B-100はsd-LDLの量と比例しますから、アポリポ蛋白B-100を測定すればsd-LDLの量を推測できることになります。しかし、B-100はLDLのみならずIDL、VLDLにも含まれ、肝臓で回収されるときに認識されます。また、アポリポ蛋白BにはB-100以外にB-48があり、B-48はカイロミクロン、カイロミクロンレムナントに含まれます。保険で簡単にアポリポ蛋白Bを測定できますが、残念ながらB-100とB-48を合わせた合計、アポリポ蛋白Bとして測定しています。そのため、アポリポ蛋白B測定でsd-LDL量を正確に知ることはできませんが、ある程度推測することができます。男性基準値は73~109、女性は66~101mg/dLですが、110以上の場合sd-LDLの増加を疑います。
同様の考えとして、コレステロールに含まれるsd-LDLコレステロールの比率が増加していくと、アポ蛋白B/LDLコレステロール比が増加していくため、>0.85の場合、sd-LDLが増加していると推測できます。換言するとLDLコレステロール/アポ蛋白B比が1.2以下の場合sd-LDLが増加していると推測できます。

small dense LDLの治療について:
sd-LDLの量を減らすには、sd-LDLを大型化かさせる方法とLDLそのものを減少させる方法がありますが、下記します。

  1. 食事療法、運動療法で体重、内臓脂肪を減らしメタボリック症候群を改善、高トリグリセライド血症を是正する(約10mg/dL減)
  2. HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン製剤)によりLDL-Cそのものを減らし、比例してsd-LDLを減らす(約50%減)
  3. PCSK9阻害薬によりLDL-Cそのものを減らし、比例してsd-LDLを減らす
  4. フィブラート製剤、あるいはより強力な選択的PPARαモジュレーターによりトリグリセライド値を減らす
  5. ω-3製剤のEPA、DHAでsd-LDLを大型化させる
  6. コレステロール吸収阻害剤エゼチミブによりLDL-Cを減らし、かつトリグリセライド値も減らす
  7. 糖尿病患者の場合、SGLT2阻害薬やピオグリタゾンはsd-LDL粒子を大型化し減らす(約20%減)

 

EPA/AA比について

EPA/AA比については、後述の「高トリグリセライド血症について」「n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA;エイコサペンタエン酸、DHA;ドコサヘキサエン酸)の効用」の欄をご参照下さい。

 

動脈硬化の評価

脂質異常症の治療の目的は動脈硬化の予防であるため、動脈硬化危険因子の多寡を評価した上で治療方針を決定することをお話ししました。しかし、必ずしもLDLコレステロール値がより高く、危険因子の数がより多い方ほど動脈硬化がより強く進展しているとは限りません。糖尿病や高血圧が併存しているといってもその程度の問題もあります。また、タバコを吸うといっても5本と二箱40本ではだいぶ違います。心筋梗塞の家族歴だって、親族に心筋梗塞の方が一人いるのか、5人いるのかでは違います。さらに、たとえそれらの条件がまったく同じ方であっても罹病期間によって動脈硬化の進み方は違います。たとえば今年初めて脂質異常症を指摘された方と10年前から指摘されているが放置している方では、当然後者の方が、動脈硬化が進展しています。そのため、コレステロール値や危険因子の数、程度で動脈硬化の進展を推測するのではなく、当院では必ず頸動脈超音波検査、眼底検査、血圧脈波(いわゆる血管年齢)、運動負荷心電図、腹部超音波検査(腹部大動脈瘤)、尿検査などで実際の動脈硬化の進展具合を評価しています。当然、動脈硬化の進展がない方には、値が高くともできるだけ食餌療法を優先し薬は飲ませないように努めます。一方、既に動脈硬化の進展している方には、たとえ軽度の脂質異常症でもおのずと食餌療法に加え積極的に薬物療法をお勧めします。明らかに、年齢に比し動脈硬化の進展が速い場合、Lp(a)などの危険因子を持っている可能性がありますから、上述のような危険因子の検索も行います。

20111205頸動脈超音波左総頸動脈縦断像

動脈硬化評価のための検査の一例をご紹介します。左総頸動脈狭窄超音波画像は60代男性の画像です。黄色で示したようなプラーク(上述の「脂質異常症治療の目的」の段落をご参照ください。)が生じ、総頸動脈の内腔はわずかに残っているのみです。

20111205頸動脈超音波左総頸動脈横断像

横断像で見ると、狭窄率は74.9%で、つまり内腔は25%しか残っていませんでした。さらに、そのプラークの表面の一部が破れ、窪み=潰瘍を形成しているのがわかります。

20111205頸動脈超音波左総頸動脈縦断像カラードプラー

カラードプラー像で血流に色を付けると破綻した潰瘍内に血液が流れ込んでいる様子がわかります。「脂質異常症治療の目的」の段落で示した動画とそっくりな状態なのがお分かりいただけると思います。「動脈硬化危険因子」の段落で、プラークの破綻について説明したように、血栓を非常に作りやすい状況でした。早速連携医療機関にてステントグラフト内挿術を実施していただきました。ステントグラフトとは金属製の網目が筒状になったもので、狭窄部位に挿入し、ばね圧で拡張させます。

20120301DSA左総頸動脈ステント挿入前後

ステント挿入後のDSA画像では潰瘍形成部位がしっかりと拡張しているのがわかります。このまま放置していたら、左大脳のかなりの部分が脳梗塞によって失われるため、助かっても寝たきりだったかもしれません。

右網膜中心静脈閉塞症の眼底出血

次に眼底検査について一例をご紹介します。右網膜中心静脈閉塞症切迫状態の眼底写真は60歳代の働く女性です。以前からコレステロールの薬を内服していました。ちなみに、眼底とは球体である眼球中、瞳の奥の一番遠い部分です。ですから、ただ、外側から目を見ても解りません。当院が自宅の近所に開院したのを機に、治療継続を希望され来院されました。直近の職場での健康診断の結果を持参するようお願いし拝見したところ、眼底出血を指摘されているにもかかわらず放置していることに気付きました。早速当院で眼底写真を再検査したところ、網膜中心静脈閉塞症の切迫状態であることが判明しました。心臓から出て行く血管が動脈で、心臓に戻って来る血管が静脈です。小さな臓器である眼球には血管の出入り口が一つしかありません。ですから動脈と静脈はすぐ隣り合わせに平行に走っています。脂質異常症や高血圧などで動脈硬化が進行すると硬くなった動脈が隣の柔らかい静脈を圧迫し、静脈が押し潰され、静脈内の血液が流れにくくなることがあります。さらに流れの悪くなった血液が血管内で固まる(血栓といいます)と、静脈はダムで堰き止められた川のようになり、ダム湖を形成するがごとく怒張してきます。その圧力に静脈壁が耐えられなくなると、血管から血液が漏れ出してくるのです。眼底写真では、すべての静脈が怒張蛇行している様子、いたるところから血液が染み出している様子がはっきりと分ります。また、動脈硬化で硬くなった動脈の枝が並行して走る静脈と交叉する場所で静脈を押し潰している様子も分ります。この方は視力を司る黄斑部に出血が及んでいないためまったく視力は下がっていません。

右網膜中心静脈閉塞症の眼底出血3ヶ月後

健診での血圧は119/73mmHgとまったく正常でしたが、内服治療をしているのにもかかわらず、悪玉のLDLコレステロールは145と下がりきれていませんでした。念のため家庭血圧を測定していただいたところ、起床時血圧は145/80と早朝高血圧(隠れ高血圧、逆白衣性高血圧)であることが判明、コレステロールの薬を増量するとともに、動脈硬化改善作用のある降圧剤で高血圧の治療も始めていただくことにしました。処方薬により血圧、脂質ともコントロールが改善、3ヶ月後には眼底の出血は収まり、網膜中心静脈閉塞症を未然に防ぐことができました。網膜中心静脈閉塞症は、高血圧内科のところでお見せしたような網膜静脈分枝閉塞症のように眼球内の一部ではなく眼球全体に出血、視力回復の難しい病気です。すんでのところで助かりました。

高トリグリセライド血症について

初めの「脂質異常症とは」との段で、脂質異常症の一つとして高トリグリセライド血症を取り上げたにもかかわらず、その後一切説明していません。
そもそも人間の血液中では大きく分けて4種類の形(トリグリセライド=中性脂肪、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸)で脂質が存在しています。そのうち動脈硬化の発症に関係していることが明らかになったLDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライドの三つの異常が脂質異常症と呼ばれるようになりました。トリグリセライド自身は、LDLコレステロールのように直接血管壁に入り込み、動脈硬化を引き起こすことはありません。にもかかわらずトリグリセライドは動脈硬化性疾患の危険因子となっています。それは、トリグリセライドが増加すると、善玉のHDLコレステロールが減少したり、危険因子のレムナントリポ蛋白や上述のsmall dense LDL(上述の「small dense LDL超悪玉コレステロールについて」をご参照下さい。)が増加するためです。最近の研究では、トリグリセライド84mg/dl以上で心筋梗塞のリスクが高まることが明らかになっており、やはり高値の場合、是正が必要です。
ところで、トリグリセライドはsmall dense LDLを増加させますが、それは大型LDLsd-LDLに変化させるからです。つまり、LDLコレステロールの量は変えず、質を変えます。メタボの方が心筋梗塞(冠動脈の動脈硬化が原因)を発症しやすいことから、メタボ撲滅を目指し国の施策として数年前よりメタボ健診(特定健診が正式名称)が始まっています。メタボの方の脂質検査値は、LDLコレステロールは高くありませんが、HDLコレステロールが低く、トリグリセライド値が高いのが特徴です。つまり、メタボの方は、LDLコレステロール値は正常ですが、高トリグリセライド血症のため超悪玉のsd-LDLが多い状態になっています。そのため心筋梗塞を発症しやすいのです。
後述の高カイロミクロン血症を伴わない高トリグリセライド血症をきたす体質(内因性高トリグリセライド血症)には、家族性Ⅳ型高脂血症、家族性複合型高脂血症、特発性高トリグリセライド血症がありますが、何れもトリグリセライド値は、コレステロール値と異なり、直前の(短期的な)食事内容により大きく変動します。LDLコレステロールは139mg/dlが上限ですが、増加してもほとんどの方が250以下です。一方、トリグリセライドは149mg/dlが上限ですが、500程度はざらで1000を超える方も時々います。そういった方でも飲酒や糖分の過剰摂取を是正することにより急速に改善します。ですから、コレステロールと異なり300mg/dl程度の異常であっても生活習慣の是正を強くお勧めしています。それでもどうしても改善しない場合のみ、薬物療法を行っています。
そもそも、トリグリセライドはグリセロールに3個の脂肪酸が結合したもので、エネルギー源の貯蔵庫としての役割があります。脳はブドウ糖をエネルギー源としていますが心臓のエネルギー源はトリグリセライドです。また、皮下脂肪を形成し防寒や、外部からの衝撃から内蔵を守る役割も担っています。高トリグリセライド血症は血中の脂肪酸の増加を招きます。脂肪酸は大きく分類すると、

  1. 飽和脂肪酸(ココナッツ、動物性脂肪、バター、パーム油、ラードなど)
  2. 一価不飽和脂肪酸(オリーブ油、ナッツ類、サラダ油、バターなど)
  3. 多価不飽和脂肪酸(n-3系=EPA:ナタネ油、魚油、n-6系=AA:紅花油、ひまわり油、大豆油、コーン油など)

になります。飽和脂肪酸は動脈硬化を促進させ、一価不飽和脂肪酸は抑制します。多価不飽和脂肪酸のうち、n-3系は動脈硬化を抑制しますが、n-6系は促進させます。両者とも体に必要な必須脂肪酸ですが、両者のバランス、EPA/AA比が低下すると動脈硬化をきたし血栓ができやすくなるのが分っています。以上のような仕組みがあるため、高トリグリセライド血症の場合、レムナントリポ蛋白やEPA/AA比の測定も行います。詳しくは、後述の「n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA;エイコサペンタエン酸、DHA;ドコサヘキサエン酸)の効用」の欄をご参照下さい。
また、トリグリセライドは1000mg/dlを超えるような極端な高値の場合、急性膵炎が発症しうることが分っています。急性膵炎は基本的に入院が必要な病気の上、重症化すると死亡率が高く危険な病気です。ですから、1000mg/dl以上の場合、緊急避難的に初めからお薬をお勧めしています。

 

家族性Ⅲ型高脂血症

家族性高コレステロール血症の段落でお話ししたようにコレステロールやトリグリセライドを運ぶ船であるLDLが肝臓に取り込まれるとき、肝細胞表面に存在するLDL受容体を介して取り込まれます。このLDL受容体にくっつくLDL側の分子が、アポリポ蛋白B-100です。ですから、この蛋白に異常があるとLDLが肝細胞に取り込めなくなります。
同様、カイロミクロン、VLDL、IDLが肝臓に取り込まれる場合に必要になる分子がアポリポ蛋白Eです。そのため遺伝的原因によるアポリポ蛋白E異常により、カイロミクロンレムナント、β-VLDL、IDLが肝細胞に取り込まれにくくなり血中に停滞、コレステロールやトリグリセライド値(それらにはコレステロールよりトリグリセライドの方がたくさん含まれるため、トリグリセライドの方が大きく増加します)が増加する病気を、家族性Ⅲ型高脂血症と呼びます。その増加の程度は千差万別です。血清リポ蛋白電気泳動を行うと、LDLからVLDLまで一体化、broad βバンド、midバンドが見られるようになる(別名Broad β病)ので気付きます。
やはり、虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症の原因となりますが、治療薬が有効です。

 

原発性高カイロミクロン血症

高脂肪(トリグリセライド)食を摂取すると、それらは十二指腸から分泌される胆汁により乳化、膵臓からの消化酵素リパーゼで消化・分解された後、ミセルという親水性の分子を形成、小腸上皮細胞へ吸収されます。
さらに小腸上皮細胞内で再びトリグリセライドに再合成された後、コレステロール、リン脂質とともに蛋白質(アポリポ蛋白と呼びます)と結合、カイロミクロンという大きなリポ蛋白質(脂質を運ぶ船)を形成(この時点ではその約90%がトリグリセライド)、リンパ管内に分泌され、胸管を経て大循環(体を流れる血液循環)の流れに乗ります。カイロミクロンは骨格筋、心筋、脂肪組織、乳腺など筋肉や脂肪に富んだ組織の毛細血管に存在するリポ蛋白リパーゼ(LPL)により、トリグリセライドが再び脂肪酸とグリセロールに分解され、どんどん抜き取られてカイロミクロン粒子は小さくなり、カイロミクロンレムナントと呼ばれる状態(レムナントとは残骸の意味)になります。この状態になると、コレステロール含有比率は上昇、肝細胞表面のLDL受容体を介し肝細胞に吸収されます。
一方、食事中の小さな脂肪酸(中鎖脂肪酸)は、ブドウ糖やアミノ酸同様門脈経由で直接肝臓に行き、そこで肝細胞に取り込まれます。
通常、カイロミクロン/カイロミクロンレムナントのほとんどが肝細胞に取り込まれ、末梢静脈血中にカイロミクロンが出現するのはごくわずかでしかありません。そのわずかなカイロミクロンも、12時間絶食すると完全に空腹時の状態に戻ります。しかし、食後12時間たってもカイロミクロンが消失しない病態を高カイロミクロン血症と呼びます。カイロミクロンは多量のトリグリセリドを含みますから、通常血清TG値は1000mg/dl以上と著しい高値になります。最近の研究ではこの高カイロミクロン血症は心血管イベントの危険因子となることが明らかになりつつあります(血管内膜下に沈着したり、small dense LDLを増加させたり、HDLを低下させたりして)。
高カイロミクロン血症をきたす明らかな基礎疾患のない高カイロミクロン血症を原発性高カイロミクロン血症と呼びます。原発性カイロミクロン血症の原因には、家族性リポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症、アポリポ蛋白C-Ⅱ欠損症、アポリポ蛋白A-V欠損症、GPIHBP1欠損症、LMF1欠損症、原発性Ⅴ型高脂血症、自己免疫性高カイロミクロン血症などがあります。
家族性リポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症は常染色体劣性遺伝を示し、100万人に一人と大変珍しい病気な上、LPLの測定方法が煩雑で高額なため安易に検査するものではありません。LPL欠損症を非LPL欠損症と比べるとのトリグリセライドが2446±2234(以下、平均値±SD)(1477±670、非LPL欠損症データ、以下同様)と著しく高値、総コレステロールが267±21.4(328±52)とトリグリセライドに比べそれほど高くない、HDL-Cが14.2±5.1(31.8±6月.01)と著しく低値(以上、金沢医大小林淳二先生発表データ)といった特徴があります。これらによりスクリーニング可能です。
アポリポ蛋白C-Ⅱ、アポリポ蛋白A-V、GPIHBP1、LMF1は、LPL活性を発揮するために必須の分子のため、その欠損症ではLPL活性が発揮できず、LPL欠損症同様の病態を示します。アポリポ蛋白C-Ⅱは保険診療で比較的簡単に調べることができます。これらはLPL欠損症以上に稀な病気なので、上記の如く事前にある程度スクリーニングした上で疑います。
原発性Ⅴ型高脂血症は、カイロミクロンとVLDLが同時に増加する病態で、LPL欠損、アポリポ蛋白C-Ⅱ欠損などが上記の既知の原因が認められず、原因不明です。

 

高トリグリセライド血症と急性膵炎

以上の如く、原発性カイロミクロン血症はいずれの病型もトリグリセライド>1000~2000mg/dlの著しい高トリグリセライド血症をきたすため、急性膵炎発症のハイリスク状態です。大量のトリグリセライドが膵毛細血管のリパーゼにより加水分解され、大量に生成された遊離脂肪酸が血管壁や膵実質を損傷したり、血流障害が加わるためと考えられています。高脂血症により発生した膵炎は、軽症~中等症のことが多いですが、基本的に絶食が必要なため、入院せざるを得ないことが多いです。時に重症化(膵炎の約15%)することがあります。重症急性膵炎は致死率10~20%と大変危険な病気のため、膵炎そのものを発病させないことが重要です。 このように、原発性カイロミクロン血症の予後は、動脈硬化性疾患の合併より、急性膵炎の発症、その重症度により左右され、指定難病となっています。

低HDLコレステロール血症について

HDLコレステロールが低ければ低いほど動脈硬化性疾患が発症しやすくなります。しかし、逆に高いほど発症しにくくなります。そのため善玉コレステロールと呼ばれています。HDL-C>100mg/dlあり、家族歴が明らかな場合、家族性高HDLコレステロール血症と呼び、別名、長寿症候群ともいわれていました。内臓脂肪が蓄積するメタボリック症候群ではトリグリセライドが増加し、HDLコレステロールが減少するため心筋梗塞を発症しやすくなります。
LDLコレステロールを低下させる薬は多数ありますが、残念ながらHDLコレステロールをしっかりと増加させる薬はありません(多少はあります)。HDLコレステロールを増加させるには、適度な運動、動物性脂肪を減らし、野菜、海草、魚類を中心とした食事、肥満の是正、禁煙などが有効です。
低HDL-C血症を引き起こす指定難病疾患としてLCAT欠損症タンジール病があります。ともに常染色体劣性遺伝疾患で極めてまれな疾患です。幼少期から著しい低HDL-C血症を認めますが、自覚症状が乏しく症状出現に時間を要することから診断されずにいる方が多いと推測されています。両者とも詳しくは厚生労働省難病情報センターのリンク先の一般の方向け解説をお読み下さい。いずれも治療法は確立されておらず、食事療法が中心になります。

 

未使用HDL3と使用済みHDL2について

定期的に飲酒されている場合、HDL-コレステロールが増加します。しかし、これは動脈硬化を抑制させる働きのない使用済みのHDLコレステロールです。ですから、むしろ動脈硬化を促進する可能性があります。「small dense LDL超悪玉コレステロールの項」でコレステロールを運ぶ舟にはカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLの5種類があることをお話ししました。HDLは肝臓から末梢組織に向かい、余分なコレステロールを抜き取り、肝臓に戻りコレステロールを肝細胞に引き渡します。このコレステロールを受け取る前のHDLをHDL3(未使用のHDL)、コレステロールを受け取った後のHDL(使用済みのHDL)をHDL2と呼びます。ですから、HDL2が増加しても動脈硬化抑制作用はありません。常習飲酒者で増加するのは、HDL2のため、動脈硬化の予防にはなりません。ですから1日25g以上の(エチル)アルコール(日本酒1合、ビール中ビン1本、焼酎半合弱に相当)は控えてください。現在高コレステロール血症治療薬として頻用されるスタチン製剤が発売される前は、プロブコール(商品名:ロレルコ、シンレスタール)が主要な高コレステロール血症治療薬でした。この薬は、LDL-Cを低下させますが、HDL-Cも低下させるため、動脈硬化抑制作用が相殺されると考えられ、スタチン製剤に取って代わられました。しかし、最近、プロブコールで低下するのは使用済みのHDL2のため動脈硬化抑制作用を低下させないことが明らかとなり、見直されています。

 

LDLコレステロールとHDLコレステロールの比(L/H比)について

最近、LDLコレステロールとHDLコレステロールの比、L/H比=2が動脈硬化発症の分水嶺であることがわかってきています。L/H比2以下では血管壁は薄くなり、逆に2以上では厚くなっていきます。もちろんこれはLDLコレステロールを適切な値まで低下させていることが前提です。

n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA;エイコサペンタエン酸、DHA;ドコサヘキサエン酸)の効用

そもそも脂質とは

コレステロール値の高い患者さんに、高脂血症について説明していると、ときどき「先生、中性脂肪が正常でもコレステロールが多いのは高脂血症ですか?」「トリグリセライドと中性脂肪は同じものですか?」「こんなに痩身体型で皮下脂肪がないのに高脂血症なのですか?」「っこいものが嫌いでほとんど食べないのに高脂血症なのですか?」「オリーブオイル魚油なのに高脂血症に良いのですか?」「DHAEPAのサプリメントは脂肪酸と書いているのに高脂血症の私が摂っても大丈夫なのですか?」等と素朴な疑問をぶつけられることがあります。
これらの疑問は、脂質にまつわる用語が多数あるため混乱されているのだと思います。そこで、まず、その辺を整理してみたいと思います。

  1. 「脂質」とは、生物内に存在する水に溶けず有機溶媒に溶ける有機化合物の総称
  2. 「脂質」を分類すると下記の3種類になります。
  1. 単純脂質:アルコールと脂肪酸のみがエステル結合してできているもの
  2. 複合脂質:分子中にリン酸(リン脂質)、糖(糖脂質)やタンパク質(リポ蛋白)を含む脂質
  3. 誘導脂質:単純脂質や複合脂質から、加水分解にて誘導される疎水性化合物
  1. 単純脂質のうち、生体内ではアルコールとしてグリセロール(=グリセリン、浣腸に使う物質)を持つものが多く、それらはグリセライド(=グリセリド)と呼ばれます。グリセロールには3つの水酸基があるため、エステル結合した脂肪酸の数により、モノグリセライド(脂肪酸1個)、ダイグリセライド(2個)、トリグリセライド(3個)の3種類が存在します。生体中のグリセライドのほとんどがトリグリセライドです。トリグリセライドは脂肪として生体内に蓄えられ、エネルギー貯蔵や組織保護(クッション、肉布団)を担っています。
  2. 複合脂質は細胞膜などの生体膜を構成したり、生体内での情報伝達を担ったりしています。
  3. 誘導脂質には、脂肪酸、イコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン等)、ステロイド(コレステロール、胆汁酸、ステロイドホルモン)、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)等があり、身体の構成、エネルギーの貯蔵、ホルモン等の生理活性物質として働いています。
    このように、体内の脂質には多種多様なものが存在しますが、高脂血症といえばコレステロールやトリグリセライドが高値の場合です。
    では、脂質と脂肪はどう違うのでしょうか。脂質は上記の通りです。一方、「脂肪」という言葉は広義には有機溶媒に溶ける物質、すなわち脂肪=脂質として使われますが、狭義では「脂肪」は「脂(あぶら)」とも呼ばれ、動植物に含まれる栄養素で、糖質、たんぱく質と合わせ三大栄養素を構成するものです。その実態は、上述のごとくグリセライドです。純粋なグリセライドは無色、無味、無臭、中性のため中性脂肪とも呼ばれています。血液中のグリセライドのほとんどが「トリグリセライド」であるため、一般に医学の世界では中性脂肪というとトリグリセライド(トリグリセリド、TG)と同義です。すなわち、「脂肪」(ステーキ肉周囲の脂身、霜降りの松坂牛のさし、肥満者のお腹に付着した皮下「脂肪」)は中性脂肪(トリグリセライド)がその実態です。
    さらに、「脂肪」は栄養学上「油脂」とも呼ばれ、常温で液体のものを脂肪油(単に「油」、oil)、固体のものを脂肪(単に「脂」、fat)と呼び分けます。

脂肪酸

脂肪酸とは上述の如く誘導脂質の一種で、グリセロールとエステル結合し中性脂肪を構成します。脂肪酸には、下図(持田製薬ホームページより転載)の如く分類されます。

不飽和度(炭素鎖に二重結合や三重結合等の不飽和結合があるかないか、難しく考えず聞き流してください)により不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸に分類されます。飽和脂肪酸は、動物性脂肪、ラード、バター、鶏卵、ヤシ油等に多く含まれ、不飽和脂肪酸に比べ融点(溶け出す温度)が高いため常温では固体のことが多いです。出血時、止血させる血液凝集作用がありますが、過剰になると動脈硬化を促進させることになります。ですから、食事中の脂質は基本的に下記の一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸でまかなうことが推奨されています。
一方、不飽和脂肪酸は、不飽和結合の数によって一価と多価不飽和脂肪酸に分類されます。不飽和脂肪酸は、逆に飽和脂肪酸より融点が低いため常温では液体のものが多いです。一価不飽和脂肪酸は、オリーブ油、ベニバナ油、ナタネ油、サラダ油等に多く含まれます。その代表がオレイン酸でオリーブ油の主成分です。オレイン酸の名前の由来はオリーブ(Olea europaea)です。飽和脂肪酸は体内に取り込まれた後、不飽和脂肪酸のこのオレイン酸に変換されますが、それは一部のため結果として動脈硬化を促進させます。
多価不飽和脂肪酸は、メチル基末端から数えて3番目の炭素の位置に最初の二重結合があるものをn-3系(ω-3系、オメガ3系)、6番目にあるものをn-6系(ω-6系、オメガ6系)として分類します(ここも聞き流してください)。
n-6系の代表的脂肪酸がリノール酸ですが、その代謝産物アラキドン酸からはトロンボキサン類やロイコトリエン類の脂質メディエーターが放出されます。これらのn-6系脂質メディエーターは、動脈硬化、喘息、関節炎、血栓症などの病気に関与しています。血管内皮の炎症を惹き起こし、結果、n-6系多価不飽和脂肪酸は動脈硬化を促進させます。一方、n-3系の代表的脂肪酸はα-リノレン酸です。その代謝産物エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は動脈硬化を抑制したり、中枢神経系疾患(認知証、うつ病、統合失調症等)の改善作用が示唆されたりしています。つまり、n-6系とn-3系多価不飽和脂肪酸は互いにアクセルとブレーキの関係です。

n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA;エイコサペンタエン酸、DHA;ドコサヘキサエン酸)の有用性

EPA有用性の発見は、1970年代、デンマーク領グリーンランドでの疫学調査で、本国の白人に比べグリーンランドのイヌイットは、狭心症や心筋梗塞による死亡率が非常に低いと報告(下図、持田製薬ホームページより転載)されたことがきっかけでした。

白人とイヌイットの摂取脂肪酸組成と心血管系疾患リスク(持田製薬)

本国の白人、イヌイット両者とも総カロリーに占める脂肪摂取率が同程度であったにもかかわらず、本国の白人に対しイヌイットは総コレステロールや中性脂肪が低く、逆にHDLコレステロールが高値でした。摂取脂肪の内容を調べると漁師を生業とするイヌイットの主食が魚やアザラシ等の海獣(魚を主食とするためn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富です)であったのに対し、白人は牛肉や豚肉が中心でした。そのため、n-3系とn-6系の脂肪酸摂取比を調べると、イヌイットは白人に比べ10倍近くn-3系の摂取比率が多かったのでした。さらに、デンマーク本国の都市部に移住したイヌイットも食生活が白人化すると、狭心症や心筋梗塞による死亡率が上昇しました。
同様千葉県沿岸部(勝浦市周辺)と内陸部農業地域(柏市周辺)で行われた疫学調査(下図、持田製薬ホームページより転載、平井愛山, 日本内科学会雑誌 1985;74:13-20より改変)においても、漁業地域では虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)や脳血管障害の死亡率が低いことが明らかになりました。

漁業地域と農業地域における虚血性心疾患脳血管障害の訂正死亡率(持田製 薬)

さらに、グリーンランド同様、EPA摂取量が漁業地域で明らかに多いことが判明(下図、持田製薬ホームページより転載、平井愛山, 日本内科学会雑誌 1985;74:13-20より作図)、その動脈硬化予防作用が示唆されました。

漁業地域と農業地域の魚介類およびEPA摂取量の比較(持田製薬)

全国的に見ても、食生活の欧米化等により脂質摂取量が増加していますが、逆に魚摂取量が減り、EPAの摂取量が急激に低下しています。それと反比例するように、脳梗塞や虚血性心疾患の死亡率が増加しています(下図、持田製薬ホームページより転載、厚生統計協会:国民衛生の動向,厚生の指標36:48,1989)

EPA摂取量と動脈硬化性疾患死亡率(持田製薬)

このような疫学データに端を発した最近の研究において、実際EPA製剤を内服すると虚血性心疾患が減少することが明らかになりました(2009年、JELIS試験)。
では、一体このEPAの心血管イベント抑制効果はどのような機序でもたらされるのでしょうか。研究によりEPAには、①コレステロールやトリグリセライドを低下させる、すなわち高脂血症改善作用、②血小板凝集抑制作用~血液をさらさらにして凝固しにくくする作用、③血管の弾力性を保持する作用~動脈硬化改善作用、④抗炎症作用等があることが明らかになっています。
一方、DHAはEPAと似た物質ですが、EPAとは異なった特徴を持っています。それは脳や網膜(眼にある光を感じるための膜)にはEPAはほとんどなくDHAしかないことです。摂取したEPAは脳内ではすぐにDHAに変化するため、結局脳内のn-3系脂肪酸はほとんどがDHAです。脳の約60%は脂質です。そして実にその約20%がDHAなのです。DHAは脳内ではリン脂質として存在します。リン脂質は上述の脂質の分類うち複合脂質です。細胞膜などの生体膜を構成したり、生体内での情報伝達を担ったりしています。DHAには神経細胞の新生、分化誘導促進作用があります。そのような特徴があるため、脳、中枢神経系に対するDHAの効用に関するさまざまな報告がなされています。DHAの記憶や学習機能向上作用が報告されています。「魚を食べると頭が良くなる」とか「日本人の学力が高いのは魚食中心の生活をしているからだ」といった話を聞いたことはありませんか。これは余りに単純化した結論のため額面どおり受け取るわけにはいきません。いくらDHAをたくさん摂っても、自然に頭が良くなることはありません。脳を使わなければ脳内の神経ネットワークは発達しないはずです。つまり、いくらDHAをたくさん摂っても勉強しなければ成績は上がりません。しかし、不足するとさまざまな障害をきたします。とくに乳幼児期の脳の発達には必須であることは間違いないようです。妊娠中DHAが不足すると網膜の成長が阻害され視覚障害をきたします。また、発達障害や学習障害のある児童にDHAを投与すると改善したとする報告があります。
また、DHAのアルツハイマー病の予防改善効果を示す研究結果が幾つか報告されていますが、まだ確定していません。日本、フィンランド等で、魚食量の多いヒトの方が少ないヒトより、うつ傾向、自殺が少ないとする研究結果も報告されています。アルツハイマー型認知証やうつ病の一部の方では、脳のとくに海馬(新しい記憶の形成をつかさどる部位)が著しく萎縮することが報告されています。海馬は脳の他の部位に比べ2倍以上DHAを多く含みます。そのため、魚を多く摂取すると萎縮した海馬の容積が増大することが報告されています。また、統合失調症に対する有効性の報告もあります。完全に解明されていない点も多数ありますが、脳神経系に対するDHAの効用はかなり確かなようです。

必須脂肪酸EPAとDHAの上手な摂り方

n-3系、n-6系多価不飽和脂肪酸とも、ヒトは体内で合成することができず、必ず食品から摂取しなければなりません。そのため必須脂肪酸と呼ばれています。ちなみに、生体内で生合成できないため個体の成長や維持のため食物によって摂取しなければならない栄養素で、不足するとさまざまな欠乏症状をきたす微量活性物質を必須栄養素と呼びます。一般に、18種類のビタミンと20種類のミネラル、そして8種類のアミノ酸を合わせ合計46種類といわれていました。しかし、最近、これら多価不飽和脂肪酸も必須栄養素であることが解ってきました。摂取したα-リノレン酸からEPA、DHAに代謝されるのは10%程度な上、多価不飽和脂肪酸は生体内で合成できないため、生体内でのn-3系とn-6系の比率は、食品からの摂取量に依存します。つまり、食物中のn-3系とn-6系多価不飽和脂肪酸のバランスがそのまま生体内のn-3系とn-6系の比率に反映されるのです。厚労省は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」において健常人も、1g/日以上のn3系脂肪酸(EPA及びDHA)摂取を推奨しています。
n-6系は、コーン油、マーガリン、大豆油、ひまわり油、紅花油、クルミ、サラダ油等に多く含まれます。n-3系の内、α-リノレン酸はシソ油、エゴマ油、アマニ油等に、EPAやDHAは、魚油、肝油、海藻類、オキアミ油等に多く含まれます。多くの食用油はn-6系脂肪酸を多く含み、n-3系はほとんど含まれません。食生活の欧米化に伴い上述の図の如く現代人では、EPAに代表されるn-3系脂肪酸の摂取量が著しく減少しています。
実は、ヒト同様、魚類も含め動物はEPAやDHAを体内で合成することはできません。海藻や植物性プランクトン内で合成されたn-3系脂肪酸がオキアミ等の動物性プランクトン、魚類と順次食物連鎖により蓄積しているのです。そのため、魚類には多くのn-3系脂肪酸が含まれています(下図、持田製薬ホームページより転載、五訂増補 日本食品脂溶性成分表(2005年))。

主な魚のEPA含有量(持田製薬)

図の如く、n-3系多価不飽和脂肪酸は、魚と言っても青背の魚、いわゆる青魚、赤身魚、寿司ネタの光り物に多くに含まれます。ひらめ、かれい、きす、たら等の白身魚はそもそも脂質含有量が少ないためn-3系脂肪酸も少ししか含まれません。青魚が回遊魚であるのに対し、これらは皆岩場や砂場に棲み付いている魚、底物です。
青魚も獲れた時期で極端にn-3系脂肪酸含有量が異なります。例えば、かつおは春獲り(初鰹)と脂の乗った秋獲れ(戻鰹)では含有量の差は10倍以上です。魚の部位でもかなり異なり、本マグロの赤身は脂身に比べ、EPAは約50分の1、DHAは約25分の1しか含んでいません。DHAは目玉の裏のゼリー状の部分、眼窩脂肪に最も多く含まれます。
また、調理法によっても脂肪酸の摂取効率はかなり違います。焼魚や煮魚にすると約20%脂肪酸は減ります。天ぷらやフライに至っては約60%減少します。やはり、生食(マリネ、酢の物)、刺身、あるいはホイル焼き等が最も効率よく脂肪酸を摂取できます。
また、不飽和脂肪酸は、不飽和結合を持つため酸化されやすいという弱点があります。脂肪酸が酸化されると、変色したり固化したりし、本来の作用を発揮できません。ですから、新鮮な食材を加熱し過ぎないよう調理するのが大切です。また、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール等の抗酸化物質を含む、緑黄色野菜、果物、お茶、コーヒー、赤ワイン等も食べ合わせるとよいでしょう。ちなみに後述する処方せん医薬品のEPAやDHA製剤は、ビタミンEを配合したり、包装内に窒素ガスを充填し酸素と触れないようにしたりして、酸化されないよう工夫されています。EPAやDHAのサプリメントメーカー各社ホームページで、n-3系脂肪酸を効率よく摂取するレシピが多数紹介されています。参考にされてはどうでしょうか。
厚生労働省は、年齢にもよりますが、EPAやDHA等を合わせたn-3系多価不飽和脂肪酸を1日当たり1~2g摂取することを推奨しています。サバの水煮缶詰には実に2370mg(可食部100g当たり)もDHAが含まれます。EPAやDHAを効率よく摂取するには、脂の乗った青魚を旬の時期に刺身で頂いたり、兜煮や兜焼で頂いたりするのがベストですが、あまり難しく考えずに隔日(1回で二日分)で青魚をいただくようにすればよいのではないでしょうか。私自身も、昼食は緑黄色野菜サラダ、ゆで卵、サバ水煮または味噌煮缶詰のお弁当を定番で持参しています。

魚介類の摂取と水銀汚染について

魚介類の中に水銀が含まれていることをご存知でしょうか。魚介類過剰摂取による水銀の健康への影響にてついて、厚労省でも「これからママになるあなたへ」と題するパンフレットを作成し注意を促しています。妊婦以外の方では問題はありませんが、妊婦に関しては胎児への影響が懸念されており注意が必要です。妊婦の方はパンフレットをお読みください。

EPAとDHAの過剰摂取について

これまで、EPA、DHAの効用についてばかりお話してきました。しかし、上述の水銀汚染の問題のみならず、マイナス面もあります。n-3系脂肪酸は適量摂取すると血液さらさら効果がありますが、逆に1日3g以上過剰摂取すると、血液凝固能が極端に低下し、出血傾向(出血しやすい、出血が止まりにくい)をきたす可能性があります。実際、薬としてEPA製剤を内服されている方は、服用を中断した後でなければ内視鏡検査を受けられません。とくに、血栓症に対するワーファリン等抗凝固剤、アスピリン等血小板凝集抑制剤の投与を受けている方は、一層出血しやすくなるため注意が必要です。服用前に主治医にご相談されることをお勧めします。
EPA、DHAの功罪に関して詳しく知りたい方は、独立行政法人国立健康・栄養研究所「健康食品」素材情報データベースでEPAやDHAを検索してみてください。

脂肪酸4分画(EPAやDHA血中濃度)測定と投薬治療について

最近、EPA、DHAのサプリメントの宣伝をよく見かけます。「DHA」でググって見ると、「サントリー」「キューピー」「富士フィルム」「味の素」「大正製薬」「DHC」などなど有名どころの公告が真っ先に出現、挙ってサプリメントを発売しているのが分ります。商品によりEPA、DHAの含有量がかなり異なりますが、EPA、DHA両者合わせて1日摂取量500mg程度のサプリメントで一1ヶ月分が2,000~8,000円前後(1日1g換算で一月4,000~16,000円)のようです。
このようなサプリメントが多数販売されているのは、上述のように、①EPA、DHAが健康によいこと、②それらが必須脂肪酸でヒトの体内で合成できないこと、③食生活に欧米化により、現代日本人では不足しがちなこと、④青魚が食べられない方が珍しくないこと、等が主な理由です。
実は、EPAは既に処方せん医薬品として認可されています。閉塞性動脈硬化症や高脂血症の治療薬としてエパデール®という商品名で発売されています。一月の薬品代は7,830円ほどですが、上記疾患に罹患中の方は保険適応のため、780円(1割負担)~2,350円(3割)となります。さらに、ジェネリック医薬品ではかなり安く一月2,930円(1割負担で290円、3割負担で880円)ほどです。
さらに、EPA+DHA合剤が処方薬として2013年1月認可されました。高脂血症治療薬としてロトリガ®という商品名で薬価収載になっています。一月の薬品代は7,620円ほどですが、上記疾患に罹患中の方は保険適応のため、760円(1割負担)~2,290円(3割)となります。この薬剤は新薬のためジェネリック医薬品は発売されていません。もちろん両薬剤とも診察料等があるため、医療費はこれだけではすみません。しかし、既に慢性疾患で通院治療中の方は、診察料等二重に請求されることはありませんので追加費用は薬品代だけとなります。
健康増進目的の方はサプリメントを購入し服用するのがよいでしょうし、現に閉塞性動脈硬化症や高脂血症を患っている方は、主治医に服薬治療すべきかご相談ください。
なお、当院では、高脂血症で通院されている方で、狭心症・心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞、頸動脈超音波検査で動脈硬化症を認めた方には、EPAやDHA投与前に必ず、「脂肪酸4分画」検査(採血)を受けていただきます。この検査では、n-6系のDHLA(ジホモγ-リノレン酸)、AA(アラキドン酸)、n-3系のEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)を測定し、n-3系脂肪酸の不足程度を評価、その上で投薬治療の要否を判断しています。EPA、DHAは過剰投与で出血傾向という副作用がありますから、むやみ内服すべきではありません。
閉塞性動脈硬化症、高脂血症をお持ちの方は是非当院を受診してください。

最後に

今回薬物療法の種類や適応、治療目標値、さまざま特殊ケースに関する治療方針などの説明は割愛しています。実際の外来診療において患者さんにご説明しながら診療を進めていきます。

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