糖尿病とはどんな病気なのか保坂利男 執筆

最近の調査では、日本では20歳以上成人の4人に1人近くが、患者かその予備軍と推測されている。
一度発症したら完全に治ることはありません。食事療法、運動療法をおこない、必要に応じて薬を使用することで、血糖値を健常者と同じ正常範囲に保つことでコントロールが可能な病気です。
日常の生活習慣(食習慣、運動習慣など)と主治医との相談、管理、治療によって血糖値を正常に保つことができるのです。
糖尿病の状態は年月の経過とともに変わってきます。主治医との継続的な管理、治療のもと、合併症を防いで、健康寿命を維持します。
糖尿病は、あなたと私たち主治医との共同作業により管理するのです。
糖尿病は大きく分けて1型と2型の2つがあります。
2型糖尿病 は、インスリンが出にくくなるか、インスリンが効きにくくなるか、または両者が合わさることにより、血糖が上昇するものです。
すい臓から作られるインスリンが出にくくなって、血糖を下げるまでの十分量ではないか、インスリンによる血糖を取り込んでくれる筋肉などへの作用が落ちてくる、すなわちインスリンが効きにくくなることで血糖が上昇します。
糖尿病患者の10人に9人以上はこのタイプです。
2型糖尿病になるかどうかには遺伝、老化、肥満など影響しており、誰にでもかかる可能性がある病気ですが、年を取るほど発症する確率が増えてくる病気です。
- 2型糖尿病の原因
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- 中年以上
- 妊娠中のみ血糖高めで治療していた人
- 肥満
- 体重4kg以上の赤ちゃんを出産した
- 家族に糖尿病の患者がいる
- ストレスや不眠がある人
- 運動をほとんどしない人
- 2型糖尿病を初めて指摘された時または血糖不良時の症状
- 2型糖尿病は、自覚症状がまったくないことが多く、健康診断で指摘されることが多い。血糖が相当高くなった時や高い状態が続くと以下のような症状が現れるときがある。
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- 空腹感や逆にお腹がすかない
- 目がかすむ
- 切り傷やその他の皮膚の傷が治りにくい
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- 1型糖尿病(インスリン欠乏による糖尿病です)
- 原因は不明ですが、免疫異常によって、膵臓のβ細胞が壊されて、インスリンが枯渇してくることで発症する糖尿病です。遺伝はしないと考えられて言いますが、かかりやすい体質があることが分かっています。
典型的な疾患は、突然現れる以下の症状を認めます。
- 1型糖尿病の原因
- 1型糖尿病の原因は正確にはわかっていませんが、関係する因子としてあげられるのは次の2つです。
- 1型糖尿病にかかりやすい体質を持っている。
- 何らかの原因により、インスリンを作っている、すい臓の一部が破壊される。
糖尿病が引き起こす合併症
糖尿病は自覚症状がなくても、合併症が徐々に進行して、気がついた時には合併症のため、日常生活に支障があらわれることがあります。きちんと血糖値をコントロールできれば、合併症を予防できることがわかっています。そのためにも、しっかり治療を行い、きちんと血糖値を下げることが必要です。
- 糖尿病神経障害
- 糖尿病神経障害では、高血糖により、手足の神経に異常をきたし、足の先や裏、手の指に痛みやしびれなどが左右対称にあらわれます。
ひどくなると常に痛みを感じ、夜も痛みのため練れない状態なり、さらに、ひどくなると知覚低下により、傷に気づかず、足壊疽などになることもあります。
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病網膜症では、高血糖により、眼底の網膜の血管がむしばまれていき、進行してしまうと失明に至ります。初期には、自覚症状がないため、糖尿病と言われたら定期的に眼底検査を行いましょう。
- 糖尿病腎症
- 糖尿病腎症では、高血糖により、腎臓にある血管がむしばまれていき、進行すると、腎臓の機能が落ちることによる多くの症状が出現して、最後は、透析導入に至ることもあります。初期には自覚症状がないため、主治医の指示に従って定期的に検尿などの腎機能を検査が必要です。
- 動脈硬化(脳卒中・心臓疾患)
- 糖尿病は動脈硬化の原因となり、心臓疾患や脳卒中を引き起こすことがあります。
糖尿病以外にも、動脈硬化の原因として、高血圧、高脂血症、肥満があり、これらと糖尿病を管理して動脈硬化の進行を抑えます。
糖尿病の検査
定期検査で病状を把握するためには血糖値やヘモグロビンA1c(エーワンシー)の検査が必要です。治療の目標値は、患者個々の年齢、合併症などにより違いますので、主治医に確認が必要です。
- ヘモグロビンA1c
- 血糖値が高くなるとブドウ糖が赤血球の中のヘモグロビンと結合します。これがヘモグロビンA1cと呼ばれるもので、血糖値が高いほどヘモグロビンA1c値も大きくなります。この値は、去1~2ヵ月の血糖コントロール状態を示していると考えられています。
ヘモグロビンA1c値は合併症の進行の予防のためには、7.0%未満をめざしますが、人によっては、7.0%未満を目指すことで低血糖が増えることもありますので、必ず主治医に確認して、治療目標を決める必要があります。
肥満減量手術→糖尿病手術→代謝手術metabolic surgery髙松慶太 執筆
昨今話題となっている肥満に対する外科治療、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)について解説します。
減量を目的として外科治療は欧米では1960年代から始まり、アジアでは1981年の台湾が最初で、日本では、1982年に千葉大学外科の故 川村功助教授が開始しています。もちろんこれらは単純に痩せるためではなく、高度肥満による糖尿病をはじめとする様々な合併症があり、薬物療法等様々な内科的治療が奏功しなかった方々を対象として行われるようになりました。しかし、当初は、残胃における胃がんのリスクが無視できないこと(胃をショートカットして繋ぎ合わせる初期の術式では、術後胃の観察が困難となる上、とくに日本人はピロリ菌感染者が多く胃癌のリスクが高かったため)、腹部を大きく切開しなければならないこと、また保険適応でなかったことより、広く行われることはありませんでした。その後、切除後も胃の観察が可能な術式が開発され、また、1990年代になり腹腔鏡を使用、小さな傷口だけですむ手術方法が開発されると、日本でも2000年代になり腹腔鏡補助下胃バイパス術、腹腔鏡下胃バイパス術、腹腔鏡下胃バンディング術、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術、腹腔鏡下スリーブバイパス術等が行われるようになりました。それでも保険適応ではなかったのでそれほど手術症例数が増えることはありませんでした。しかし、2004年腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)が保険適用となり、一気に手術症例数が増加しました。サッカー選手のマラドーナ、元力士のKONISHIKI、歌手のマライア・キャリーなどがこの手術を受けています。
本手術は肥満があればだれでも受けられるわけではありません。保険適応となるのは、患者が、
- BMI(体格指数のこと、体重(kg) ÷身長(m) ÷身長(m)で計算。基準値は18.5以上、25未満で、それ以上が肥満で、未満が低体重)35kg/平方m以上の高度肥満
- 6ヶ月以上の内科的治療でも減量効果がない
- 糖尿病、高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併
のすべてを満たした場合のみです。また、この条件を満たしさえすればどの医療機関でも保険適応となるわけではなく、その医療機関が厚労省の定める施設基準を満たしていなければなりません。それ以外の場合、自費での手術となります。
手術を自費で実施する場合の適応は、下記の如き日本肥満症治療学会ガイドライン(2013年版)を基本的に踏襲している施設が多いようです。
- 対象年齢は18歳から65歳まで
- 原発性(一次性)肥満症(肥満の直接的原因となる基礎疾患を認めない肥満症。ホルモンの異常や、薬の副作用などが原因の場合、それらの治療を行う)の患者
- 6ヶ月以上の内科的治療を行ったにもかかわらず、体重減少や肥満に伴う合併症の改善が認められない場合
- 減量手術が目的の場合はBMI 35以上、肥満関連疾患の治療が主目的の場合は32以上
となっています。自費の場合、医療機関により色々ですが、おおよそ150~200万円位かかるようです。
減量手術の症例数が全国一多い医療機関が四ッ谷メディカルキューブです。同院の減量・糖尿病外科のホームページには各術式の解説等が詳しく掲載されています。詳細はそちらをご参照下さい。
ところで、「肥満の治療に健康保険を使って手術をするなんて。美容外科で受ける皮下脂肪吸引は保険が利かないのに。」と感じる方も多いのではないかと思います。この肥満減量手術は美容目的ではなく、高度肥満のため肥満症、肥満合併症を併発しているにもかかわらず、内科的保存治療が無効な方を対象とした手術療法(bariatric surgery;肥満減量手術)です。当初は、肥満者の摂食抑制、また吸収抑制による減量効果(40~50kgくらい)が専ら期待されていました。しかし、近年、外科手術よる減量は、体重の減少に加え、さまざまな代謝異常(2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、脂肪肝、肥満関連腎臓病、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、整形外科的疾患)を是正させることが明らかとなっています。とくに2型糖尿病に関しては、早期から血糖値が著明に改善、その効果はあらゆる薬物療法を凌ぐほどで、糖尿病治療薬が不要となる患者さんも珍しくありません。そのため、単に肥満減量手術と呼ぶことが、その実態とそぐわなくなり、2002年にはdiabetic surgery糖尿病外科手術と呼ぶことが提唱されました。消化管外科手術は単に摂取エネルギーの減少による減量のみならず、さまざまな消化管ホルモンバランスを変動させ、代謝を改善させることが明らかになりました。各々の手術方法は全く異なるものですから、当然、術式による効果の違いも明らかになり、現在では肥満外科手術をmetabolic surgeryと呼ぶことが一般的となっています。
日本は欧米諸国に比べ肥満人口は多くありませんが、糖尿病人口は多く、世界の糖尿病患者の6割はアジアに集中しています。LSGを単に肥満減量手術と考えるのではなく、Metabolic surgeryと捉えるとその日本における手術適応範囲は、むしろ欧米以上に広いと言え、海外や日本の糖尿病学会、肥満学会でも有力な治療法として明記されるに至っています。
最後になりますが、このように述べると良いこと尽くめですが、やはり、デメリットもあります。術式により異なりますが、難治性の逆流食道炎を発症したり、ビタミン剤などのサプリメントを一生涯服用したりしなければならないことが多いですし、今後新たな問題が発生しないとは言い切れません。手術を希望される方は、担当医から十分な説明を受け、納得して決断すべきです。