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ワクチン・ギャップについて

皆さんは「ワクチン・ギャップ」という言葉をご存知でしょうか。これは、日本ではワクチン副反応への危惧から予防接種行政が著しく停滞、世界保健機関WHOが勧告するワクチンが予防接種法の対象となっておらず、先進諸国と比べて公的に接種するワクチンの種類が極端に少なくなっていることを指す言葉です。たとえば、はしか(麻疹)、風疹、ムンプス(おたふく風邪)など、海外から日本はそれらの流行地!とみなされています。最近も日本で麻疹に感染した子供が、渡航先の米国内で周囲の人を感染させ、「はしか輸出国」という不名誉な批判を受けました。日本は接種できるワクチンの種類も少なければ、接種率も極端に低いワクチン後進国なのです。昨今の風疹大流行も1995年以前は、男児が風疹ワクチンの接種対象者になっていなかったことが主因です。
確かにワクチンは完全無欠な万能薬ではなく、副反応がありえます。不幸にもワクチンの副反応と思われる重篤な障害~後遺症に苦しんでいる方がいるのも事実です。にもかかわらず、ワクチンの有用性が喧伝されているのは、総合的に判断して利点が欠点に勝っているからです。種痘により天然痘で死ぬはずの何十万人、何千万人が救われたのは疑いようがありません。「羹に懲りて膾を吹く」が如く、不幸にもワクチン副反応で亡くなられた数人の命が、救われるべき数十~数千人の命を道連れにしているのが今の日本です。その原因は、1、行政が副反応に関連した訴訟などを危惧し、ワクチン推奨、義務化に対し腰が引けている、2、現在ワクチンの実施主体となっている地方自治体により公費負担制度が異なり、「必ず接種するもの」というメッセージ伝わっていない、3、医療従事者間でもワクチンに対する統一した見解、認識が確立しておらず、その説明内容が異なるため、接種対象者に不安を抱かせている、4、ネット上、ワクチン不要論、害悪論、懐疑論が流布されているが、専門家である医療従事者が積極的に否定するアクションを起こしていない、5、ワクチンを製造するのは製薬メーカーであり、金儲けのためワクチンを売っているのであろうという利用者の先入観、固定観念がある、ことなどです。
当院では、ワクチンが接種者個人のみならず、地域社会communityを守るための医療技術であることを積極的に訴えていきたいと考えています。

予防接種

予防接種は予約0422-70-1035(新型コロナワクチンのみ090-7537-6807)が必要なものもあります。

予防接種の中には、水痘(水ぼうそう)、麻しん風しん混合ワクチン、水痘(帯状疱疹)ワクチン、子宮頸がんワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン等のように費用助成制度のあるものがあります。詳しくは三鷹市ホームページの予防接種の項をご覧ください。

昨今の風疹の大流行を受け、三鷹市で先天性風しん症候群対策予防接種費用助成事業が決定、2013年4月15日から開始になりました。対象者は、19歳以上の三鷹市民で、1、妊娠を予定または希望している女性、2、その同居者、3、妊婦の同居者です。予防接種に先立ち、まず、抗体検査(血液検査、風しんに対する免疫の有無を調べる)を実施、免疫が不十分であった場合のみ予防接種を実施、その費用の一部を助成することになりました。風しん抗体検査は自己負担なく無料です。
詳細は市報または三鷹市ホームページをご覧ください。都内では、ほとんど~全部の自治体で同様の費用助成が始まっているようです。お住まいの自治体にお問い合わせください。
なお、風しんワクチンには単体ワクチンと、麻しんワクチンと混合した麻しん風しんワクチン(MRワクチン)があます。風しんワクチンの代わりにMRワクチンを接種した場合、麻疹(はしか)にまで免疫が得られることと、費用が高くなる(1,745円→5,000円)こと以外違いは無く、単体ワクチン同様風疹に対する免疫が得られます。

風しんワクチンの詳細については、「風疹と先天性風疹症候群について」を御参照下さい。

ワクチンの種類(対象年齢) 一般的な接種回数
(ワクチン接種歴により異なる)
価格(1回、税込)
(不)A型肝炎(1歳以上) 2~3回
(0、2~4、24週間後、
または0、2週間後)
8,260円
(不)B型肝炎(1歳以上) 3回+α
(0、4、20~24週間後。
抗体獲得不十分時は追加接種)
5,500円
(生)乾燥弱毒生水痘(水ぼうそう)ワクチン
(1歳以上、ただし帯状疱疹予防は50歳以上)
1回 8,260円
(不)帯状疱疹ワクチン(シングリックス)
(50歳以上)
2回(0、2か月後)  22,000円
(生)麻しん(はしか)(1歳以上) 1回 5,500円
(生)風しん(三日ばしか)(1歳以上) 1回 5,500円
(生)麻しん風しん混合(MR)(1歳以上) 1回 8,800円
(生)ムンプス(おたふく風邪)(1歳以上) 1回 5,500円
(不)成人用肺炎球菌ワクチン
(ニューモバックスNP)
(2歳以上)
1回 8,260円
(不)成人用肺炎球菌ワクチン(プレべナー13)
(65歳以上)
1回 11,210円
(不)子宮頸がん予防(HPV)ワクチン
(サーバリックス、ガーダシル)
(サーバリックスは10歳以上の女性、ガーダシルは9歳以上の男女)
3回
(0、1(サーバリックス)、2(ガーダシル)、6ヶ月後)
*急ぐ場合、サーバリックスは、2回目は1回目から1~2.5カ月の間で、3回目は1回目から5~12カ月の間で接種。ガーダシルは、2回目は1回目から少なくとも1カ月以上、3回目は2回目接種から少なくとも3カ月以上間隔をあけ接種する。
17,810円
(不)子宮頸がん予防(HPV)ワクチン(シルガード9)
(9歳以上の女性)
2または3回
(0、2、6ヶ月後)
*急ぐ場合、2回目は1回目から少なくとも1カ月以上、3回目は2回目接種から少なくとも3カ月以上間隔をあけ接種する。
1回目接種が15歳未満の女性の場合、6ヶ月の間隔を置いて2回接種で代用できる。急ぐ場合でも少なくとも5ヵ月間隔をあけて接種、5ヵ月未満となった場合、少なくとも3ヵ月以上間隔を空けて3回目接種が必要。
26,400円
(不)破傷風(トキソイド)(6歳以上) 1回 3,360円
(不)インフルエンザワクチン(6ヶ月以上) 6ヶ月~13歳未満は2回、
13歳以上は1~2回
(0、1~4週間後)
4,000円
(不)狂犬病ワクチン(0歳以上) 3回
(0、7日、21または28日後)
16,500円

注.ワクチンの種類の前の「(不)」は不活化ワクチンを、「(生)」は生ワクチンを意味します。

不活化ワクチンは死ワクチンとも呼ばれ、ホルマリン処理などで死んだウイルスや細菌を使用したもの、細菌の産生する毒素を不活性化したもの、ウイルスの感染防御に関係した一部分を使用したものなどがあります。一方、生ワクチンは生きている細菌やウイルスの病原性を弱くしてワクチンとして使用するもので、弱毒生ワクチンともいわれます。生ワクチンは生きているため接種後体内で増殖、実際に感染するため、少量でも、すなわち1回接種でも強く長時間持続する免疫が獲得できるという利点がありますが、感染に伴う副反応が出現しやすく、毒性復帰により本物の病気の様な症状が出ることもあります。逆に、不活化ワクチンは副反応の危険性は低いですが、免疫を獲得しにくく獲得しても長時間持続しない場合が多いです。そのため、3回の接種が必要なワクチンもあります。
これまで日本では各種ワクチンの接種間隔に関して厳密な規則があり、生ワクチン接種後は4週間以上あけ、不活化ワクチン接種後は1週間以上間隔を空けることになっています。しかし、こういった規則は欧米にはなく、その影響もあり、日本でも現在は「医師が必要と認めた場合には,同時に接種を行うことができる。」(予防接種ガイドライン)ことになっています。
さらに、2020年の新型コロナウイルス感染症流行拡大による「医療機関受診控え→ワクチン接種忌避→接種率低下」を防ぐ目的もあり、2020年10月1日より、異なる種類のワクチンを接種する際の接種間隔のルールが一部変更されました。異なるワクチンの接種間隔について、注射生ワクチンどうしを接種する場合は27日以上あける制限は維持しつつ、その他のワクチンの組み合わせについては、一律の日数制限は設けないことになりました。注射生ワクチンには、麻しん風しん混合ワクチン・水痘ワクチン・BCGワクチン・おたふくかぜワクチンなどがあります。今回の処置により、不活化ワクチンであるインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなどは接種間隔を気にせず接種できます。また、これまで通り、医師が必要と認めた場合、同時接種もできます。詳細は下図の厚生労働省作成のポスターをご覧ください。

海外渡航などで接種を急がれている場合は、お申し出ください。

 

企業・事業所への出張ワクチン集団接種について

2009年の新型インフルエンザ、2020年の新型コロナウイルス大流行、あるいはそのワクチン開発などを受け、昨今ワクチン接種重要性への認識が高まり、企業防衛を目的とした会社・事業所でのワクチン集団接種依頼が増え、現在複数の企業(のべ接種回数は1,000回超)で実施しています。
事業所での出張接種を希望される会社担当者の方は、健診スクエア0422-70-1037までお問い合わせ下さい。なお、上記のワクチン接種価格、例えばインフルエンザワクチン1回4,000円はあくまでも来院され接種を受けた場合の料金です。医師、看護師、事務職員が訪問して接種した場合、その費用も発生するため、上記価格と違ってきます。また、接種場所、時期、人数、当院の健診受託企業か否かにより料金は異なります。詳細はお電話で担当者にお問い合わせ下さい。

 

B型肝炎の疾患概念のパラダイムシフト~是非、B型肝炎ワクチンを接種してください!

ウイルス肝炎について

肝炎ウイルス感染が原因で起こる肝臓の炎症をウイルス肝炎といいますが、急激に発症するものを急性肝炎、6ヶ月以上炎症が持続しているものを慢性肝炎と呼びます。肝炎ウイルスにはA、B、C、D、E型まで現在5種類が発見されています。各々の特徴は下表をご覧ください。

急性ウイルス肝炎各型の特徴

急性ウイルス肝炎は、基本的に予後良好な病気です。しかし、1~2%の患者さんが劇症肝炎という重篤な状態に陥ります。激症化した場合、50%以上の方が亡くなります。
A型とE型肝炎は表の如く急性肝炎の感染形態しか取らず、慢性化することはありません。よって、激症化しなければ、後遺症もなく完治します。とくにE型はインド、ミャンマー等の熱帯、亜熱帯に蔓延するもので日本ではほとんど見られません。D型は少し特殊でB型肝炎とセットでしか感染しないので臨床上大きな問題になりません。一方、B型とC型は、急性肝炎として完治することもありますが一部は慢性化し、一旦慢性化(持続感染)すると簡単には治癒せず、高率に肝硬変、肝臓がんを発症するため臨床上重要です。上表の如くA型やE型の感染経路は糞口感染で腸管より排泄されたウイルスが水や食べ物を介し口から腸管内に侵入することで発症します。一方、B型やC型は経皮感染で、ウイルスに汚染された血液が皮膚防御バリアを突破し体内に侵入しなければ感染しません。現在問題になっているB型肝炎訴訟は、幼少期の予防接種やツベルクリン検査で注射器を連続使用した結果、感染している患児の血液が他の子供の体内に入り、B型肝炎が集団発生したことによるものです。

B型とC型肝炎の違いについて

以上の如く、B型肝炎とC型肝炎は臨床上の類似点がありますが、異なった点もあります。B型肝炎は3歳以上で感染すると上記の如き激症化例を除けば一過性感染となり、その後は完治、HBs抗体を獲得し、風疹や麻疹(はしか)のように終生免疫が成立します。しかし、出生時に母子感染すると高率に慢性化、後々肝硬変、肝がん発症のリスクを背負うことになります。これは、3歳未満の小児では免疫が未発達なため、体内に侵入してきたB型肝炎ウイルス(以下、HBV)を排除できず、ウイルスが肝臓に棲み着いてしまうためです。胃のピロリ菌と同じです(「健診スクエア」のページ「ピロリ菌、ペプシノゲン法とABC検診~胃がんは早期発見の時代から予防する時代になりました!」をご参照ください)。
しかし、国のB型肝炎母子感染防止事業として、現在既にHBVキャリア(保菌者、持続感染者)妊婦の出産におけるワクチン等の予防法が確立しており、95%以上の確率で感染を予防できるようになっています。そのため、現在日本のHBVキャリア率は0.9%程度まで低下しています。
一方、C型肝炎はB型と異なり、どの年代においても一旦感染すると60~80%程度が慢性化します。すなわち、成人感染において唯一慢性化する肝炎ウイルスです。そして約20年後肝硬変へ進展、高率に肝がんを発症します。また、現在C型肝炎にはB型肝炎のようなワクチンがありません。そのため日本のキャリア率はHBVより高く1~2%と推定されています。ですから、日本におけるウイルス肝炎の主役はHBVからC型肝炎ウイルス(HCV)に取って代わられたと考えられていました。しかし、近年インターフェロンなどの治療法が格段に進歩、高率に完治できるようになっています。一方、B型肝炎はC型ほど治療成績が良くなく、なかなか完治しないのが現状です。

B型肝炎の疾患概念におけるパラダイムシフト

上述の如き知見がこれまでのB型肝炎に対する考え方でした。近年これらの考え方を改めなければならないような知見が集約されてきました。
HBVは経皮感染ですが、具体的には、性行為、消毒不十分な医療器具による観血的医療行為(現在、こういった医療器具はすべて使い捨てになっているため、ご安心ください)、鍼治療、刺青、ピアスの穴開け、剃刀や歯ブラシの共用、麻薬や覚醒剤等の注射器の回し打ち等です。性行為を除けば普通に生活している方が感染することはほとんどありません。新婚旅行から帰って数ヶ月間の潜伏期を経てB型急性肝炎を発症したケースを「ハネムーン肝炎」と呼びますが今でもまれに見かけます。上述のごとくたとえ急性肝炎を発症しても、激症化せず、また、免疫抑制剤や抗がん剤による治療中、後天性免疫不全症候群(AIDS)のように免疫力が低下した特殊な状態でもなければ慢性化することもなく、予後良好で完治していました。
最近、HBVは遺伝子配列の違いからさらにA~Hの8遺伝子型に分類されることが明らかになりました。このようにHBVの予後良好なのは従来日本に蔓延していた遺伝子型B、Cの特徴でした。一方、欧米、アジア、アフリカに多い遺伝子型Aは20~30%の確率で慢性化、持続感染することがわかってきました。そして2000年頃から従来ほとんど見られなかった外来種の遺伝子型Aが性感染症として日本で蔓延してきました。結果、従来の「B型肝炎の場合、思春期以降の感染は一過性感染で、慢性化せずその後は完治する」といった考え方は通用せず、「昨今B型肝炎は成人感染でも約10%は慢性化し、持続感染することがある」と改めなければならなくなりました。下図の「急性肝炎」から「キャリア(保菌者)」への10%の表示がそのことを示しています。遺伝子型Aの蔓延はさらに広がっているため、B型急性肝炎が慢性化する確率はさらに増加しています。

感染年齢によるB型肝炎の経過の違い

次に、上述の如くB型肝炎は3歳未満で感染した場合、キャリア化する確率が高いわけですが、この持続感染の感染経路は専ら母子感染と考えられていました。しかし、最近の研究では、父子感染も珍しくないことが明らかになってきました。具体的にはHBVキャリアの父親の子供は約25%がHBVに感染し、約10%が持続感染していることが報告されています。HBVの母子感染予防が確立された現在、父子感染によるHBVキャリア発生数は母子感染と同程度ではないかと推定されているほどです。母子感染はおもに出産時、新生児が産道出血に暴露されるために起こります。一方、父子感染は何らかの理由、例えば父子の傷口と傷口が触れ合う、鼻出血、歯肉出血時の歯ブラシの共用、噛み付き、口移しの食事等による血液感染に加え、尿、唾液、鼻汁、汗、涙等からHBVが検出され、実際感染源となっている可能性が報告されています。成人を対象とする介護施設等の共同生活の場では、常識的な生活習慣を守っていれば感染する危険性は低いと報告されていますが、体液暴露や身体的接触が多いと推定される保育所では、実際数%のHBV感染率が報告されています。とくに、3歳未満児が通う保育園では、園児同志の水平感染によりその多くがHBVキャリア化しており、看過できない状況です。HBe抗原(血液中のHBV量が多いことを示す血液検査マーカー)陽性の園児が通う場合、保育園はHBV感染の機会となりうるため、HBVワクチン接種をすべきであると報告されています。一方、HBVキャリアであることを理由に、入所、入園、入学を拒否することはHBV保菌者の人権にも関わるため、難しい問題になっています。
本小論において、「B型肝炎の場合、思春期以降の感染は、激症化しなければ一過性感染で、慢性化せずその後は後遺症も残さず完治する。」さらには「完治すると風疹や麻疹(はしか)のように終生免疫が成立する。」とまで再々述べてきました。実際、約20年前には「B型肝炎の治癒を表す血清マーカー、HBs抗体陽性は、激症化することもなくB型肝炎が完治した証であり、今後二度とHBV感染することもなく、未だHBV未感染の者より安心でいられる。」とまで学生に講義をしていました。しかし、この常識を覆す知見が集約されてきています。上表「急性ウイルス肝炎各型の特徴」中、「ウイルスの特徴」の欄に各肝炎ウイルスの遺伝情報を担う核酸の種類が記載されています。HBV以外はすべてRNAですが、唯一HBVのみヒトと同じDNAが遺伝子媒体となっています。この特徴のため、HBVは一旦感染すると、従来一過性感染として完治したと思われていた患者の肝細胞のヒト遺伝子中にわずかに組み込まれて残存していることが明らかになったのです。これは、HBV抗体陽性でB型肝炎完治後と思われていた生体肝移植ドナー(臓器提供者)の肝臓を移植されたレシピエント(臓器受容者)のほとんどが、その後HBVに感染してしまったことが端緒となり明らかになりました。ドナー血液中にはHBVを見つからなかったことより、HBVはドナーの肝細胞に潜んでいたようです。移植のためレシピエントは免疫抑制剤を投与されており、このためわずかに潜んでいたHBVが再活性化し、顕在化したのでした。同様、B型肝炎一過性感染の既往者が、その後関節リウマチや悪性腫瘍に罹患、治療目的で免疫抑制剤や抗がん剤を投与中に、B型急性肝炎を発症する症例が報告されるようになりました。しかも、このような症例では免疫力が極端に低下していることもあり、HBV再活性化による肝炎は重症化しやすいことが報告されています。このように一旦治癒したB型肝炎感染既往者から新たに肝炎を発症した場合、de novo肝炎と呼びます。結局、HBVに一旦感染すると、急性肝炎の一過性感染のであれ、慢性化した持続感染のであれ、ヒトはHBV遺伝子を生体から完全に排除することはできず、ときとして再活性化による重篤な肝炎を再発しかねないということが明らかになりました。
以上のごときB型肝炎の特徴をまとめると、下記のようになります。とくに赤字の部分は新しい知見です。

  1. 3歳以上のHBV初感染では急性ウイルス肝炎を発症、激症化しなければ基本的に予後良好で完治するが、B型は肝炎ウイルスの中で激症肝炎発症率が最も高く、さらに、激症化した場合、他のウイルス肝炎より、救命率が低い。
  2. C型肝炎同様持続感染(キャリア化)した場合、肝硬変に進展、肝臓がんを併発しやすい。
  3. B型肝炎はC型と違い既にワクチンが開発され予防法が確立している。しかし、一旦、感染し持続感染するとC型と異なりインターフェロン療法等が効きにくく完治しにくい。
  4. 3歳以上の初感染では、従来慢性化することなく完治していたが、最近外国に多く慢性化率の高い遺伝子型亜型Aが輸入、性感染症として日本国内に蔓延したため、HBV成人感染でも約10%の人が持続感染し慢性化、肝硬変、肝臓がんのリスクを負うことになった。
  5. HBV母子感染は予防法の確立や国のB型肝炎母子感染防止事業により95%以上減少したが、一方、口移しの食事、尿、唾液、鼻汁、汗、涙等の関与が推定される父子感染の存在が明らかになった。また、体液暴露や身体的接触が多い保育所では数%の確率で水平感染し、3歳未満では持続感染による慢性化も報告されている。
  6. 3歳以上のHBV初感染では急性ウイルス肝炎を発症、激症化しなければ予後良好で後遺症も残さず完治し、終生免疫が成立すると考えられていたが、実際には、一旦HBVに感染すると、急性肝炎の一過性感染のであれ、慢性化した持続感染のであれ、ヒトはHBV遺伝子を生体から完全に排除することはできず、免疫抑制剤や抗がん剤投与時にときとして再活性化による重篤な肝炎を再発しかねないということが明らかになった。

B型肝炎ワクチンをユニバーサルワクチンに

上述のごときHBVに関する知見の集積により、HBV感染予防の重要性がますます高まっています。そのため、1992年WHOはすべての出生児にHBワクチンを接種することを推奨しました。それを受け2011年までに世界193ヵ国中、実に179ヵ国で小児全員に対するHBワクチン接種が定期接種化されています。一方、現在、日本でHBワクチンに公費負担があるのは、上述のB型肝炎母子感染防止事業の対象者のみです。その他、医療従事者等の希望者に対して実施される場合は任意接種(セレクティブ・ワクチン)であって定期接種ワクチン(ユニバーサル・ワクチン)になっていません。(「診療案内」のページ中「予防接種」の欄の「子宮頸癌とHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて」の段落中「子宮頸癌と予防ワクチン」のアニメのChapter3「予防接種とワクチン」をご覧ください。)日本は、世界179ヵ国に入れないほどワクチン後進国なのです。この理由は、「ワクチン・ギャップについて」の段落でご説明したとおりです。国民が皆HBワクチンを受ければ、保育園等集団生活の場で、HBVキャリアの者を意識する必要もなくなります。医療従事者である私自身は、既にHBワクチン接種を終えていますが、家族は未実施です。これ以上リスクを犯して定期接種化を待つことはできません。これを機に、家族全員にHBワクチンを接種しました。

追記 2016年10月1日から、B型肝炎ワクチンが定期接種化されました!

上述の如く当院ではB型肝炎ワクチンの定期接種化を訴えてきましたが、ようやく下図の如く2016年10月1日から定期接種化され、対象者は無料で接種できるようになりました。遅いぞ厚労省! 当院は小児科ではありませんが、従来大人に対してB型肝炎ワクチンを接種してきた実績がありますので、三鷹市のB型肝炎ワクチン接種協力医療機関として申請しました。なお、今回の対象者は、2016年4月1日以降に生まれた0歳児のみです。1歳になると定期接種の対象外になります。対象外で有料となる方も、上述のごとき理由から強く接種をお勧めします。

   

帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛や顔面神経麻痺ワクチン(予防接種)について

~今、帯状疱疹は予防する時代です!

はしかのようなもの

「はしかのようなもの」という慣用句があります。この意味は、「誰もが一度は通る道」「誰もが若い時期に経験すること、失敗」を比喩したものです。この慣用句の成り立ちは、はしか(麻疹)が、誰もが一度感染、発病する病気だからです。このように一度ある種の病気に罹ると二度とその病気にならないことを、医学用語で「終生免疫」「二度なし現象」と呼び、私が医学生の頃は、麻疹、風疹(三日はしか)、ムンプス(おたふく風邪、流行性耳下腺炎)、水疱瘡(水ぼうそう、水痘)などは一度感染し発病すると二度と罹らないと教わりました。この理由は、一度ある種の病気に感染、発病すると、その病気に対する抗体(その病気に対する抵抗力を司る血液中に存在する物質です)等が作られ、その病気に抵抗力を持つようになり、その抵抗力が一生涯に渡って維持され続けるためです。これを、免疫を獲得したと表現していました。
しかし、最近この考え方は間違っていたことが判ってきました。すなわち、全ての病気において一度獲得した免疫は一生涯続くことはなく、暫くすると抵抗力は低下し、また、同じ病気に感染、発病するようになってしまいます。しかし、抵抗力が完全になくなる前にその病気に再び感染する(菌に触れる)と表面上は発病することなく、あるいは発病しても本来の病気らしくなくごく軽度の症状しか出ない状態(麻疹の場合、「修飾麻疹」と呼び、症状が乏しいため三日麻疹=風疹に間違われることもあります)で再び抵抗力が復活(ブースター効果と呼びます)、免疫を獲得します。すなわち、予防接種を受けたのと同じような効果です。これを生涯何度となく繰り返すため、抵抗力が維持され二度と発病することなく一生涯を終えるわけです。つまり、表面的には最初の感染、発病しか認識されず、その後の感染は発病を伴わないため感染したことに気付かず、多くの方は「はしかは子供のときに罹ったきりでその後は、はしかに罹ったことはない。」と認識しているのです。
ここで、「感染」と「発病」を区別して考えてください。感染とは病原体が体表面に定着、さらに、体に進入し増殖する状態です。しかし、体に菌が取り付いたからといって必ず症状が出るわけではありません(症状を伴う感染を「顕性感染」と呼ぶのに対し、症状を伴わない感染を「不顕性感染」と呼びます)。例えば誰でも大腸には無数の大腸菌が感染(365日感染しているため「常在菌」と呼びます)していますが、通常なんら症状はありません。さらに、ビフィズス菌や乳酸菌のように善玉菌と称し、有害物質産生菌の発育を抑制し、便通などを改善させる人体に有益な菌さえいます。ですから感染は必ずしも悪いことではないのです。感染し、何らかの症状を発症した場合が「発病」で単なる「感染」を「感染症」と呼ぶようになります。
ごくまれに麻疹に二度罹った方にお会いすることがあります。これは幼少児に罹患、しかし、その後、偶然にも麻疹の患者に接する機会がなく、ほとんど免疫がなくなってしまった後、久しぶりに麻疹に感染したため、発病してしまったわけです。世の中に麻疹に罹患する子供が多かった時代、このような現象はごく稀でしたが、予防接種が励行されるようになり麻疹患者数が減少、昨今、麻疹ウイルスにさらされる機会が減ったため、稀なケースではなくなってきました。実際、平成19年から20年にかけて、10代から20代の若者の間で麻疹が大流行したことは記憶に新しいところです。

水疱瘡(水ぼうそう)と帯状疱疹


水疱瘡


ヘルペスウィルス

水疱瘡(水ぼうそう、水痘、右図)はヘルペスウイルスの一種である水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)(右図)による感染症です。このウイルスによる感染症は麻疹、風疹、ムンプスとはだいぶ違った経過をたどります。麻疹や風疹などに罹るとごくまれに脳炎を合併、死亡することもありますが、ほとんどの場合完治し体内からウイルスは駆除されます。

水痘帯状疱疹ウイルスVZVに初感染し水疱瘡を発症、しかし、抵抗力の源である抗体が誘導されると約1週間程度で水疱は痂皮(かさぶた)になって治癒しますがウイルスは体内から駆除されません。脊髄と体表を継ぐ脊髄後根神経節や三叉神経節に潜伏、感染し続けます(右動画)。獲得した免疫力により閉じ込められ冬眠させられた状態になります。その後成人になり30~40年を経て徐々にVZVに対する免疫力(ウイルス血症を伴うVZV初感染、水痘の場合、感染予防には抗体が重要ですが、後述するようにウイルスが神経の中を移動し、抗体にさらされることの少ない帯状疱疹の場合、おもに細胞性免疫が重要で抗体価は関係ありません)が低下、ストレスや疲労、心労、加齢、抗がん剤や副腎皮質ホルモンなどの免疫抑制剤の使用、日射などの刺激で免疫力が低下すると、冬眠していたウイルスが再活性化(回帰感染)、末梢神経に沿ってウイルスが体表面に到達、水疱を形成、帯状疱疹を発症させます。ですから50~70歳代に多く発症します(下図)。


図、水痘帯状疱疹ウイルス不顕性感染による再活性化

帯状疱疹が発症したときは宿主の免疫力が低下した状態ですから、学生時代、「帯状疱疹患者ではがんを疑え」と講義を受けたのを記憶しています。VZVが冬眠する神経節は脊椎の数だけ左右一対存在します(その他、頭部では三叉神経節等もあります)。


dermatomes正面


右T9皮膚分節帯状疱疹

それらの神経節が支配する領域、皮膚分節(右図)は人間皆共通です。複数の神経節に冬眠するVZVが偶然同時に覚醒することはまずないため、帯状疱疹は左右一方の皮膚分節の範囲に限局して水疱を形成(右図は右T9皮膚分節の帯状疱疹です)します。全身の皮膚分節の中で胸背部に発症する頻度が最も多く(下図)、このように胸背部に発症すると体を半周だけ帯を巻いたように見えるため帯状疱疹と呼ばれるようになりました。


帯状疱疹発生部位別頻度

このような特徴を持った病気は他にないので視診で比較的簡単に診断できます。帯状疱疹は発症数日前に皮膚分節の領域に違和感や痛みが先行することが多いです。その後強い痛みとともに水疱が出現、約3週間後痂皮(かさぶた)を形成、痛みも消失、帯状疱疹の多くが自然治癒します(右動画)。
しかし、時として帯状疱疹は重症化し、入院治療が必要になることもあります。汎発性帯状疱疹といってVZVに感染したリンパ球が全身にまわり、全身に水痘様の水疱が散発する場合があります。また、複発性帯状疱疹といって同時に2箇所以上の皮膚分節に帯状疱疹が発生する場合もあり、これらの多くは免疫不全に伴って発症しますが、特に基礎疾患のない方に発症することもあります。さらに、顔面神経膝神経節のウイルスが再活性化した場合、外耳道、耳介周辺に水疱を生じ、浮腫んだ顔面神経が圧迫され顔面神経麻痺を合併することがあり、ビ○た○のような顔貌になります。加え、難聴や味覚障害を伴うこともあります(Ramsay Hunt症候群)。上述したように、帯状疱疹では皮疹が出現する3~5日前から発症部位に痛みや感覚異常を自覚することがあります。しかし、この時点でVZVに対する十分な免疫が誘導されると、ウイルスは神経に沿って皮膚まで到達できず、疼痛だけで皮疹を伴わない帯状疱疹~無発疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)を発症します。皮疹を伴わない場合、VZVの再活性化~帯状疱疹と診断するのは難しく、原因不明の顔面神経麻痺、すなわちベル麻痺(特発性片側性末梢性顔面神経麻痺)の中に少なからず無発疹性帯状疱疹が存在すると考えられています。
また、三叉神経第1枝の領域(額、目の上)に発症した場合、視神経が障害され角膜炎、網膜炎、視神経炎、急性網膜壊死により最悪失明することもあります。陰部の帯状疱疹では、膀胱の動きが阻害され尿閉をきたすこともあります。さらに、帯状疱疹は約7%の方で再発、膠原病などの持病があると再発しやすいようです。

50歳以上の日本人は、小児の頃、水痘ワクチン接種を受けることがほとんどありませんでした。そのため、50歳以上の日本人の水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗体保有率はほぼ100%(全員に感染歴があるということ)。つまり、50歳以上の方全員に帯状疱疹発症の可能性があります。
帯状疱疹は、平均寿命まで生きると平均3人に一人が生涯に一度は経験するありふれた病気です。宮崎スタディでは、毎年人口の約4.5%の方が発症しています。換言すると、知人が20人いれば、そのうち1人は1年以内に帯状疱疹を発症していることになます。

帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹の皮膚病変が消失、発症後3ヶ月経過しても皮膚分節に疼痛が残存する場合があり、帯状疱疹の後遺症として帯状疱疹後神経痛と呼ばれます。
帯状疱疹の皮疹が出現しているときの急性期痛と皮疹が消失した後も残存する帯状疱疹後神経痛ではその発生機序が異なります。急性期痛は神経の炎症による痛みで、帯状疱疹後神経痛は神経の不可逆的損傷が原因の神経因性疼痛です(右図)。温度感覚の異常や皮膚を軽く触れただけでも痛みと感じる場合(異痛症といいます)、神経が損傷されている可能性が高く、帯状疱疹後神経痛の後遺症が残る可能性が高くなります。
その痛みの程度はごく軽度のものから、夜眠れないほど激しいものまでさまざまで、焼けるような痛み、刺すような痛み、電気が走るような痛み、締め付けるような痛みとしてしばしば表現されます。不可逆的に神経が損傷しているため痛みが完全に消失しない患者もおり、その場合薬物により痛みを軽減させるしかありません。小豆島スタディでは、50歳以上の方の約20%に帯状疱疹後神経痛が合併しています。
60歳以上、皮膚病変が重症、急性期痛が重症、異痛症がある、糖尿病、COPD、うつ病患者、免疫不全の基礎疾患などの危険因子があると帯状疱疹後神経痛が出現しやすくなります。
現在帯状疱疹に有効な抗ヘルペスウイルス薬が開発、使用されていますがその治療の目的は、帯状疱疹の疼痛を和らげ皮疹の治癒を早めるとともに重症化を防ぎ顔面神経麻痺などの合併症を発症させないことと帯状疱疹後神経痛の後遺症が残らないようにすることです。そのためには速やかに診断し、できるだけ早期に抗ヘルペスウイルス薬を投与することが最も重要です。抗ヘルペスウイルス薬はヘルペスウイルスの増殖を抑制する薬剤であってウイルス量を減らす薬剤ではありません。そのためウイルスが増殖している早期に投与しなければ効果がありません。皮疹出現後72時間以内の投与が望まれます。投与後効果が発現するのには2~3日を要します。

2020年のコロナ禍以降、帯状疱疹患者の増加が報告されています。精神的ストレスによる細胞性免疫低下は、よく知られていることなので不思議なことではありませんが、ワクチンとの関連性も否定できません(痛みを伴うワクチン接種は、少なくとも精神的ストレスですから)。

帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、顔面神経麻痺の予防~帯状疱疹ワクチン

水痘が流行した年に帯状疱疹が減少し、水痘が流行しない年は帯状疱疹が増加することが報告されています。また、帯状疱疹は水痘の流行しない夏に多く、流行する冬に少ない傾向があります。水痘が夏に少ないのは、子供たちが集う学校が夏休みのため、隔離期間となっているためです。
水痘患者の90%以上が5歳未満であるのたに対し、帯状疱疹は10歳代で若干多く発症、30歳代で最も少なく、50~70歳代で急増します。これは、30歳代が子育て世代のため水痘に罹患した小児に接する機会が多いためではないかと考えられています。実際、子供が水痘に罹患すると、母親がたとえ水痘を発病しなくともVZV抗体価が上昇することが知られています。
人口動態の高齢化に伴い帯状疱疹が年々増加しているのは当然ですが、それに加え高齢者での発症率そのものも増加しています。やはり、水痘患児に接する機会が減少しているのが原因かもしれません。
米国では水痘ワクチンが定期接種として導入されると水痘患者数は激減しましたが、それと反比例するように、帯状疱疹患者数は倍増しています。
これらの事実は、上段で述べたように、1.一度獲得した水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫は一生涯続くことはなく、暫くすると低下してくること、2.免疫力が完全になくなる前にウイルスに触れると表面上は発病することなく再び免疫力が復活(ブースター効果と呼びます)すること、3.水痘帯状疱疹ウイルスの場合、免疫力が低下してくるともう一度水痘に罹るのではなく、体内に既に潜伏しているウイルスが再活性化し、帯状疱疹を発症させることを示しています。
日本、欧米では水痘ワクチン接種によって、水痘既往歴のある者においても、免疫賦活効果があることが報告されています。そのため、水痘ワクチンは、水痘既往歴のない者のみならず、水痘既往があっても水痘再感染の可能性の高い者、具体的には白血病患者、悪性腫瘍患者、免疫抑制剤投与中の者等も接種対象者に加えられています。しかし、従来日本では水痘ワクチンはあくまでも水痘予防が目的でした。
しかし、2005年米国で60歳以上の成人に水痘ワクチンを接種すると帯状疱疹が約半減、帯状疱疹後神経痛もその発症率が約3分の1に低下、発症してもその重症度が6割以上減少したことが発表されました。ワクチン以外に帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を予防する代替療法がないため、諸外国では水痘ワクチンは帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛の標準的予防方法となっています。治療薬である抗ヘルペスウイルス薬アシクロビルは水疱が50%痂疲化する日数を1.5日早める程度の効果しかありません。帯状疱疹がありふれた病気で、かつ、時として重症化、帯状疱疹後神経痛や顔面神経麻痺などの後遺症を残す可能性があることを考慮すれば、日本でも水痘ワクチンの適応に帯状疱疹の予防が追加されることが望まれまていました。
そして、ようやく2016年3月厚生労働省により乾燥弱毒生水痘ワクチンの効能効果に「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」が正式に追加承認されました。50歳以上となったのは、先述の如く50歳以上の抗体保有率がほぼ100%のためです。水痘の既往歴がない方は言うに及ばず、50歳以上の方は積極的に接種していただきたいのですが、とくに、帯状疱疹や原因不明の顔面神経麻痺の既往歴のある方、糖尿病、膠原病、ネフローゼ症候群、気管支喘息、がん等の持病のある方、副腎皮質ホルモン等の免疫抑制剤を投薬されている方、日頃小児に接する機会の少ない方等には特に推奨します。
最新のデータでは、このワクチン接種により、帯状疱疹発症率が51.3%減少、痛み等の症状が61.1%減少、帯状疱疹後神経痛の合併症の発症率が66.5%減少しています。
効果の持続期間ですが、接種後毎年徐々に効果は減弱、8年経つと5年前後のほぼ半分。そのため一般に効果持続期間は5年間と言われています。当院の価格は8,260円ですが、5年間効果が持続するので、単純計算では1年当たり1,650円です。毎年接種しなければならないインフルエンザワクチンと比較してもが費用効果対比の高い割安なワクチンです。
なお、水痘にまったく罹ったことがない(上述の説明のように絶対に帯状疱疹を発症することはありません)方が、乾燥弱毒生水痘ワクチン接種が原因で帯状疱疹を発症する可能性ですが、野生株と異なりワクチン株は神経節に冬眠することはなく、低いと考えられています。

従来品より遥かに有効な新しい帯状疱疹予防専用ワクチンが開発されました

2020年1月コロナ禍の中、ひっそりと?従来の帯状疱疹予防ワクチン、「乾燥弱毒生水痘ワクチン」より遥かに有効性の高い帯状疱疹予防専用のワクチン、商品名シングリックスが開発されました。上述の如く2016年3月厚労省から承認を受けたのは、従来からある水痘予防ワクチンを帯状疱疹予防にも使用することで、帯状疱疹予防専用に開発されたワクチンではありませんでした。水痘予防ワクチンが帯状疱疹予防にも有効であることが明らかとなり、追加承認を受けたものでした。しかし、今回開発されたワクチンは帯状疱疹予防専用に開発されたものであり、50歳以上の方に接種した場合、なんと97.2%で帯状疱疹の発症を防いでいます。さらに、上述のような合併症、後遺症を発症しやすい70歳以上に対しても89.8~97.9%予防、著効しています。さらに気になる帯状疱疹後神経痛の発症を50歳以上では完全に、70歳以上でも85.5%減少させていました。
接種後10年経っても70%強の効果があり、現状少なくとも10年は効果が持続するようです。
気になる副作用ですが、注射部位の痛み(約8割とほとんど方が感じており、他のワクチンより高頻度です)、筋肉痛、疲労感など(3日間程度)で、ワクチンに起因すると思われる全身的な重篤な有害事象は認められません。私自身、2回目接種時は、コロナワクチン程ではありませんが、倦怠感がありました。
ただ、このワクチンの最大の難点は高価のことです。接種費用は1回22,000円(税込み)で、2ヵ月間隔で2回接種する必要があるため合計44,000円となります。上述の従来の乾燥弱毒生水痘ワクチン同様、効果持続期間を考慮すると、1年当り4,400円でインフルエンザワクチンと同程度、必ずしも著しく高価とはいえまんせん。しかし、接種するしないは、最終的には人それぞれ帯状疱疹に対する考え方だと思います。
因みに、高額ではありますが、上述の乾燥弱毒生水痘ワクチンとシングリックスの効果の差が余りに大きいため、米国では、帯状疱疹用乾燥弱毒生水痘ワクチンは発売中止になっています。
現在、ほとんどのOECD加盟国が、このシングリックスワクチン接種を推奨、国費による接種助成を実施しています。日本でもようやく数年前からいくつかの自治体で接種助成が始まりました。三鷹市でも早く助成制度が始まればよいのですが。
帯状疱疹を一度発症された方から、「私はすでに帯状疱疹に罹ったのだから、ワクチンを接種する必要はないのですか。?」とときどき質問を受けます。残念なら先述の如く、帯状疱疹は生涯一度しかならない病気ではなく、複数回なる方がしばしばいます。ですので以前帯状疱疹に罹った方も、ワクチン接種は推奨されています。因みに、帯状疱疹罹患後、治癒すればすぐに接種して構いません。
また、先述の乾燥弱毒生水痘ワクチンを既に接種されている方が、シングリックスを接種する場合、明確な指針はありませんが、少なくとも米国では、8週間空けて接種するよう推奨されています。
私のような医療従事者は帯状疱疹を発病し難いことが知られています(以前はそうでしたが、後述のように最近は様子が異なっています)。実際、私は帯状疱疹を発症した医者を知りません。それは、日々の診療で水痘患者、帯状疱疹患者に接する機会が多く、その折、ときに患者から水痘帯状疱疹ウイルスをうつされ、それがワクチン効果(ブースター効果)となっているからです(上述の「➤はしかのようなもの」の段落をご参照下さい)。ですのでワクチンは不要で、接種しません。

追記:コロナ禍、帯状疱疹ワクチンを接種される方が急増しています(2022/09/02院長コラム改変転載)。
最近、高価な帯状疱疹ワクチン、シングリックス(1回22,000円を2ヶ月間隔で2回接種、合計44,000円。効果は10年間持続)接種を希望し、来院される方が急増しています。このワクチンが上梓された2020年1月、世の中はコロナ一辺倒で、帯状疱疹のこと等ほとんど話題にならず、その値段の高さと相まって、接種される方はほとんどいませんでした。
なぜ、最近になってこの高価な帯状疱疹ワクチン接種希望者が急増しているかというと、コロナ禍、帯状疱疹患者の増加がマスコミ報道されているからです。コロナ禍、なぜ帯状疱疹患者が増加しているのか、諸説あり解明されていませんが、いくつかの理由が考えられています。

一つは、コロナ禍、多くの方が外出を控え、運動不足になっています。運動不足は、コロナによる心理的ストレス同様免疫力を低下させます。

二つ目は、上記のように外出を控えることにより、人と人の接触が減り、水疱瘡によるブースター効果が発揮されなくなったことがあります。ブースター効果については、上記の項目の「はしかのようなもの」の段落に詳しく解説しています。帯状疱疹は夏に多く、冬に少ない、一方、水疱瘡は夏に少なく、冬に多い傾向があります。冬は学校があり、子どもたち同士が屋内で接触する機会が多く、インフルエンザ同様、飛沫感染する水痘も流行しやすいです。逆に夏は、夏休みのため、子ども同士の接触が減り、水疱瘡も減ります。そのため、水疱瘡によるブースター効果が発揮できなくなり、夏は帯状疱疹が増えると考えられています。

三つめは、新型コロナ感染が、罹患者の免疫に何らかの悪影響を及ぼしているのではないかという説です。米国のデータでは、コロナに感染すると、感染後6ヶ月以内に帯状疱疹を発症するリスクが高まると報告されています。感染後1~2週間以内にとくに多く発症しています。

四つ目は、新型コロナワクチン接種の影響です。ワクチン接種で帯状疱疹発症率が増加したとのデータはありませんが、ワクチンが実感染同様、免疫に何らかの悪影響を及ぼす可能性は否定できません。この点は、反ワクチン派の標的材料になっています。ただ、そのような副作用を心配してワクチン接種しないことは、新型コロナ実感染を招来することになり、結局、帯状疱疹発症率は上昇しますから、本末転倒です。

以前、上記の如く「ちなみに、私のような医療従事者は帯状疱疹を発病し難いことが知られています。実際、私は帯状疱疹を発症した医者を知りません。・・・・・・ですのでワクチンは不要で、接種しません。」と記載していました。しかし、最近、帯状疱疹を発症する医療従事者が増えていることを知りました。確かに、最近、外来で水痘患者を診ることは皆無です。帯状疱疹は水疱に触らなければ感染しませんから、ブースター効果は期待できません。ですので、小児科でもなければ、「医療従事者が帯状疱疹を発症し難い」とは言えなくなっています。そのため、私も上記の高価な帯状疱疹ワクチンシングリックスを接種しました。
以前、ある先生から、「コロナ禍、例年のように海外旅行に行くこともないのだから、海外旅行の費用をシングリックス接種に回したらどうですか」と言って進言していると聞きました。「これは、使える!」と思ったのですが、そのような台詞を使うまでもなく、接種希望者が急増しています。

後述の肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンに加え、この帯状疱疹ワクチンは、高齢者に接種していて頂きたい三大ワクチンです。

(2023/03/26改訂)

麻疹(はしか)流行を考える

この10年麻疹(はしか)の流行がマスコミで報道されることが多くなっています。
まず、下図は1999~2007年の定点あたり麻疹患者報告数(麻しん、成人麻しん:18歳以上、2006年から15歳以上)です(国立感染症研究所感染症疫学センター作成厚生労働省麻しん風しん対策推進会議資料を転載)。

図のように2007~2008年にかけて10~20歳代の若年者を中心に成人(青色の線)の麻疹が全国的に流行しました。そのため、当時、都内では日本大学、上智大学、東京工科大学、駒沢大学、和光大学などが休講になっています。この流行を機に厚労省は2008年1月から全数報告を医療機関の義務付け、正確な患者数が把握されるようになりました。
そして2018年、今回は台湾から沖縄県に”輸入”された麻疹の流行です。下図(国立感染症研究所発表資料)では赤線で示された2018年の麻疹累積報告数が13週目(4月第1週)から急激に増加しているのが分かります。

昨今、何故麻疹の流行が話題となるのでしょうか。日本の麻疹に関する予防接種制度の変遷を述べると、

1948年
予防接種法制定
1966年
麻疹不活化ワクチンと生ワクチンの併用療法が開始される。
1969年
併用療法が廃止になり、麻疹弱毒生ワクチン単独接種に変更になる。
1978年
麻疹ワクチン1回接種が定期化される。
1989年
麻疹生ワクチン、風疹(三日麻疹)生ワクチン、ムンプス(おたふくかぜ)生ワクチンを混合した麻疹風疹おたふくかぜ混合ワクチン(measles-mumps-rubella;MMRワクチン)が導入される。
1993年
MMRワクチン接種後のおたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎症例が蓄積、MMRワクチン接種が中止となる。
2006年
ムンプスワクチンを除いた麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が導入、従来の第1期(満1歳~2歳未満)に加え、第2期(就学前の1年間)が開始、2回接種が定期接種化される。
2007年
10~20歳代の若年者を中心に麻疹が流行、翌2008年まで持続し終息する。
2008年
5年間の時限付きで、第3期(中学1年生)、第4期(高校3年生)を対象として麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種が導入される。
2008年
麻疹患者発生動向調査はそれまでの小児科定点及び基幹病院定点から全医療機関に全数報告を義務付ける。

以上のようになります。
そもそも1978年に麻疹ワクチン接種が定期化されるまで、麻疹を予防する対策はあまりなされていませんでしたから、麻疹の流行は為すがままの状態で、日本人ほぼ全員が成人するまでに必ず感染していたと推察されます。下図(「過去50年間の麻疹患者数と麻疹が原因として報告された死亡者数」国立感染症研究所感染情報センター資料)をご覧下さい。2008年まで全数報告の義務がなく過少報告であるにも関わらず、それでも1951年には約18万人が感染、麻疹を発病しています。旧感染症発生動向調査では届け出数の10倍以上となっていることより、やはり実際の患者数はもっと多かったのかもしれません。

そのため、「はしかのようなもの」といった慣用句まで生まれたわけです。今では死語かもしれませんが、「はしかのようなもの」とは「誰もが一度は通る道」「誰もが若い時期に経験すること、失敗」といった意味に使われる慣用句です。換言すると、麻疹はこれほどまでに感染力の強いウイルスといえます。飛沫感染するインフルエンザと異なり空気感染もするためその感染力はインフルエンザの約10倍で、ワクチンなどで免疫を獲得していない場合、不顕性感染はなく、感染するとほぼ全員発病します。
しかし、1978年幼児に対する麻疹ワクチン1回接種が開始されると当然麻疹患者数は年々減少していきました。ただ、麻疹が完全に日本から撲滅されることはありませんでした。というのは、麻疹ワクチン1回接種では約95%以上の方が免疫を獲得できましたが、数%ながら十分免疫が付かない方がいたからです(primary vaccine failure;PVF)。2回接種するとそれら不十分な方もたいてい麻疹に対する免疫を獲得できます。ちなみに欧米では2回接種が基本です。さらに、1989年導入されたMMRワクチンで髄膜炎の副反応が出現、1993年MMRワクチン接種が中止になる事態に及び、予防接種に対する不信感から、予防接種そのものを控える親御さんもいました。
そのため、2006年厚労省は、就学前の1年間に2回目の麻疹ワクチン接種を定期化しましたが、時すでに遅し、2007~2008年頃、上述のように10代から20代の若者に麻疹が大流行してしまいました。この年代に流行した理由は当時、1、まったく麻疹ワクチンを接種していない者(おおよそ15~19歳の一部)、2、1回接種はしたが免疫が獲得できなかった者(PVF)(1~30歳のワクチン接種者の約5%)が蓄積したことに加え、3、1回接種し免疫を獲得できたが、時間の経過とともにその免疫が失われていった者(secondary vaccine failure;SVF)が多数いたためと考えられています。
SVFとは一度獲得した免疫が時間の経過とともに記憶(免疫細胞の記憶)が薄れ、抵抗力がなくなることです。これは、このページの「帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛や顔面神経麻痺ワクチン(予防接種)について」の欄、「はしかのようなもの」の段落でお話ししたことですのでそちらもご参照下さい。ワクチン導入以前は、日本中に麻疹ウイルスが蔓延していたためほとんどの日本人は、とっとと感染しましたから、当然患者の大多数が乳幼児~小児でした。しかし、幼児のワクチン接種導入より小児の麻疹患者数は激減しました。しかし、幼児期に接種したワクチンの効果は一生涯持続するわけではありません。一旦獲得した免疫、抵抗力も年々低下していきます。しかし、そういった時期、麻疹に感染すると、あたかも2度目のワクチン接種を受けたかの如く、免疫力が再上昇(ブースター効果といいます)します。ちなみにこのような2度目の感染では免疫力の残り具合で、まったく症状が出なかったり(感染したことに本人も気付かない)、症状が出ても潜伏期が長かったり、微熱だったり、皮疹の出方も少なかったりして、麻疹であることに気づかず、別の病気に間違われることもあり「修飾麻疹」と呼ばれています。
しかし、皮肉にもワクチン導入以後麻疹患者数が激減、年々感染する機会が失われ、ブースター効果を得る機会が失われて行きました。おそらく30歳代以上はまだ麻疹に感染する機会があり、ブースター効果を得ることができのでしょう。しかし、2007年当時10~20歳代の若者はその機会も少なく、麻疹流行を招いたようです。
2008年から5年間時限の第3期(中学1年生)、第4期(高校3年生)麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)接種導入により、結局、1990年4月2日生まれ以後の世代、すなわち現在28歳以下の世代は、受け漏れていない限り、世界標準通り2回の麻疹ワクチン接種を実施していることになり、麻疹に対して十分な抵抗力を持っていると予想されます。しかし、実際には第3期の接種率は85.1%、第4期に至っては77.3%に留まってしまいました。ですから、現在の麻疹流行に関して、感染の危険性が高いのは29歳以上(第3期または4期の接種を打ちそびれた場合19歳以上)の方と言えます。一方、1978年の幼児期の麻疹弱毒生ワクチン定期接種化以前に生まれた方、換言すると45歳以後(1972年10月1日生まれ以後)の方は、高い確率でほぼ全員が麻疹に感染、さらにブースター効果を得ている者も多いと予想されます。結局、現在、29歳(1990年4月2日生まれ以後)、2回目のワクチン未接種の場合19歳(2000年4月2日生まれ以後)~44歳の方が現在麻疹に罹りやすい状況となっています。

上図は今回沖縄に端を発した麻疹流行における「年齢群別接種歴別麻しん累積報告数」(国立感染症研究所発表)です。実際、ご覧になってお分かりになるように予防接種をまったく接種していない(オレンジ色)乳幼児、小中学生を除くと、20歳前半から40歳代半ばまでに多数発生、50歳以上では全部合わせても5名しかいません。
そもそもですが、日本は諸外国と異なり麻疹ワクチン接種回数が2006年まで1回であったため、1966年麻疹ワクチン接種導入後も麻疹患者発生数が多く(上図「過去50年間の麻疹患者数と麻疹が原因として報告された死亡者数」をもう一度ごご覧下さい)、麻疹「輸出」国と見なされる不名誉な状況にありました。そこで、政府は2007年、2012年までに麻疹を国内から排除(天然痘のように撲滅ではありません。排除とは、国外で感染した者が国内で発症する場合を除き、麻疹診断例が一年間に人口100万人当たり一例未満であり、かつ、ウイルスの伝播が継続しない状態にあることをいいます)することを目標に掲げました。2006年諸外国同様のMRワクチン2回接種導入の結果、2015年3月27日、WHO西太平洋事務局により日本は「麻疹排除状態にある」と認定されました。そのため、換言すると現在、日本で麻疹が流行する場合、今回のように流行国から「輸入」される場合のみとなりました。下図はWHOが発表した世界各国の麻疹症例発生数です。今回の沖縄での流行も中華民国の方がタイに旅行したとき麻疹に感染、10日間の潜伏期の間に沖縄に来日、そこで麻疹を発症、日本国内に感染が広がりました。

2018年の流行では麻疹ワクチンが不足してしまいました。限られた量のワクチンを最大限有効利用するため、国立感染症研究所感染症疫学センターは、「麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方」を示しています。これはあくまでもワクチン不足の状況下での対応です。
ワクチン供給量が十分な場合、下図の如き日本環境感染学会から発表されている「麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘ワクチン接種のフローチャート(医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版)」が参考になります。

今回はあくまでも麻疹ワクチン接種対象年齢に焦点を絞った話です。麻疹の一般的な知識は厚生労働省ホームページの「麻しんについて」をご参照下さい。

風疹と先天性風疹症候群について

風疹について

昨今都内を含め全国的に風疹が大流行しています。なぜこのような大流行が発生したのでしょうか。
まず、ウイルス感染の基本的な仕組みについて当院ホームページの「帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛や顔面神経麻痺ワクチン(予防接種)について~今、帯状疱疹は予防する時代です!」の中の「●はしかのようなもの」の段落をお読みください。
ご一読いただいたことを前提にお話しすると、麻疹同様風疹の流行も、皮肉なことですが、世の中から風疹患者が減り接触する機会が少なくなったため、風疹ワクチン接種者や風疹感染既往者が一度獲得した免疫を維持できず、抗体価が自然減少し、ついには風疹に対する抵抗力がなくなり再感染するようになってしまったのが主因です。さらに加えて風疹の場合、1995年以前は先天性風疹症候群の危険はないからと、男児は予防接種の対象者になっていませんでした。そのため、最近の患者の8割近くが男性で、20~40歳代がほとんどです。2011年の調査では、20代男性の10%、30~50代男性の20%が風疹に対する免疫を持っていませんでした。
風疹は風疹ウイルスによって起きる感染症で、俗に「三日はしか」と呼ばれています。1976、1982、1987、1992、1997年に流行がありましたが、ワクチン定期接種後はほとんど流行がありませんでした。しかし、上述のごとく昨今大流行しています。

【臨床症状】
感染は経気道的に侵入したウイルスが鼻粘膜~気道に局所的な感染を起こして増殖した後、局所リンパ組織~全身へと広がり、発疹を生じさせます(図参照)。感染力は麻疹、水痘ほど強くはありません。

潜伏期は14~21日で、全身倦怠感、頭痛、咽頭痛、鼻汁、咳嗽などの上気道炎症状、リンパ節腫脹(とくに耳介後部、後頭部、頚部)の後に発熱(微熱~無熱のことも多い)、発疹がみられます。発疹は顔から出始め、次第に頸→体幹→四肢へと広がります。性状は小さな鮮紅色の丘疹で時に出血斑やそう痒を伴います。発熱と発疹は2~3日で消失し軽快しますが、リンパ節腫脹は数週間持続します。
学校保健法上第二種の伝染病に分類され、紅斑性の発疹が消失するまで出席停止となります。

【合併症】
血小板減少性紫斑病が3,000~5,000人に1人程度発症します。関節炎が成人女性を中心に5~30%みられます。急性脳炎は4,000~6,000人に1人発症しますが、それらは重篤なものは少なく予後良好です。風疹は基本的に予後良好で自然治癒する病気です。ただし、先天性風疹症候群に注意する必要があります。これに関しては後述します。
【治療・予防】
特異的な治療法は無く対症療法が中心です。感染経路は飛沫感染で、発症前後1週間ウイルスを排泄しています。
予防は、未罹患者に対し風疹ワクチンの接種です。

風疹ワクチンについて

風疹ワクチンは生ワクチンです(上記「ワクチンの種類」の表の下に書かれている注釈、解説文をお読みください)。そのため1回の接種で抗体陽転率は91~98%と高率です。しかし、完全ではありませんので、先進国では2回接種しほぼ100%の免疫獲得を目指す国も多いです。日本でも2006年より2回の定期接種が行われています。
ワクチンの副作用としては、すべてのワクチンに共通の副反応であるアナフィラキシーショック、じんま疹、接種部位の腫脹、疼痛に加え、風疹ワクチン特有の急性血小板減少性紫斑病、プチ風疹症状である発疹、紅斑、リンパ節腫脹、発熱などがありますが、いずれも軽微で予後良好です。

ワクチン副作用が心配な方は、接種の前に現在の抗体価を測定し、不足していた場合(HI法で16倍以下)にのみ追加接種することも可能です。しかし、抗体が十分残っている方に予防接種を行っても何ら害はなく、追加接種によりブースター効果でさらに抗体価の増加も期待できるので、面倒な方は抗体価を調べることなくいきなり予防接種しても構いません。
生ワクチンは生きているので被接種者の体内で増殖します。これまで妊婦が風疹ワクチンを接種して、胎児に障害が出たという報告は一例もありません。しかし、理論的には絶対にないとは言えません。ですから、妊婦は接種できません。そのため、接種前1ヶ月前と接種後2ヶ月間は妊娠を避けることになっています。生理中か生理直後に来院すれば、妊娠していないのは確実ですから、このような時期にワクチン接種するのが最適です。
なお、風疹ワクチンの詳細については、国立感染症研究所のホームページに一般の方向けのQ&Aが掲載されています。ご参照ください。

先天性風疹症候群について

ご存知の方も多いと思いますが、妊婦が妊娠初期に風疹に罹患すると、先天性風疹症候群といって、先天性白内障、難聴、先天性心疾患、発達障害などの先天異常が高い確率で胎児に出現します。妊娠1ヶ月以内なら50%以上、妊娠2ヶ月以内なら20~30%、妊娠3ヶ月以内なら約5%出現します。そのため、接種前1ヶ月前と接種後2ヶ月間は妊娠を避けることになっています。20~40歳代の男性の配偶者は年齢的に妊孕性が高いため、先天性風疹症候群には十分注意する必要があります。夫が風疹に感染、キャリアとなり家庭内で妻に風疹をうつす例もあり、妊娠希望の女性とその夫は、妊娠前に予防接種することをお勧めします。

風しん抗体検査および予防接種の費用助成について

平成26年度から、風疹抗体検査および予防接種の費用助成(「先天性風しん症候群対策事業」)が始まっています。三鷹市の場合、無料で妊娠を予定または将来希望している女性に検査を実施、また、抗体保有が不十分(HI法16倍以下、EIA法8.0未満)だった妊娠を予定または将来希望している女性を対象にワクチン接種費用の一部を負担しています。施策の内容は自治体により多少異なりますが、このように基本的に女性を対象とした施策でした。そのため、2018年の東京都を中心とした流行(下図、都内風しん受理週別報告数推移(2018年)、東京都感染症情報センターホームページより転載)でも、

感染者の大部分が男性でした(下図、風しん都内年齢階級別・性別報告(2018年1週~45週)、東京都感染症情報センターホームページより転載)。

上述のように、風疹ワクチンは妊婦に接種できません。ですから、風疹ワクチンを未接種のまま妊娠された女性、あるいは抗体価が不足している妊婦を風疹から守るためには、夫を始めとする同居家族が家庭に風疹を持ち込まないようにすることが肝要です。そのため、2018年の風疹流行を受け、2018年11月より東京都では「先天性風しん症候群対策事業」を下記のように拡大しました。

風しん抗体検査の対象者:
(1)妊娠を予定又は希望している女性
(2)妊婦の同居者
(3)(1)の同居者
ただし、既に風しんワクチンの接種を2回以上受けていることが確認できる者、及び他の医療機関等で抗体検査を受け、抗体保有が十分でないことが確認できる者についてはの除きます。

また、風疹予防接種事業の対象者も
19歳以上で抗体価が十分でないとされた方で以下のいずれかに該当する者
(1)妊娠を予定又は希望している女性
(2)妊婦の同居者
(3)(1)の同居者

なお、ワクチン接種費用(助成後の自己負担額)は、三鷹市の場合、
麻しん風しん混合ワクチン(MR):5,000円
風しん単抗原ワクチン:1,745円

となっています。

このように、「先天性風しん対策事業」は専ら妊婦保護を目的としたものでしたが、上述の「➤風疹について」の段落で述べたように、昨今の感染者の大半は20~40歳代の男性です。男性は先天性風疹症候群の危険がなく、1995年以前、予防接種の対象にならなかったのが原因です。そのため、厚労省は2019年から3年間「風しん第5期予防接種事業」を始めました。この事業では、1962年4月2日から1979年4月1日に生まれた男性を対象にクーポン券を配布、無料で風しん抗体検査を実施、抗体価が不足(HI法8倍以下、EIA法6.0未満。上述の「先天性風しん症候群対策事業」と条件が異なることに注意して下さい。)していた場合、無料でワクチン接種するものです。なお、この事業は当初3年間、令和3年度末で終了予定でしたが、コロナ禍もあり、6年度末(抗体検査は令和5年3月20日まで、予防接種は令和7年3月末)まで延長されました。本事業では、接種ワクチンは麻しん風しん混合(MR)ワクチンのみですが、接種費用は無料です。

まとめると、HI法で抗体量が8以下の場合、無料でMRワクチン接種、16の場合、助成を受けMRワクチンまたは風しん単体ワクチンを接種、32以上の場合、接種対象外となります。

肺炎球菌ワクチンについて

肺炎について

戦後減少していた肺炎は、高齢化社会になり増加に転じ、最近30年間は増加の一途を辿っています。2011年には脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)を追い抜き、日本における死因の第3位になりました(図、「日本における死因別にみた死亡率の年次推移」をご参照ください)。日本人の10人に1人は肺炎で亡くなっているのです。

肺炎による死者の95%以上は高齢者、つまり65歳以上の方です(図、「肺炎の年齢階級別死亡率」をご参照ください)。

ご存知のことと思いますが、いわゆる肺炎は細菌やウイルスなどの病原菌による肺の感染症です。重症化すると肺組織が壊れ、呼吸ができなくなり死に至る怖い病気です。
肺に感染する原因菌のうち、最も多いのが肺炎球菌で約4割を占めます(図、「市中肺炎の原因菌割合」(日本呼吸器学会編「成人市中肺炎診療ガイドラインより」をご参照ください。)。

特に冬期のインフルエンザシーズンでは約55%にもなります。

ところで、インフルエンザや普通感冒(ただの風邪)と肺炎はどういう関係なのでしょうか。インフルエンザが流行する季節になると、例年2,000~5,000人の方が、インフルエンザが原因でなくなっています。この中には、インフルエンザが重症化、インフルエンザ脳症等を発症し亡くなる方もいますが、かなりの部分は肺炎を併発し亡くなっています。では、インフルエンザに罹患するとどうして肺炎になるのでしょうか。診察室でお話しをしていると、大抵の方はインフルエンザウイルスが喉から肺に侵入、肺炎になると考えているようです。実際、そのような方(インフルエンザウイルス肺炎)もいますが、多くはインフルエンザウイルス感染が引き金となり、二次性細菌性肺炎を併発し、亡くなっています(下図、MSDホームページより転載)。ですから、肺炎を引き起こす細菌感染の予防は、インフルエンザ(ウイルス)感染の予防同様、肺炎を予防する上で、非常に重要な対策となります。

肺炎の予防法は、

  1. 適度な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠などにより日頃から免疫力を高め、風邪を引かないようにする。
  2. 禁煙し、タバコで気管気管支や肺が傷つくのを防ぐ。
  3. マスク着用、うがい、手洗いなどを励行し、病原体が体内に入り込むのを防ぐ。
  4. 歯と歯茎磨きを励行する。口腔内の雑菌を減らすとともに歯茎磨きにより誤嚥しにくくなることが解っています。
  5. 肺炎になりやすい持病(糖尿病、気管支喘息などの呼吸器疾患、心不全、アルコール依存症、肝硬変などの慢性肝疾患、腎不全やネフローゼ症候群などの腎臓病、血液疾患など)のある方はその治療をしっかりと行うことが大切です。
  6. 肺炎球菌感染を予防するワクチンを接種する。

などです。

肺炎球菌ワクチンについて

成人に適応のある肺炎球菌ワクチンには、従来2006年10月に承認された23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(ニューモバックスNP®)しかありませんでした。しかし、2015年3月それまで小児にしか適応のなかった沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(プレべナー13®)も65歳以上の高齢者に対する適応が追加され、2剤が使用できるようになりました。この2剤の関係は、作用機序の違いに加え、肺炎球菌ワクチン公費助成制度も絡み少し複雑なため、分けてご説明します。
まず、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(ニューモバックスNP®)は、2歳以上が適応です。23価と表現されているように肺炎球菌の23種類の亜型に有効です。インフルエンザウイルスにA型、B型等があるように、肺炎球菌にも様々な亜型があり、合計23種類の亜型に対する抗体が誘導されます。1本の注射に23本分のワクチンを混ぜているわけですから、副反応として接種部位が腫れやすい傾向にあります。
この肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP®)は一度接種すると4年後で90%、5年後でも76%抗体価が維持されます。ですから接種は5年に一度でかまわず、インフルエンザワクチンのように毎年接種する必要はありません。5年間をおけば何回でも接種できます。毎年接種が必要なインフルエンザワクチンが当院で3,900円なのに対し、5年間有効な肺炎球菌ワクチンは8,110円で接種できます。1年当り1,600円程度ですから、大変費用対効果の高いワクチンといえます。肺炎はインフルエンザのように明確な季節性はなく、1年中発生しますし、5年間効果が持続しますから特に推奨される接種時期は無く、季節にこだわらず接種できます。
その予防効果は75歳以上の方に接種すると肺炎罹患率が約6割減少、半分以下になります。さらに肺炎による入院率も約6割減少します。とくに免疫力が低下して肺炎に罹患しやすい糖尿病患者では84%も肺炎球菌感染症が減少します。心不全など心臓病患者、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患COPD患者では約70%肺炎球菌感染症が減少します。
ですから、このワクチンは、

  1. 高齢者(65歳以上の方)
  2. 2~64歳で下記の慢性疾患やリスクを有する
    慢性心不全(うっ血性心不全、心筋症など)
    慢性呼吸器疾患(COPDなど)
    糖尿病
    アルコール中毒
    慢性肝疾患(肝硬変など)
  3. 摘脾を受けた方、脾機能不全
  4. 養護老人ホームや長期療養施設などの居住者
  5. 易感染性患者
    HIV感染者や、白血病、ホジキン病、多発性骨髄腫、全身性の悪性腫瘍、慢性腎不全、
    ネフローゼ症候群、移植などの患者のように長期免疫抑制療法を受けている
    副腎皮質ステロイドの全身投与を長期間受けている

以上のような病態の方に推奨されています。(日本呼吸器学会「成人市中肺炎診療ガイドライン」)
肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌以外が原因の肺炎には効果がありません。ですから、完全に肺炎を予防できるわけではなく、日頃から上述のような肺炎予防法を励行する必要があります。
一方、沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(プレべナー13®)は、2ヶ月以上6歳未満と65歳以上が適応で、現在中途半端な年齢が対象になっています。ちなみにヨーロッパでは、18歳以上の肺炎予防に適応があり、今後本邦でも適応年齢が拡大されるかもしれません。13価と表現されているように肺炎球菌の13種類の亜型に有効です。13血清型のうち12型はニューモバックスNP®と同一です。ですから単純に考えるとプレべナー13®のほとんどをカバーしている23価のニューモバックスNP®を接種した方が断然お得です。しかし、簡略して表現するすると、ニューモバックスNP®が単純に5年程度抗体を誘導するだけに対して、プレべナー13®は誘導する抗体の種類は13種類しかありませんが、ニューモバックスNP®より強力に免疫を誘導、かつほぼ終生免疫記憶が確立します(下図、ファイザーホームページより転載)。

日本人のデータでは12種類の共通する血清型のうち9種類は明らか強く免疫が誘導され、残り3種類は同程度でした。米国の臨床試験では、プレべナー13®を単独で接種するだけでも十分有効ですが、ニューモバックスNP®を単に繰り返し接種するより、プレべナー13®を接種した後にニューモバックスNP®を接種した方がより強く免疫が誘導されることが明らかになりました。このような作用機序の違いによる相乗効果があるため、2014年9月より米国ではニューモバックスNP®接種の有無にかかわらず、プレべナー13®を追加接種することが公的機関により推奨されています。その勧告を受け、日本においても2015年1月日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会より、65歳以上のすべての成人に対して、ニューモバックスNP®接種の有無にかかわらず、プレべナー13®を追加接種することが推奨されました。
接種方法ですが、現在基本的な考え方は、 

1.すでにニューモバックスNP®を接種している方に対しては、1年以上の間隔を空けてプレべナー13®を接種する。
2.プレべナー13®を接種した場合、6カ月以上の間隔を空けてニューモバックスNP®を接種する。
3.ニューモバックスNP®、プレべナー13®とも未接種の場合、どちらを先に接種しても構わないが、後述の肺炎球菌ワクチン公費助成対象年齢の場合、接種費用を考慮、現状ニューモバックスNP®を先に接種すべきである。
4.プレべナー13®接種の有無にかかわらず、ニューモバックスNP®は5年毎に接種を繰り返す。

です。
なお、プレべナー13®は終生効果が持続するため、ニューモバックスNP®のように5年毎に追加接種する必要がありません。
また、上述の如くインフルエンザは肺炎の引き金になりますから、冬期においてはインフルエンザワクチンの接種も肺炎予防には重要です。肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンとも不活化ワクチンですから1週間以上間隔をあけて接種するのが原則ですが、必要と認めた場合、同時接種も可能です。

高齢者肺炎球菌ワクチン接種費用の公費助成について

平成26年10月1日以降は国の定期接種(B類疾病、高齢者インフルエンザワクチンと同じ扱い)となり、5,000円の自己負担で接種できます。
ただし、対象者は当該年度中に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳となる方で、過去に肺炎球菌ワクチンを接種したことのない方です。この制度は平成30年度で廃止予定(令和元年度以降は65歳になる方のみが対象となります)のため、対象者の方はこれが助成を受けられる最後の機会となります。希望者は生年月日、住所を確認できる健康保険証等を持参し、直接ご来院ください。
なお、定期接種化した当時、成人に適応のあるワクチンはニューモバックスNP®しかなかったため、現在も本制度ではニューモバックスNP®しか接種できません。そのため、本助成制度の対象年齢となった方は、まずは本助成制度を利用しニューモバックスNP®を接種、1年が経過してからプレべナー13®の接種をお勧めしています。

追記:

上述の如く令和元年度から70~100歳まで5歳間隔での接種は廃止され、65歳となる方のみに限定される予定でしたが、救済処置として、令和元年度以降も5年前の対象時、接種し忘れた方も接種してよいことになりました。結果として本制度の公費助成の対象者は本年度65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳以上となる方で、過去に肺炎球菌ワクチンを接種したことのない方となります。

子宮頸がんとHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて

  • 子宮頸がんについて
  • 子宮頸がんと予防ワクチンについて

以上に関して下記の厚労省作成のリーフレットをご覧ください。

「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~」

現在日本で使用できるHPVワクチンは、3種類あります。サーバリックス®という2価ワクチン(16型、18型を標的とするので2価)、ガーダシル®という4価ワクチン(6型、11型、16型、18型を標的とするので4価)、そして2021年2月に発売されたシルガード®9という9価ワクチン(6/11/16/18型に加え、31/33/45/52/58型)です。この段落では、リーフレットに解説を加えます。そして、後段で2価、4価、9価ワクチンの違いについてご説明します。
発がん性HPVに感染しても、子宮頸がんを発症するのは0.1~0.05%程度、つまり1,000~2,000人に一人程度でしかありません。しかし、非常にありふれたウイルス(性交経験のある女性の80%が50歳までに感染する)がであるため、日本全体で見ると毎年10,000人の方が発病(女性74人に1人)し、2,800人もの方が命を失っています。ざっと子宮頸がんを患った有名人を挙げると歌手の和○ア○子、坂○泉○、森○子、渡○マ○、女優の仁○亜○子、洞○依○、大○し○ぶ、三○じ○ん○、原○晶、向○亜○、古○比○、セ○ラ・○ー○ル、漫画家の赤○た○こなど、数え上げるときりがありません。これほどありふれた病気なのです。大学時代からのファンだった歌手の松原みきさんが44歳で他界されたのは最もショックでした。
また、昨今、20~30歳代の子宮頸がん発症率が急増(1990年から2014年の間に2倍に)しています。
このような現実がある一方、実は、子宮頸がんは予防可能な数少ないがんなのです。ですから、子宮頸がんが増加の一途を辿る昨今、ワクチン接種の意義は増しているのです。
統計モデルからは、少なくとも20年以上接種後の抗体価が維持されると推測され、実際、被接種者においては、100%HPV16と18の感染を予防できています。昨今、高度異形成や子宮頸がんを96.9%抑制し、さらに、17~30歳の間に接種すると浸潤性子宮頸がんを63%抑制することが明らかになっています。
妊婦または妊娠している可能性のある女性は、妊娠終了まで接種を延期します。また、接種期間の途中で妊娠した場合、その後の接種は見合わせます。出産後、残りのワクチンを接種可能ですが、授乳中の接種に関する安全性は確認されていません。理論上問題はありませんので、医師との相談になります。各々のワクチンにより合計3回の接種時期は微妙に異なりますが、何らかの理由で多少接種時期がずれても最初からやり直す必要はありません。必ず都合3回接種してください。リーフレットにあったように既に性交経験があり、HPVに既に感染している可能性のある方でも、その後感染したHPVが自然排除され、さらに再感染する可能性があります。再感染を防ぐ目的からもワクチン接種する意味があり、日本産婦人科医会では45歳までの接種を推奨しています。学会では性的にactivityの高い60歳代の方の接種も報告されています。
平成24年度までは任意予防接種として実施されていましたが、平成25年4月より、小学校6年生(12歳相当)から高校1年生(16歳相当)の女子を対象者として定期予防接種になり、無料化されました。2価ワクチンは10歳以上、4価ワクチンは9歳以上から接種できますが、対象年齢以外の方は有料で自費になります。9価のシルガード9は、現在発売されたばかりのため公費助成対象ワクチンとはなっていませんが、副反応も4価と変わりなく、いずれ定期接種化されるものと思われます。
なお、余談ですが、HPVを発見したドイツがん研究センターのツア・ハウゼン名誉教授は2008年度のノーベル生理学医学賞を受賞しています。
以上のごとく子宮頸がんはワクチンで予防できるがんなのです。我が家の娘たちにも対照年齢になったので予防接種を受けさせました

 

扁平上皮がんと腺がん

子宮頸がんにはがんになる細胞の種類により、扁平上皮がんと腺がんの2種類に分類されます。最近、腺がんが臨床上大きな問題になっています。というのは、

  1. 腺がんは、以前子宮頸がん全体の5%以下とわずかだったが、近年急増し20%以上に達している。
  2. 扁平上皮がんは子宮頸部の表面に存在するため、検診によりがん細胞が発見されやすいのに対し、腺がんは表面の下の頸管腺の中に発生するため、検診で細胞採取が難しい
  3. 扁平上皮がんの場合、異形成上皮という前がん病変があるのに対し、腺がんでは前がん病変が明らかでなく、早期診断が難しい
  4. 腺がんは扁平上皮がんに対し、放射線療法の感受性が低く、予後不良である。
  5. そのため早期がんであっても、子宮全摘術となる場合が多く、妊娠を希望する患者のQOLを損なうことになる。

等の問題があるからです。腺がんの原因となるHPVには9種類ほどありますが、そのうちHPV18型、16型が約85%を閉めています。このように、腺がんは検診で発見されにくい子宮頸がんですから、ワクチンによって予防する意義が大きいのです。

定期接種、2価と4価のHPVワクチン、どちらを接種すべきか?

HPVには200種類以上の亜型があり、そのうち、約15種類が子宮頸がんの発症にかかわっていますが、その約65%は、高リスク型に分類されるHPV16型、18型が原因で、この2型は他の型に比べ進行も早いです。換言すると、上述の如くワクチンによりHPV16型、18型の感染を100%予防できても、子宮頸がんを予防できるのは最大でも約65%ということになります。
HPVは子宮頸がん以外にも、外陰がん、膣がん、肛門がん、尖圭コンジローマというがんではない病気の発症にも関与しています。
現在日本で、定期接種で使用できるHPVワクチンは、2種類です。サーバリックス®という2価ワクチン(16型、18型を標的とするので2価)とガーダシル®という4価ワクチン(6型、11型、16型、18型を標的とするので4価)です。では、どちらを接種すればよいのでしょうか。非常に高価なワクチンですからしっかりと吟味する必要があります。
4価のガーダシルに追加されている標的ウイルス6型、11型HPVは尖圭コンジローマを引き起こすウイルスです。尖圭コンジローマは、性器や肛門の周囲に数mm大のイボが多発する病気で、通常自覚症状はありません。自然治癒することもありますが、ニワトリの鶏冠のようにかなり大きくなることもあり、QOLを害します。また、妊婦が尖圭コンジローマを発症していると、出産時に産道でHPVが新生児に感染(母子感染といいます)、新生児の喉にイボができる再発性呼吸器乳頭腫症を発症してしまうこともあります。しかし、最近治療薬も開発され、臨床上大きな問題になることはありません。
4価ワクチンが単に2価ワクチンに+αの効果だけを付与したものなら迷わず4価ワクチンを接種すべきでしょう。しかし、肝心な発がん性HPV16型、18型に対する抗体価は2価ワクチンの方が4価ワクチンより勝っているようです。そのため、前がん病変の予防効果、円錐切除術(前がん病変や初期の子宮頸がんに行う手術)施行人数減少効果においても2価ワクチンが4価ワクチンに勝っていることが報告されています。
後述のごとく、副反応については、2価ワクチンの方が4価ワクチンより局所の疼痛が強いようです。
まとめると、尖圭コンジローマも含めたQOL改善を期待するなら4価ワクチン、痛くてもよいから子宮頸がん予防を第一に考えるなら2価ワクチンを選択すべきでしょう。

男性に対するHPVワクチン接種について

以上の如く、4価ワクチンは男性にも発生する肛門がんや尖圭コンジローマに対して有効ですから、男性に対しても接種を検討してよいはずです。欧米では男性に対しても接種されていますが、日本では最近まで男性に対する適応は認められず、ようやく2020年12月、ガーダシルは肛門がん、尖圭コンジローマ予防目的に9歳以上の男性にも投与してよいことになりました。パートナーへの感染予防目的からも、すでに約40の国と地域で、男性への接種に対して公費助成が行われています。
発がん性HPVは、子宮頸がん以外に男性にも発生する中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、食道がん、喉頭乳頭腫、鼻腔副鼻腔乳頭腫などの原因になっています。そのため、今後、男性に対するワクチン開発も期待されています。

ワクチン副反応について

2013年3月8日朝日新聞に、2011年11月杉並区在住の女子中学生が2回目の2価HPVワクチン接種後、左上腕の痺れなどが出現、症状が下肢や背部まで広がり入院、1年3ヶ月ににわたり通学できない状況だったとの記事が掲載されました。その後2013年1月には通学できる状態に快復したとのことです。それ以前からも、接種後の失神などの報告があり、平成25年4月からの定期接種化に水を差すこととなりました。そのため、厚労省は定期接種化したにもかかわらず、6月14日「ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン接種後に特異的に見られたことから、同副反応の発生頻度等がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」との勧告を出し、現在もその状態が続いています。
HPVワクチンによる主な副反応には、接種局所の発赤、腫脹、疼痛などの軽いものから、全身的な副反応としてアナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、ギラン・バレー症候群、血管迷走神経反射による失神などがあります。また、杉並区の症例は、複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome;CRPS)と呼ばれるもので、これまで合計3例(2価ワクチンで2例、4価ワクチンで1例)報告されています。平成25年3月31日までに、2価ワクチンはのべ698万回、4価ワクチンは169万回接種されていますから、極めて稀な副反応です。3月31日時点で報告されている2価ワクチンの副反応は0.014%(うち重篤0.0013%)、4価ワクチンは0.013%(うち重篤は0.0009%)です。詳細は厚労省ホームページに掲載されているのでご参照ください。
厚生労働省では、とくに問題となっている複合性局所疼痛症候群などの副反応が出現した場合、適切な医療を提供するため、痛みセンター連絡協議会を設立、所属19医療機関(2014年7月15日現在)で診療体制を整備しています。接種後痛み、しびれ、脱力などが2~4週間経っても持続する場合、それら医療機関をご紹介します。
全身的な副反応のうち最も多いものが失神です。局所の疼痛により血管迷走神経反射が引き起こされると、血圧低下、欠伸、嘔気、冷汗、メマイを来たし、ついには失神することがあります。一般に、HPVワクチンは他のワクチンに比べ接種時の局所疼痛が強く、また、接種対象者が、痛覚の鋭敏な思春期の女性であることが、より疼痛を強めています。失神は副反応全体のうち2価ワクチンで約60%、4価ワクチンで約40%を占めていることより、2価ワクチンの方が4価ワクチンより疼痛が強いようです。インフルエンザワクチンは高齢者に接種することが多いですが、高齢者は若年者に比べ痛覚神経が鈍化しているためあまり痛みを訴えません。血管迷走神経反射による失神はHPVワクチン液に特異的な現象ではなく、一般に針を刺したための疼痛により引き起こされるため、他の予防接種や血液検査のための採血などでも時々見られます。HPVワクチンにかわらず、予防接種による失神は、従来10代に圧倒的に多く発生していました。血管迷走神経反射による失神のメカニズムは血圧低下による脳貧血ですから、臥位でしばらく安静にさせると簡単に快復します。当院では、接種後30分程度は座って経過観察、問題ないこと確認してから帰宅させています。また、希望者はベッドに寝かせて接種、状態に変化のないことを確認して帰宅させています。
これまでも、他のワクチンの解説などにおいて再々繰り返しお話して来ましたが、まったく副反応のないワクチンなどありません。針を刺してまったく痛くない方などいませんから、何がしかの疼痛という副反応は必ず発生します。上述したように重篤な副反応もありえます。一方、子宮頸がんを予防するという大きな利点もあります。もし、娘さんをカトリックのシスターにするつもりなら、ワクチン接種は「百害あって一利なし」です。注射針に対し先端恐怖症や、注射恐怖症を持っている娘さんなら、「十害あって十利」といったところでしょう。単に注射が嫌いなだけなら、「三害あって十利」程度でしょう。まったく注射が気にならない方なら、「一害あって十利」です。このように被接種者によって、各々HPVワクチンの有用性は違うはずです。本当にご自身にとって必要なものか十分検討の上、接種してください。
最後に、現在使用されているHPVワクチンはすべて型の発がん性HPV感染を予防できるわけではありません。ですから、当然子宮頸がんを完全には予防できません。下図の如く日本の子宮頸がん検診受診率は悲惨なほど低いのが現状です。接種後も、子宮がん検診を定期的に受診する必要があることを再確認しておきます。

先進国の子宮頸癌検診受診率

 

2021/10/01 追記

2021年10月1日に開催された厚労省の「厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)」で、接種後の多様な症状とワクチン接種との関連性は明らかになっていないこと、海外の大規模調査で子宮頸がんの予防効果が示されてきていることなどが評価され、積極的勧奨が再開されることになりました。マスコミ報道を受け、早速、子宮頸がんワクチン接種を希望し、来院される方が増加しています。しかし、上記リーフレットにも記載されているように、無料の定期接種の対象者は、「小学校6年~高校1年相当の女の子=12歳になる年度初日から16歳になる年度末日までの女の子」です。ですから、現在高校1年生相当の方は、10月1日から来年3月31日まで、ちょうど6か月間しかありません。
一方、定期接種で使用される2種類のHPVワクチン、サーバリックス、ガーダシルとも3回接種する必要がありますが、3回目は1回目接種の6ヶ月後になっています。つまり、1回目を10月1日に接種すると、3回目は翌年4月1日となり、定期接種(無料)の期間を過ぎてしまい有料となってしまいます。サーバリックス、ガーダシルとも1本18,000円前後と非常に高価なワクチンゆえ、接種を希望されるなら、何としても16歳となる年度の末日までに接種したいものです。
ただ、ガーダシルは、接種期間を変更せざるを得ない場合、「2回目接種は初回接種から少なくとも1ヶ月以上、3回目接種は2回目接種から少なくとも3ヶ月以上間隔を置いて実施すること」と添付文書に記載されています。ですので、最短、2回目を1ヶ月後、3回目をその3ヶ月後に接種すると、10月1日に1回目を接種しても3回目を2月1日に接種できることになり、無料の定期接種期間で終了させることができます。ですので、無料で3回接種を終わらせる期限は、サーバリックスの場合10月31日、ガーダシルの場合11月30日となります。
なお、上記の検討部会では、積極的接種勧奨中止期間中に接種機会を逃した対象者への救済処置も話題となったようですが、今後の成り行きは不明です。

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