- 子宮頸がんについて
- 子宮頸がんと予防ワクチンについて
以上に関して下記の厚労省作成のリーフレットをご覧ください。
「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~」
現在日本で使用できるHPVワクチンは、3種類あります。
サーバリックス®という2価ワクチン(16型、18型を標的とするので2価)、ガーダシル®という4価ワクチン(6型、11型、16型、18型を標的とするので4価)、そして2021年2月に発売されたシルガード®9という9価ワクチン(6/11/16/18型に加え、31/33/45/52/58型)です。この段落では、リーフレットに解説を加えます。そして、後段で2価、4価、9価ワクチンの違いについてご説明します。
発がん性HPVに感染しても、子宮頸がんを発症するのは0.1~0.05%程度、つまり1,000~2,000人に一人程度でしかありません。しかし、非常にありふれたウイルス(性交経験のある女性の80%が50歳までに感染する)がであるため、日本全体で見ると毎年10,000人の方が発病(女性74人に1人)し、2,800人もの方が命を失っています。ざっと子宮頸がんを患った有名人を挙げると歌手の和○ア○子、坂○泉○、森○子、渡○マ○、女優の仁○亜○子、洞○依○、大○し○ぶ、三○じ○ん○、原○晶、向○亜○、古○比○、セ○ラ・○ー○ル、漫画家の赤○た○こなど、数え上げるときりがありません。これほどありふれた病気なのです。大学時代からのファンだった歌手の松原みきさんが44歳で他界されたのは最もショックでした。
また、昨今、20~30歳代の子宮頸がん発症率が急増(1990年から2014年の間に2倍に)しています。
このような現実がある一方、実は、子宮頸がんは予防可能な数少ないがんなのです。ですから、子宮頸がんが増加の一途を辿る昨今、ワクチン接種の意義は増しているのです。
統計モデルからは、少なくとも20年以上接種後の抗体価が維持されると推測され、実際、被接種者においては、100%HPV16と18の感染を予防できています。昨今、高度異形成や子宮頸がんを96.9%抑制し、さらに、17~30歳の間に接種すると浸潤性子宮頸がんを63%抑制することが明らかになっています。
妊婦または妊娠している可能性のある女性は、妊娠終了まで接種を延期します。また、接種期間の途中で妊娠した場合、その後の接種は見合わせます。出産後、残りのワクチンを接種可能ですが、授乳中の接種に関する安全性は確認されていません。理論上問題はありませんので、医師との相談になります。
各々のワクチンにより合計3回の接種時期は微妙に異なりますが、何らかの理由で多少接種時期がずれても最初からやり直す必要はありません。必ず都合3回接種してください。リーフレットにあったように既に性交経験があり、HPVに既に感染している可能性のある方でも、その後感染したHPVが自然排除され、さらに再感染する可能性があります。再感染を防ぐ目的からもワクチン接種する意味があり、
日本産婦人科医会では45歳までの接種を推奨しています。学会では性的にactivityの高い60歳代の方の接種も報告されています。
平成24年度までは任意予防接種として実施されていましたが、平成25年4月より、小学校6年生(12歳相当)から高校1年生(16歳相当)の女子を対象者として定期予防接種になり、無料化されました。2価ワクチンは10歳以上、4価ワクチンは9歳以上から接種できますが、対象年齢以外の方は有料で自費になります。9価のシルガード9は、現在発売されたばかりのため公費助成対象ワクチンとはなっていませんが、副反応も4価と変わりなく、いずれ定期接種化されるものと思われます。
なお、余談ですが、HPVを発見したドイツがん研究センターのツア・ハウゼン名誉教授は2008年度のノーベル生理学医学賞を受賞しています。
以上のごとく
子宮頸がんはワクチンで予防できるがんなのです。我が家の娘たちにも対照年齢になったので予防接種を受けさせました。
扁平上皮がんと腺がん
子宮頸がんにはがんになる細胞の種類により、扁平上皮がんと腺がんの2種類に分類されます。最近、腺がんが臨床上大きな問題になっています。というのは、
- 腺がんは、以前子宮頸がん全体の5%以下とわずかだったが、近年急増し20%以上に達している。
- 扁平上皮がんは子宮頸部の表面に存在するため、検診によりがん細胞が発見されやすいのに対し、腺がんは表面の下の頸管腺の中に発生するため、検診で細胞採取が難しい。
- 扁平上皮がんの場合、異形成上皮という前がん病変があるのに対し、腺がんでは前がん病変が明らかでなく、早期診断が難しい。
- 腺がんは扁平上皮がんに対し、放射線療法の感受性が低く、予後不良である。
- そのため早期がんであっても、子宮全摘術となる場合が多く、妊娠を希望する患者のQOLを損なうことになる。
等の問題があるからです。腺がんの原因となるHPVには9種類ほどありますが、そのうちHPV18型、16型が約85%を閉めています。このように、腺がんは検診で発見されにくい子宮頸がんですから、ワクチンによって予防する意義が大きいのです。
定期接種、2価と4価のHPVワクチン、どちらを接種すべきか?
HPVには200種類以上の亜型があり、そのうち、約15種類が子宮頸がんの発症にかかわっていますが、その約65%は、高リスク型に分類されるHPV16型、18型が原因で、この2型は他の型に比べ進行も早いです。換言すると、上述の如くワクチンによりHPV16型、18型の感染を100%予防できても、子宮頸がんを予防できるのは最大でも約65%ということになります。
HPVは子宮頸がん以外にも、外陰がん、膣がん、肛門がん、尖圭コンジローマというがんではない病気の発症にも関与しています。
現在日本で、定期接種で使用できるHPVワクチンは、2種類です。サーバリックス®という2価ワクチン(16型、18型を標的とするので2価)とガーダシル®という4価ワクチン(6型、11型、16型、18型を標的とするので4価)です。では、どちらを接種すればよいのでしょうか。非常に高価なワクチンですからしっかりと吟味する必要があります。
4価のガーダシルに追加されている標的ウイルス6型、11型HPVは尖圭コンジローマを引き起こすウイルスです。尖圭コンジローマは、性器や肛門の周囲に数mm大のイボが多発する病気で、通常自覚症状はありません。自然治癒することもありますが、ニワトリの鶏冠のようにかなり大きくなることもあり、QOLを害します。また、妊婦が尖圭コンジローマを発症していると、出産時に産道でHPVが新生児に感染(母子感染といいます)、新生児の喉にイボができる再発性呼吸器乳頭腫症を発症してしまうこともあります。しかし、最近治療薬も開発され、臨床上大きな問題になることはありません。
4価ワクチンが単に2価ワクチンに+αの効果だけを付与したものなら迷わず4価ワクチンを接種すべきでしょう。しかし、肝心な発がん性HPV16型、18型に対する抗体価は2価ワクチンの方が4価ワクチンより勝っているようです。そのため、前がん病変の予防効果、円錐切除術(前がん病変や初期の子宮頸がんに行う手術)施行人数減少効果においても2価ワクチンが4価ワクチンに勝っていることが報告されています。
後述のごとく、副反応については、2価ワクチンの方が4価ワクチンより局所の疼痛が強いようです。
まとめると、尖圭コンジローマも含めたQOL改善を期待するなら4価ワクチン、痛くてもよいから子宮頸がん予防を第一に考えるなら2価ワクチンを選択すべきでしょう。
男性に対するHPVワクチン接種について
以上の如く、4価ワクチンは男性にも発生する肛門がんや尖圭コンジローマに対して有効ですから、男性に対しても接種を検討してよいはずです。欧米では男性に対しても接種されていますが、日本では最近まで男性に対する適応は認められず、ようやく2020年12月、ガーダシルは肛門がん、尖圭コンジローマ予防目的に9歳以上の男性にも投与してよいことになりました。パートナーへの感染予防目的からも、すでに約40の国と地域で、男性への接種に対して公費助成が行われています。
発がん性HPVは、子宮頸がん以外に男性にも発生する中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、食道がん、喉頭乳頭腫、鼻腔副鼻腔乳頭腫などの原因になっています。そのため、今後、男性に対するワクチン開発も期待されています。
ワクチン副反応について
2013年3月8日朝日新聞に、2011年11月杉並区在住の女子中学生が2回目の2価HPVワクチン接種後、左上腕の痺れなどが出現、症状が下肢や背部まで広がり入院、1年3ヶ月ににわたり通学できない状況だったとの記事が掲載されました。その後2013年1月には通学できる状態に快復したとのことです。それ以前からも、接種後の失神などの報告があり、平成25年4月からの定期接種化に水を差すこととなりました。そのため、厚労省は定期接種化したにもかかわらず、6月14日「ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン接種後に特異的に見られたことから、同副反応の発生頻度等がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」との勧告を出し、現在もその状態が続いています。
HPVワクチンによる主な副反応には、接種局所の発赤、腫脹、疼痛などの軽いものから、全身的な副反応としてアナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、ギラン・バレー症候群、血管迷走神経反射による失神などがあります。また、杉並区の症例は、複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome;CRPS)と呼ばれるもので、これまで合計3例(2価ワクチンで2例、4価ワクチンで1例)報告されています。平成25年3月31日までに、2価ワクチンはのべ698万回、4価ワクチンは169万回接種されていますから、極めて稀な副反応です。3月31日時点で報告されている2価ワクチンの副反応は0.014%(うち重篤0.0013%)、4価ワクチンは0.013%(うち重篤は0.0009%)です。詳細は厚労省ホームページに掲載されているのでご参照ください。
厚生労働省では、とくに問題となっている複合性局所疼痛症候群などの副反応が出現した場合、適切な医療を提供するため、痛みセンター連絡協議会を設立、所属19医療機関(2014年7月15日現在)で診療体制を整備しています。接種後痛み、しびれ、脱力などが2~4週間経っても持続する場合、それら医療機関をご紹介します。
全身的な副反応のうち最も多いものが失神です。局所の疼痛により血管迷走神経反射が引き起こされると、血圧低下、欠伸、嘔気、冷汗、メマイを来たし、ついには失神することがあります。一般に、HPVワクチンは他のワクチンに比べ接種時の局所疼痛が強く、また、接種対象者が、痛覚の鋭敏な思春期の女性であることが、より疼痛を強めています。失神は副反応全体のうち2価ワクチンで約60%、4価ワクチンで約40%を占めていることより、2価ワクチンの方が4価ワクチンより疼痛が強いようです。インフルエンザワクチンは高齢者に接種することが多いですが、高齢者は若年者に比べ痛覚神経が鈍化しているためあまり痛みを訴えません。血管迷走神経反射による失神はHPVワクチン液に特異的な現象ではなく、一般に針を刺したための疼痛により引き起こされるため、他の予防接種や血液検査のための採血などでも時々見られます。HPVワクチンにかわらず、予防接種による失神は、従来10代に圧倒的に多く発生していました。血管迷走神経反射による失神のメカニズムは血圧低下による脳貧血ですから、臥位でしばらく安静にさせると簡単に快復します。当院では、接種後30分程度は座って経過観察、問題ないこと確認してから帰宅させています。また、希望者はベッドに寝かせて接種、状態に変化のないことを確認して帰宅させています。
これまでも、他のワクチンの解説などにおいて再々繰り返しお話して来ましたが、まったく副反応のないワクチンなどありません。針を刺してまったく痛くない方などいませんから、何がしかの疼痛という副反応は必ず発生します。上述したように重篤な副反応もありえます。一方、子宮頸がんを予防するという大きな利点もあります。もし、娘さんをカトリックのシスターにするつもりなら、ワクチン接種は「百害あって一利なし」です。注射針に対し先端恐怖症や、注射恐怖症を持っている娘さんなら、「十害あって十利」といったところでしょう。単に注射が嫌いなだけなら、「三害あって十利」程度でしょう。まったく注射が気にならない方なら、「一害あって十利」です。このように被接種者によって、各々HPVワクチンの有用性は違うはずです。本当にご自身にとって必要なものか十分検討の上、接種してください。
最後に、現在使用されているHPVワクチンはすべて型の発がん性HPV感染を予防できるわけではありません。ですから、当然子宮頸がんを完全には予防できません。下図の如く日本の子宮頸がん検診受診率は悲惨なほど低いのが現状です。接種後も、子宮がん検診を定期的に受診する必要があることを再確認しておきます。

2021/10/01 追記
2021年10月1日に開催された厚労省の「厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)」で、接種後の多様な症状とワクチン接種との関連性は明らかになっていないこと、海外の大規模調査で子宮頸がんの予防効果が示されてきていることなどが評価され、積極的勧奨が再開されることになりました。マスコミ報道を受け、早速、子宮頸がんワクチン接種を希望し、来院される方が増加しています。しかし、上記リーフレットにも記載されているように、無料の定期接種の対象者は、「小学校6年~高校1年相当の女の子=12歳になる年度初日から16歳になる年度末日までの女の子」です。ですから、現在高校1年生相当の方は、10月1日から来年3月31日まで、ちょうど6か月間しかありません。
一方、定期接種で使用される2種類のHPVワクチン、サーバリックス、ガーダシルとも3回接種する必要がありますが、3回目は1回目接種の6ヶ月後になっています。つまり、1回目を10月1日に接種すると、3回目は翌年4月1日となり、定期接種(無料)の期間を過ぎてしまい有料となってしまいます。サーバリックス、ガーダシルとも1本18,000円前後と非常に高価なワクチンゆえ、接種を希望されるなら、何としても16歳となる年度の末日までに接種したいものです。
ただ、ガーダシルは、接種期間を変更せざるを得ない場合、「2回目接種は初回接種から少なくとも1ヶ月以上、3回目接種は2回目接種から少なくとも3ヶ月以上間隔を置いて実施すること」と添付文書に記載されています。ですので、最短、2回目を1ヶ月後、3回目をその3ヶ月後に接種すると、10月1日に1回目を接種しても3回目を2月1日に接種できることになり、無料の定期接種期間で終了させることができます。ですので、無料で3回接種を終わらせる期限は、サーバリックスの場合10月31日、ガーダシルの場合11月30日となります。
なお、上記の検討部会では、積極的接種勧奨中止期間中に接種機会を逃した対象者への救済処置も話題となったようですが、今後の成り行きは不明です。