にんにく注射とは
にんにく注射とは、平石クリニックの平石貴久院長により命名されたビタミンB1を主成分とする静脈注射です。にんにく注射といっても、実際にニンニクのエキスが入っているわけではありません。注射をすると鼻の奥でニンニクのような香りがしてくるため名付けられました。
実際のニンニクには、ビタミンB1はあまり多くなく、むしろ、B6が豊富です。ニンニク臭のもとになる物質はアリシンといい、ビタミンB1と結合するとB1の吸収を高める効果があります。ですから、ビタミンB1の豊富な豚肉とニンニクを一緒に食べるとB1が効率よく吸収されます。ややこしい話ですが、ビタミンB1が主成分のにんにく注射には本物のニンニクは入ってなく、本物のニンニクにもビタミンB1はそれほど多く含まれませんが、B1の吸収を高めニンニク臭のもとになるアリシンが入っているのです。このアリシンとビタミンB1を事前に結合させ、B1の吸収を高め、体内での効果持続時間を延ばした薬剤が「アリナミン®」です。アリナミン®を注射すると、血中でアリシンの代謝産物硫化アリルが遊離し、ニンニク臭を感じるのです。
にんにく注射は、有名スポーツ選手(朝青龍、清原和博、丸山茂樹など)や芸能人(SMAPのキムタク、浜崎あゆみなど)に愛好者が多く、メディアでも取り上げられ広くその効能が知られるようになりました。ビタミンB1は、1910年日本人の鈴木梅太郎博士が米糠から発見しました。糖質エネルギー代謝、アミノ酸代謝、アルコール分解、神経伝達に必須の物質です。ですから、いくら食事をしっかりと摂取しても、ビタミンB1が不足するとそれら栄養分を分解し体内で必要なエネルギーを取り出せません。さらにはそれらの栄養分は脂肪に変換され蓄積、肥満になってしまいます。また、B1は筋肉の疲労物質である乳酸を除去する働きがあるため、不足すると疲れやすくなります。ビタミンB1は、アルコール多飲、炭水化物過食(とくに白米、インスタント食品、清涼飲料水の多飲)、妊娠・授乳中(母乳に分泌されるため)、甲状腺機能亢進症、強い労作・運動(筋肉がもっぱら糖質をエネルギー源とするため)、体力を奪うような病気(がん、感染症、肝不全など)、高齢者(利用率の低下)で不足しがちです。白米食に偏りがちなわが国において、ビタミンB1欠乏による脚気は、かつて結核と並ぶ二大国民病でした。私も子供の頃は、白米に黄色のビタミン強化米を混ぜ合わせて食していたことを覚えています。
脳などの中枢神経、心臓、胃腸を含めた筋肉は、エネルギー源として糖質を大量消費するため、真っ先に欠乏症状をきたしやすい臓器です。B1が欠乏してくると、全身倦怠感、食思不振、手足のしびれ、むくみ、動悸、体重減少、易興奮性、集中力低下、頭痛、不眠などの症状が出ます。さらに高度の欠乏症になると脚気に至ります。
ビタミンB1は、食品としては豚肉、ハム、焼豚、ベーコン、たらこ、ウナギ(蒲焼)、小麦胚芽、玄米、ナッツ類、豆類、レバーなどに多く含まれます。ただし、加熱にて失活するので調理法を工夫する必要があります。にんにく注射は手っ取り早い方法ではありますが、これらの食品を積極的に摂取することが基本であることを忘れないでください。
ビタミンB1が著しく欠乏し、脚気衝心などを発病していれば保険診療となりますが、それ以外の場合は保険外診療となります。保険外診療は自由診療のため、注射料は医療機関により異なり1,000~5,000円程度のようです。ただ、後述の如く医療機関により中身が異なるので、一概に1,000円が安く、5,000円が高いとはいえません。当院ではにんにく注射ベーシック(ビタミンB1単剤)が1回2,000円、B1に加えB2、B6、B12、ビタミンCを配合させた点滴が3,500円です。市販の栄養ドリンク剤で高価なものが3,000~4,000円(ユンケルスター4,078円、リポビタンエース3,159円)することを考えれば、それほど高価とは思えません。