生活習慣病外来

高血圧内科

高血圧内科

はじめに

ご存知のように、血液は心臓というポンプにより全身の血管の中を循環しています。循環器科は、心臓や血管の不具合に起因した病気を扱う科です。ただし、脳血管疾患は、脳の障害により、さまざまな神経症状を呈するため一般に神経科に分類されています。循環器科で扱う病気には先天性心疾患(生まれつきの心臓の異常)、心臓弁膜症、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心不全、不整脈、心臓の膜や筋肉の病気、心臓腫瘍、血圧異常(高血圧、低血圧)などがあります。
これらのうち最も頻度が多いのが血圧異常で、そのほとんどが高血圧です。高血圧は日本の国民病ともいえるもので、50歳以上の方の約半数が高血圧と言われています。高血圧が恐ろしいのは、放置すると結果として心筋梗塞などの心臓病のみならず、脳卒中(脳出血、脳梗塞など)を引き起こしてしまうことです。
当院では循環器疾患一般を取り扱いますが、とくに国民病ともいえる高血圧に力を入れた診療を行っています。

高血圧とは

高血圧とはなんらかの原因により血圧が基準値より高くなった状態です。高血圧になっても自覚症状はほとんどありません。ときに、頭痛、肩こり、めまい、顔のほてりなどを感じる程度です。しかし、血圧が高いほど脳卒中、心筋梗塞などの心疾患、最後は透析が必要になる慢性腎臓病などの罹患率、死亡率が高いことが分っています。そのため高血圧の治療が行われるのです。
高血圧の基準値は以下のようになっています。


成人における血圧値の分類(mmHg)(高血圧治療ガイドライン2009より引用)

分類 収縮期血圧 拡張期
至適血圧 <120 かつ   <80
正常血圧 <130 かつ   <85
正常高値血圧 130-139 または   85-89
T度高血圧 140-159 または   90-99
U度高血圧 160-179 または   100-109
V度高血圧 ≧180 または   ≧110
(孤立性)収縮期血圧    ≧140 かつ   <90

(注:診察室血圧値の場合)


これらの値のうちいわゆる高血圧は、従来全世界的にT度高血圧以上の場合でした。すなわち収縮期血圧140以上、または拡張期血圧90以上の場合です。しかし、実際には至適血圧(収縮期血圧120未満、拡張期血圧80未満)で最も脳卒中などの発症率が低く、それ以上の値では段階的に心血管病のリスクが高まっていくことが明らかになっています(久山町研究)。そのため、以前に比べより厳格な対応が求められるようになり、正常高値血圧(収縮期血圧130-139、拡張期血圧85-89)であっても、後述のように状況により治療の対象となります。
高血圧診療の基本的な進め方は、1、血圧レベル、罹病期間の評価、2、本態性高血圧か二次性高血圧かの鑑別診断、3、心血管病の危険因子の評価、4、臓器障害/心血管病の評価、を経て治療方針を決定します。

拡張期高血圧について

高血圧に関して「血圧の上の値と下の値の差が小さく、血圧の下の方の値だけが高いのですが、大丈夫なのでしょうか。下の値が高いのは良くないと聞いたことがあるのですが。」という質問をよく受けます。この質問に順を追って分かりやすく回答したいと思います。
まず、血圧とは動脈という容器の中に入っている血液の圧力です。高血圧の方の動脈に針を刺すと噴水のように勢いよく血液が噴出してきます。一方、低血圧の方の場合、チョロチョロと弱々しく血液が漏れてくるのをイメージして下さい。
血圧の上の値は「最高血圧」のことで、「収縮期血圧」とも言います。心臓は血液を循環させるためのポンプで、動脈の中に血液を送り込んでいます。心臓は1分間に60回程度、すなわち約1秒毎に1回収縮します。具体的には、1秒間の前半で大動脈弁を開放し、左心室を収縮させ動脈の中に血液を送り込みます(下図、心臓の断面(NATOM IMAGES ©Callimedia))。

拡張期高血圧

この前半の時期を収縮期と呼びます。動脈という容器の中に心臓から大量の血液が送り込まれるわけですから、一気に動脈圧が上昇します。そしてその頂点の血圧値が最高血圧で、収縮期の血圧ですから、収縮期血圧とも呼びます。後半は大動脈弁を閉じ、動脈から血液が逆流して来ないようにしつつ、収縮した心臓を拡張させ、心臓の後ろにある肺から血液を受け取り、次の心拍に備え心臓の中に血液を充填します(下図、循環系および心周期(NATOM IMAGES ©Callimedia))。

拡張期高血圧

この後半の時期を拡張期と呼びます。一方、拡張期、血圧測定用のマンシェットを巻いた上腕の動脈の中にあった血液は、上腕から肘、前腕、手首、指先へと流れ去って行きます。拡張期、心臓から血液の補充はありませんから、上腕の動脈の中に血液の量はどんどん減り、圧もどんどん減少していきます。そしてその底の血圧値が最低血圧、拡張期血圧です。このように動脈の中の血圧は最高血圧と最低血圧の間を1秒毎に行き来しています(下図、動脈圧波形)。下図の3〜6段目の波形が右上腕、左上腕、右足首、左足首の血圧値の波形です。

拡張期高血圧

正常域血圧の範囲は、診察室では140/90mgHg未満、家庭血圧では135/85未満です。ですから、頭書のような質問は、120/95といったような拡張期血圧のみ高血圧の方から受ける質問です。収縮期血圧と拡張期血圧の差を脈圧と呼びます。この方の場合、脈圧は120-95=25です。心臓の循環ポンプ機能が低下した状態を、心臓機能不全、略して心不全といいます。心不全になると心臓から血液がわずかしか駆出されないため、動脈圧は余り上昇せず、収縮期血圧は低くなります。一方、上腕の中の血液も末梢へ循環していきませんから拡張期血圧の低下は少なめです。そのため心不全の方の脈圧は小さくなります。実際、臨終間際の方の脈圧はわずかです。ですから、脈圧が小さいのは心臓ポンプ機能の低下、心不全を連想させ悪いイメージを持っている方が多いようです。
しかし、通常外来を歩いて受診されるような方にそのような重篤な心不全の方はいません。脈圧が低下するような重篤な心不全になると、労作時呼吸苦が酷く、とても歩いて通院できません。バス停から距離のある当院まで歩いて通院できる程の心機能を有している方の脈圧はむしろ動脈の弾力性、柔軟性を反映し、反比例します。動脈の柔軟性が高い方の場合、収縮期に心臓から血液が送り込まれ、血圧が上昇していくとそれに伴い血管も拡張し、圧上昇を吸収していきます。動脈という容器が拡張すれば、心臓から送られてくる血液量が増えても圧は余り上昇しません。一方、拡張期に血液が末梢に流れ去り血管の中がすかすかになっても、血管も圧低下に従いどんどん収縮するため圧は余り低下しません。このように柔軟性のある動脈では最高血圧は低く、最低血圧は高くなり、脈圧は小さくなります。ですから、動脈硬化のない若年者の一般的な血圧値は110/80といったように小さな脈圧になります。そのため若年者が高血圧になると収縮期より先に拡張期血圧が140/90の高血圧の基準に達してしまいます。
一方、動脈の柔軟性、弾力性の低下した固い血管の場合、収縮期に心臓から血液が送り込まれ、血圧が上昇していっても血管は拡張できず、圧はどんどん上昇していきます。一方、拡張期に血液が末梢に流れ去り血管の中がすかすかになっても、血管は収縮しません。ですから最低血圧はどんどん低下していきます。このように柔軟性、弾力性のない動脈では最高血圧はより高く、最低血圧はより低くなり、脈圧は拡大していきます。ですから、動脈硬化の目立つ高齢者の一般的な血圧値は135/65といったような大きな脈圧の血圧値になります。そのため高齢者が高血圧になると拡張期より先に収縮期血圧が140/90の高血圧の基準に達してしまいます。
以上の説明は一般論ですが、例外もあります。例えば心臓弁膜症である大動脈閉鎖不全では、大動脈弁が完全に閉じず、拡張期に血液が動脈から心臓に逆流します(下図、大動脈閉鎖不全(NATOM IMAGES ©Callimedia))。

拡張期高血圧

そのため上腕動脈内の血液は、拡張期に通常の末梢側に加え逆方向の心臓へも逆流、最低血圧は極端に低くなります。一方、心臓は拡張期に後にある肺から血液を受け取るだけでなく、一旦収縮期に送り出した動脈からの逆流によっても血液を受け取ります。そのため通常以上に大量の血液を拡張期に充填させます。通常以上に大量に充填された血液を次の収縮期で一気に動脈内に駆出します。結果、最高血圧は通常以上に高くなります。以上の如く、大動脈弁閉鎖不全の方の場合、例え若年者で動脈硬化が進行していない方であっても150/50といったような血圧値となります。
また、拡張期高血圧のイメージが悪い理由の一つは、降圧剤を服用した場合、拡張期血圧が収縮期血圧ほど低下しないことがあると思います。一般に、降圧剤による拡張期血圧の低下幅は収縮期血圧低下幅の60〜70%程度です。つまり、収縮期血圧が10mmHg低下したとき、拡張期血圧は6〜7mmHg程度しか低下しません。例えば、血圧値135/100という拡張期高血圧患者と150/85という収縮期高血圧患者さんがいた場合、140/90という基準値まで血圧を低下させるためには、一般に前者の方がより多くの降圧剤が必要になります。このように拡張期血圧は収縮期血圧に比べ下がりにくいため、難治性といえます。
以上の如く一般に脈圧が小さいのは動脈の柔軟性、弾力性が保たれていることを示唆し、脈圧が大きいのは血管が硬くなっていること、つまり、動脈硬化の存在を示唆しますし、拡張期高血圧は動脈硬化の進んでいない方、一般に若年者の高血圧の特徴であって、必ずしも良くないことと考える必要はありません。

血圧レベルの評価

従来、血圧は医療機関でしか測定できませんでしたから、上述の高血圧の分類は、医療機関内で測定した値(診察室血圧と呼びます)を前提としています。クリニックを受診するのは月に1回程度ですから、年間たった12回しか血圧を測定しないことになります。血圧は心臓の拍動により血管内に駆出された血液の圧力です。ですから血圧は一拍一拍の拍動毎に変化します。心臓は1日24時間365日休まず動き続けます。心拍は1分間で約70回ですから、1年間で70×60×24×365=36,792,000回拍動します。なのにたった12回の血圧測定値で高血圧を評価するのはあまりに大雑把です。また、クリニックで血圧を測定した場合、白衣現象といい過度の緊張から日頃の血圧値よりかなり高くなってしまう方がいます(白衣高血圧)。その値を鵜呑みにすると健康な方を高血圧と誤診し、不必要な降圧剤を服薬させることになりかねません。
一方、従来高価だった家庭用血圧計が今では電気製品量販店で3,000円足らず購入できるようになりました。そのため、高血圧あるいは高血圧が疑われる方には、必ず家庭用血圧計を購入、下記の如く起床直後と就寝前の血圧をご自宅で測定していただき、その値で高血圧のレベルを評価しています。なぜ起床直後と就寝前かというと、1日24時間のうち最も血圧が高いのは起床直後で、最も低いのが就寝前(平均で15mmHg朝の方が高いです)だからです。119番に電話で救急車出動要請が寄せられるのが最も多い時間帯は朝です。それは朝に心筋梗塞や脳卒中が多いから。朝に心血管事故が多いのはこの早朝高血圧が原因なのです。外来を受診するのは午前9時から夕方までの間で早朝受診することはありません。そのため、外来で測定した血圧は1日24時間の中で比較的低い時間帯の血圧値です。そのような昼間の血圧のみ測定し、問題ないと判断していた方の起床時の血圧が実は著しく高血圧(早朝高血圧といいます)で、それを見逃していたなどということは日常診療にしばしば経験することです、実際、最近の研究でも診察室血圧値より家庭血圧値の方がより優れた生命予後の予知因子であることが明らかになってきました。つまり、家庭血圧値の方が診察室血圧値より、患者さんの血管への悪影響の程度をより正確に評価できるのです。ですから当院では必ず家庭血圧を測定していただいています。しかし、就労していたり、専業主婦(夫)であっても小さなお子さんのいる家庭だったりすると、患者さんの中には毎日の血圧測定が負担になる方もいます。また、測定することで逆に神経質になり過ぎて、ストレスが溜まることもあります。そのストレスのため血圧が上がるようなことがあれば、本末転倒です。家庭血圧測定の目的は、日常生活の血圧を測定することにより、より正確に患者さんの血圧値を評価、適切な治療に継げ、心血管事故を未然に防ぐことにあります。日々の家庭血圧の測定が患者さんの負担になっていると判断した場合、私は「降圧剤を飲み忘れれば血圧は上がりますが、血圧を測定し忘れても血圧は上がりません。時間に余裕のあるときだけでよいですから測定して下さい。面倒だと思ったら測定しなくてかまいません。その代り24時間血圧測定(下記)を受けて下さい。」とお話しています。
家庭血圧測定上の注意点を列記します。

1.上腕カフ血圧計を購入、測定する(手首、指と心臓から遠ざかるほど誤差が大きい)
2.厚手のシャツ、上着の上からカフを巻かない。厚手のシャツをまくし上げて 腕を圧迫しない
3.初めは両腕で測定し、左右差がないことを確認したら、どちらの腕で測定してもかまわない
4.1日2回朝(起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬前、朝食前、座位1〜2分安静後)と晩(就寝前、座位1〜2分安静後)測定する
5.1回の測定機会で、複数回測定する。通常1回目が最も高く、その後徐々に低下、3回目くらいで測定値は安定する。連続した血圧値の差が5mmHg未満となった2回の値の平均値を血圧値とする(のが、正式な方法ですが、面倒な方の場合、2回目の値を記録してもらっています)
6.測定したすべての血圧値を血圧手帳に記録する(ときどき、患者さんからどの値が正確な血圧値ですかと質問されますが、どの値も本物です。血圧計が誤作動しているわけではなく、その方の精神状態による血圧の変化を表しているのです)
7.脈拍数も必ず記録する(脈拍数の速い人ほど心血管事故の発症率が高く、短命なのが明らかになっています

上述したように心臓は1日約10万回拍動します。家庭血圧を測定していただいくと診察室血圧で得られない多くの診療情報を得ることが出来ます。それでも朝と晩の血圧だけでしかありません。たとえば夜間寝ている間の血圧はまったくブラックボックスです。そこで最近30〜60分間隔で24時間連続して測定できる24時間自由行動下血圧測定(ABPM)が行われるようになりました。最近の研究では、診察室血圧や家庭血圧よりABPMの結果の方が、高血圧による臓器障害の程度とより密接に関係、心血管病の発症を予想できることが明らかになりました。ABPMにより明らかになった睡眠中の血圧推移のパターンが非常に重要で心血管病の発症に関係していることが明らかになっています。複雑なのでここでは割愛しますが、非常に大切な検査のため、当院では必ず24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の検査を受けていただいています。
家庭血圧測定では診察室のような緊張感がないため、おおよそ5mmHg低くなります。また、ABPMでは血圧は夜間低く昼間高くなるため下記の如く独自の基準が設定されています。


異なる測定法における高血圧基準

  収縮期血圧 拡張期
診察室血圧 140 90
家庭血圧 135 85
自由行動下血圧    
24時間 130 80
昼間 135 85
夜間 120 70

(mmHg)(高血圧治療ガイドライン2009より引用)

以上のような方法で血圧を測定することで、患者さんの高血圧のレベルを判定しています。
また、たとえ高血圧のレベルが同程度であっても罹病期間によって臓器障害の進み方は違います。たとえば今年初めて高血圧を指摘された方と10年前から指摘されていたが放置している方では、当然後者の方が、高血圧による臓器障害が進展、心血管病を既に併発している可能性が高くなります。罹病期間を確認するため、健康診断や人間ドックの受診歴のある方は、その結果を持参していただきます。

本態性高血圧か二次性高血圧かの鑑別診断

高血圧の約90%は明らかな原因のない本態性高血圧です。これを略して通常「高血圧」と呼んでいます。遺伝的体質(家系)に食塩過剰摂取、肥満、アルコール多飲、運動不足、喫煙、ストレスなどの悪しき生活習慣が加わり発病すると考えられています。
一方、残り10%は二次性高血圧といい高血圧をきたす明らかな原因のあるもので、下記のようなものがあります。


主な二次性高血圧(高血圧治療ガイドライン2009を改変)

原因疾患                 示唆する所見

腎実質性高血圧 蛋白尿、血尿、腎機能低下、腎疾患既往
腎血管性高血圧 若年者、急な血圧上昇、腹部血管雑音、低K血症
原発性アルドステロン症 四肢脱力、夜間多尿、低K血症
クッシング症候群 中心性肥満、満月様顔貌、皮膚線状、高血糖
褐色細胞腫 発作性・動揺性高血圧、動悸、頭痛、発汗、神経線維腫
甲状腺機能低下症 徐脈、浮腫、活動性減少、脂質、CK、LD高値
甲状腺機能亢進症 頻脈、発汗、体重減少、コレステロール低値
副甲状腺機能亢進症 高Ca血症
大動脈縮窄症 血圧上下肢差、血管雑音
脳幹部血管圧迫 治療抵抗性高血圧、顔面けいれん、三叉神経痛
睡眠時無呼吸症候群 いびき、昼間の眠気、肥満
薬剤誘発性高血圧 薬物使用歴、治療抵抗性高血圧、低K血症

その原因によっては適切な処置により完治し、降圧剤が不要になる場合もあります。一旦、降圧剤により治療を始めてしまうと、検査結果に影響が出るため二次性高血圧の診断が難しくなる場合があります。そのため、高血圧の初診の方には、治療を始める前に二次性高血圧鑑別診断の検査を受けていただきます。これらの多くは、詳細な病歴聴取と身体所見だけで鑑別できるため、検査を網羅的に実施する必要はありません。また、二次性高血圧鑑別診断のための検査は、比較的高価なものが多いため、費用対効果(支払ったお金対して、その患者さんにとってどれだけ有意義な情報が得られるか)を考慮して実施します。当院は大学病院ではありませんので研究目的に実施することもありません。
とくにNHK放送の「ためしてガッテン」でも取り上げられたように原発性アルドステロン症は二次性高血圧の中で最も多く、必ずその検査を受けていただきます。当院でも多数の患者さんが発見され手術を受けられました。

心血管病の危険因子の評価

血圧が高いほど脳卒中、心筋梗塞などの心疾患、慢性腎臓病などの罹患率、死亡率が高いことをお話しましたが、高血圧患者さんの予後は血圧の高さのみで決まるわけではありません。併存する高血圧以外の危険因子や、高血圧による臓器障害の程度や心血管病の合併の有無で大きく変わります。

心血管病の危険因子(高血圧治療ガイドライン2009を改変)

高齢(65歳以上)
喫煙
収縮期血圧、拡張期血圧レベル
脂質異常症
低HDLコレステロール血症(<40mg/dl)
高LDLコレステロール血症(≧140mg/dl)
高トリグリセライド血症(≧150mg/dl)
肥満(BMI≧25)(特に腹部肥満)
メタボリックシンドローム
若年(50歳未満)発症の心血管病の家族歴
糖尿病
  空腹時血糖≧126mg/dl
  あるいは
  負荷後血糖2時間値≧200mg/dl


想像してみて下さい。同程度の高血圧であっても「若くして心筋梗塞のため他界した親を持ち、コレステロールが高く、糖尿病もあり、タバコが止められない太った66歳の方」と「88歳まで長生きをした親を持ち、コレステロールも血糖も正常で、タバコを吸ったことのないスリムな50歳の方」、どちらの方が近々心筋梗塞でポックリ逝きそうでしょうか。ですから、当院では初診時に必ず上記のすべての心血管病の危険因子について、問診や血液検査などで確認しています。

臓器障害/心血管病の評価

上述したように、最近高血圧を発症した方ではまだ臓器障害は目立ちませんが、10年来の高血圧を放置された方では既に全身の臓器はガタガタになっており、非常に危険な状態です。ですからたとえ同程度の高血圧であったとしてもその予後は大きく違います。高血圧による臓器障害/心血管病には下記 のようなものがあります。



臓器障害/心血管病(高血圧治療ガイドライン2009を改変)


脳      脳出血・脳梗塞
        無症候性脳血管障害
        一過性脳虚血発作

心臓     左室肥大(心電図、心エコー)
         狭心症・心筋梗塞・冠動脈再建
         心不全

腎臓     蛋白尿(尿微量アルブミン排泄を含む)
         低いeGFR(<60mL/分/1.73m2)
         慢性腎臓病(CKD)・確立された腎疾患(糖尿病性腎症・腎不全など)

血管      動脈硬化性プラーク
          頸動脈内膜・中膜壁厚(IMT)>1.0mm
          大血管疾患
          閉塞性動脈疾患(低い足関節上腕血圧比:ABI<0.9)

眼底     高血圧性網膜症


このような臓器障害や心血管病を既に発症している方は、高血圧以外の危険因子を複数持ち、高血圧を長い間放置したり、あるいは治療していてもこれまでの治療が不適切か不十分だったりした方がほとんどです。高血圧は、たとえ血圧値が同じであったとしても皆同じように治療するわけではありません。高血圧以外の危険因子が少なく、臓器障害/心血管病が併発していない方には、値が高くとも出来るだけ生活指導を優先し薬は飲ませないように努めます。一方、既に臓器障害/心血管病が発症している方には、たとえ軽度の高血圧でもおのずと食餌療法に加え積極的に薬物療法をお勧めします。
ですから、当院では初診時に、上述の二次性高血圧の鑑別診断のための検査に加え、必ず上記の臓器障害/心血管病の有無について、問診、血液検査、検尿、心電図、眼底カメラ、頸動脈超音波検査、腹部超音波検査、血圧脈波などで確認しています。

頚動脈解剖図
臓器障害検査の一例をご紹介します。頸動脈解剖図では、頭部へ血液を供給する血管の本管である総頸動脈が、頭皮へ血液を供給する外頸動脈と脳へ血液を供給する内頸動脈に分岐している様子を示しています。

20111205頸動脈超音波右内頸動脈縦断像
右内頸動脈狭窄超音波画像は60代男性の超音波画像です。長年高血圧を指摘されていたにもかかわらず軽度ということで放置していました。高血圧で当院を受診、頸動脈超音波検査を実施したところ、総頸動脈が内頸動脈と外頸動脈に分岐した直後、黄色で示したようなプラーク(血管壁にコレステロールが沈着し隆起したところ)が生じ、内頸動脈の内腔はわずかに残っているのみでした。

20120119右内頸動脈3D-DSAのRA像
狭窄部位の3D-DSA画像では砂時計のように狭窄しているのがわかります。早速連携医療機関にてステントグラフト内挿術を実施していただきました。 ステントグラフトとは金属製の網目が筒状になったもので、狭窄部位に挿入し、ばね圧で拡張させます。

20120119右内頸動脈DSAステント挿入前後
ステント挿入後のDSA画像では狭窄部位がしっかりと拡張しているのがわかります。このまま放置していたら、右大脳のかなりの部分が脳梗塞によって失われるため、助かっても寝たきりだったかもしれません。

右網膜静脈分枝閉塞症の眼底出血
次に眼底検査について一例をご紹介します。右網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真は50歳代男性の喫煙者で、以前から健診で高血圧、糖尿病、脂質異常症を指摘されていましたが放置していた方です。ちなみに、眼底とは球体である眼球中、瞳の奥の一番遠い部分です。ですから、ただ、外側から目を見ても解りません。この方はある日突然眼底出血し視力が低下、某大学病院眼科を受診、高血圧を長年放置していたことによる動脈硬化が原因であると説明され、高血圧治療目的に当院を受診されました。

右網膜静脈分枝閉塞症の眼底出血発症2年後
現在投薬により血圧、血糖、脂質ともコントロール良好で、2年後には眼底出血は完全に吸収されています。しかし、残念ながら出血が黄斑部という視力を司る場所に及んでいたため、完全に視力は戻りませんでした。もう少し早く来院してくれていたらと悔やまれました。なお、動脈硬化により眼底出血が起こる仕組みは、後述の「脂質代謝内科」の「動脈硬化の評価」の段落をご参照下さい。

左網膜静脈分枝閉塞症の眼底出血
左網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真は60歳代男性の喫煙者で、以前から高血圧の治療をしていましたがしっかりと目標値まで低下していなかったそうです。この方もある日突然眼底出血し視力が低下、某大学病院眼科を受診、高血圧の治療をもっと厳格に行うよう指示され、当院を受診されました。

左網膜静脈分枝閉塞超の眼底出血発症1年後

現在投薬により血圧コントロール良好で、1年後には眼底出血はほとんど吸収されています。しかし、出血が黄斑部に及んでいたため、完全に視力は戻りませんでした。


生活習慣の是正について

日本で高血圧患者はおよそ4000万人に上るといわれています。国民病ともいえるものです。その最大の要因は、世界的に見て非常に多い日本人の食塩摂取量にあります(食塩過剰摂で血圧が上昇する仕組みは割愛します)。1950年代東北地方の食塩摂取量は1日25gに達していたと推測されています。最近では国民1人1日当たり約11gとかなり減ってはいますが、欧米人の6g前後と比べまだまだ多いです。ちなみに文明化が進み現在のように容易に塩が手に入るようになる以前の人類の食塩摂取量は0.5〜3g程度だったと推測されています。いかに現代日本人が大量の食塩を摂取しているかお分かりいただけるかと思います。
また、危険因子として取り上げられているように肥満は高血圧患者さんの予後を悪化させます。体重1kgの減量でおよそ血圧1.7mmHg低下します。すなわち、10kg減量できれば単純計算で血圧が17mmHgも下がります。実際、体重減量で降圧剤が不要になる方も多数います。同様運動を始めたり、禁煙したり、晩酌の量を減らすことによって著しく血圧が下がり、降圧剤が不要になった方が数います。しばしば、「高血圧の薬を始めたら死ぬまで止められないのですか?」と患者さんから質問を受けますが、私は即座に否定しています。血圧は加齢により年々増加しますから、今まで通りの悪しき生活習慣をダラダラと続け一向に是正する気のない場合、血圧の薬を止めることはできません。しかし、自身の努力で克服可能な危険因子(食塩制限、野菜中心の食生活、適正体重の維持、運動、節酒、禁煙など)を是正すると驚くほど血圧が低下、降圧剤が不要になることしばしばです。当院の診療指針を是非お読みになって下さい。副作用がまったくないと断言できる薬などありません。できるだけ薬を使わず治療をするのが基本です。生活習慣の是正を待っていられないほど高リスクの場合も多々あります。まずは降圧剤で治療を開始したとしてもできるだけ生活習慣を是正し、降圧剤の量を必要最小限にし、できれば中止できるようにしたいものです。

最後に

今回薬物療法の種類や適応、治療目標値、さまざまな特殊ケースに関する治療方針などの説明は割愛しています。実際の外来診療において患者さんにご説明しながら診療を進めていきます。

脂質代謝内科

脂質代謝内科脂質異常症とは

脂質代謝内科とは「脂質異常症」を専ら対象としています。脂質異常症とは血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増え過ぎた状態です。以前は、「高脂血症」と呼ばれていました。しかし、コレステロールには増えてはいけない悪玉のLDLコレステロールと、動脈硬化を予防する働きがありむしろ減ってはいけない善玉のHDLコレステロールがあります。つまりHDLコレステロールは少ないことが問題なのに、「高」脂血症と表現するのは違和感があるため、脂質異常症と呼称が変わりました。余談ですが今でも高脂血症という言葉は使われますが、下記のうち低HDLコレステロール血症を除いた高LDLコレステロール血症と高トリグリセライド血症の二つを意味することになります。

脂質異常症の診断基準(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007より引用)

高LDLコレステロール血症
  LDLコレステロール≧140mg/dl
低HDLコレステロール血症
  HDLコレステロール<40mg/dl(≦39mg/dl)
高トリグリセライド血症
  トリグリセライド≧150mg/dl


脂質異常症治療の目的

脂質異常症になっても高血圧同様まったく自覚症状はありません。痛くも痒くもありません。では

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、なぜ多数の方が脂質異常症のお薬を飲んでいるのでしょうか。脂質異常症を放置すると徐々に動脈の内面にコレステロールが沈着、血管壁内側が徐々に盛り上がり(この盛り上がりを「プラーク」と呼びます)、内腔がだんだん狭くなっていきます(動脈硬化)。そしてついに閉塞すると血行が途絶え、その血管から酸素や栄養を供給されていた臓器が腐ってしまいます(血管閉塞が原因で組織が壊死することを「梗塞」と呼びます)。高血圧が併存すると、ときに劣化した血管壁に穴が開き出血することもあります(脳出血や眼底出血)。動脈硬化は全身の血管で起こりうります。動脈硬化の関与した病気には、脳梗塞や脳出血、眼底出血、狭心症や心筋梗塞、大動脈瘤や大動脈解離、虚血性大腸炎、腎梗塞や腎硬化症、末梢性動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)などがあります。動脈硬化の動画中、血管壁の間に溜まった黄色いものがLDLコレステロールです。つまり、脂質異常症を治療する目的は、お薬を飲んで脂質検査の結果値を改善させること、いい点を取ることではありません。脂質異常症の治療の目的は動脈硬化の進展を抑えることにより、脳梗塞や心筋梗塞などを予防することなのです。

脂質異常症の原因

脂質異常症は、脂質が上昇しやすいという遺伝的素因=体質に、肥満、運動不足、過食など悪しき生活習慣が加わり発病します。両者の合計点で脂質異常症の程度は決まります。
遺伝的素因の程度はさまざまです。たとえ動物性脂肪を一切食べない菜食主義者であっても強い遺伝子のため重症の脂質異常症をきたす方(家族性高コレステロール血症といいます)もいます。しかし、弱い遺伝的素因のため節制すれば異常を認めず、生活習慣の乱れがあって初めて脂質異常症をきたす程度の方もいます。これら脂質異常症をきたす遺伝子はほとんどが常染色体性優性遺伝であるため、肥満や生活習慣の乱れがないのに脂質異常症を発病されている方の父親または母親の片方または両方は必ず脂質異常症のはずです。また、女性ホルモンはコレステロールを下げる作用があります。そのため、月経のある間は、女性のコレステロール値は男性より低く推移し、卵巣から女性ホルモンの分泌量が減少する40歳代後半から増加し始め、閉経すると男性を逆転、その後は男性より高値を持続します。このように女性の脂質異常症は男性の後追いで発症してくるため、心筋梗塞の発症率は男性より低いことが分っています。

動脈硬化危険因子

脂質異常症の治療の目的が動脈硬化の予防であるとご説明しました。動脈硬化の程度が単に脂質の値のみで決まるのなら、値の高い方は必ず治療しなければならなくなります。しかし、実際には動脈硬化の程度は脂質異常症の程度のみで決まるわけではありません。動脈硬化の発症を促進する因子を「動脈硬化危険因子(リスクファクター)」といいます。それらには下記のようなものがあります。

LDLコレステロール以外の主要な危険因子(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007を改変)

・低HDLコレステロール(善玉)血症
・加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)
・糖尿病(耐糖能異常=糖尿病予備軍を含む)
・高血圧
・喫煙
・冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の家族歴


悪玉のLDL-コレステロールの増加に加え、これら動脈硬化危険因子をどれだけ多数持っているかによって動脈硬化の進展度合いは異なります。想像してみて下さい。同じ程度にLDL-コレステロールが高くとも、「コレステロールが高く若くして心筋梗塞のため他界した父親の息子で、高血圧、糖尿病の両方を患い善玉のHDLコレステロールが低く、タバコが止められない50歳の男性」と「コレステロールは高かったが心筋梗塞を患わず88歳まで長生きをした父親の娘で、高血圧、糖尿病とも一切なく善玉のHDLコレステロールがたっぷりあり、タバコを吸ったことのない50歳の女性」、どちらの方が、動脈硬化=血管の老化が進むと思いますか。どちらの方が心筋梗塞でポックリ逝きそうでしょうか。
ちなみに、加齢の項目で、男性45歳以上、女性55歳以上となっているのは、男性の方が女性より若くして動脈硬化が進展し、心筋梗塞になりやすいからです。これも男性の平均寿命が女性より短い理由の一つになっています。

脂質異常症は、たとえ同じ検査値であったとしても皆同じように治療するわけではありません。脂質異常症以外の危険因子が少ない方には、値が高くとも出来るだけ食餌療法を優先し薬は飲ませないように努めます。一方、既に動脈硬化の進展している方には、たとえ軽度の脂質異常症でもおのずと食餌療法に加え積極的に薬物療法をお勧めします。
ですから、当院では初診時に必ず上記の主要な動脈硬化危険因子について、問診や血液検査などで確認します。
これら主要危険因子のうち、禁煙は最も安上がりな治療法です。喫煙者には必ず禁煙を進言しています。

さらに、その他考慮すべき危険因子として下記のようなものがあります。

その他の考慮すべき危険因子(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007を改変)

・Lp(a)
・レムナントリポ蛋白
・ホモシステイン
・small dense LDL*
・急性期反応蛋白(C反応蛋白、血清アミロイドA蛋白など)
・催凝固因子
・EPA/AA比(筆者追加)
(筆者注:*は保険適応外)

これらの項目の中で保険適応になっていないものは高額なため実施しません。また、比較的高価なものが多いため、費用対効果(支払ったお金対して、その患者さんにとってどれだけ有意義な情報が得られるか)を考慮して実施します。闇雲に実施しません。当院は大学病院ではありませんので研究目的に実施することもありません。

C反応蛋白(略してCRP)は廉価な上、保険適応であり非常に重要なため必ず実施します。血液中の悪玉LDL-コレステロール値が高いとそれらが血管の内面に付着、徐々に血管内腔が狭くなり、ついには閉塞してしまうと上述しました。しかし、実際の仕組みは少し違っています。実際は、血管の内側が盛り上がってきた当初、その内部にあるのは脂肪ですから、プラークは柔らかく傷つき破れやすい状態(「不安定プラーク」と呼びます)です。そのため、狭窄したところに発生する血液の乱流等によりプラークの表面に炎症=傷が生じ中身がむき出しになってしまうことがあります(プラークの破綻)。
ご存知のように血液は傷口があると、そこで固まって止血するよう作られています。そのため、血液が間違って血管内面の傷で固まってしまう(「血栓」と呼びます)わけです。血液が固まるのには数分程度しかかかりません。そのため、突然さまざまな臓器が梗塞を起こすことになります。心筋梗塞や脳梗塞が心臓発作、脳卒中などと呼ばれるゆえんです。動画では血管の内側がコレステロールの沈着により盛り上がった後、その隆起の表面に傷ができ、そこで血液が突然固まってしまう様子を表しています。CRPは炎症の指標です。ですから、ほかに炎症を伴う病気がないのにもかかわらずCRPが高値の場合、血管の内側の炎症の存在を強く示唆します。つまり、CRPの増加は梗塞が起こりそうな状態を示しているのです。実際、CRP高値の方は心筋梗塞になりやすいことが分っています。なお、コレステロールが沈着したプラークができた後、その表面に傷=炎症が生じるだけでなく、むしろ因果が反対で、正常な血管の表面に傷=炎症が生じるため、コレステロールが沈着しやすくなるという研究結果も最近得られています。いずれにしてもCRP増加は動脈硬化が進展し、梗塞の起こりやすい状態へ向かっていることを示しているのです。

動脈硬化の評価

脂質異常症の治療の目的は動脈硬化の予防であるため、動脈硬化危険因子の多寡を評価した上で治療方針を決定することをお話ししました。しかし、必ずしもLDLコレステロール値がより高く、危険因子の数がより多い方ほど動脈硬化がより強く進展しているとは限りません。糖尿病や高血圧が併存しているといってもその程度の問題もあります。また、タバコを吸うといっても5本と二箱40本ではだいぶ違います。心筋梗塞の家族歴だって、親族に心筋梗塞の方が一人いるのか、5人いるのかでは違います。さらに、たとえそれらの条件がまったく同じ方であっても罹病期間によって動脈硬化の進み方は違います。たとえば今年初めて脂質異常症を指摘された方と10年前から指摘されているが放置している方では、当然後者の方が、動脈硬化が進展しています。そのため、コレステロール値や危険因子の数、程度で動脈硬化の進展を推測するのではなく、当院では必ず頸動脈超音波検査、眼底検査、血圧脈波(いわゆる血管年齢)、心電図、尿検査などで実際の動脈硬化の進展具合を評価しています。当然、動脈硬化の進展がない方には、値が高くとも出来るだけ食餌療法を優先し薬は飲ませないように努めます。一方、既に動脈硬化の進展している方には、たとえ軽度の脂質異常症でもおのずと食餌療法に加え積極的に薬物療法をお勧めします。明らかに、年齢に比し動脈硬化の進展が速い場合、Lp(a)などの危険因子を持っている可能性がありますから、上述のような危険因子の検索も行います。

20111205頸動脈超音波左総頸動脈縦断像
動脈硬化評価のための検査の一例をご紹介します。左総頸動脈狭窄超音波画像は60代男性の画像です。黄色で示したようなプラーク(上述の「脂質異常症治療の目的」の段落をご参照下さい。)が生じ、総頸動脈の内腔はわずかに残っているのみです。

20111205頸動脈超音波左総頸動脈横断像
横断像で見ると、狭窄率は74.9%で、つまり内腔は25%しか残っていませんでした。さらに、そのプラークの表面の一部が破れ、窪み=潰瘍を形成しているのがわかります。

20111205頸動脈超音波左総頸動脈縦断像カラードプラー
カラードプラー像で血流に色を付けると破綻した潰瘍内に血液が流れ込んでいる様子がわかります。「脂質異常症治療の目的」の段落で示した動画とそっくりな状態なのがお分かりいただけると思います。「動脈硬化危険因子」の段落で、プラークの破綻について説明したように、血栓を非常に作りやすい状況でした。早速連携医療機関にてステントグラフト内挿術を実施していただきました。ステントグラフトとは金属製の網目が筒状になったもので、狭窄部位に挿入し、ばね圧で拡張させます。

20120301DSA左総頸動脈ステント挿入前後
ステント挿入後のDSA画像では潰瘍形成部位がしっかりと拡張しているのがわかります。このまま放置していたら、左大脳のかなりの部分が脳梗塞によって失われるため、助かっても寝たきりだったかもしれません。

右網膜中心静脈閉塞症の眼底出血
次に眼底検査について一例をご紹介します。右網膜中心静脈閉塞症切迫状態の眼底写真は60歳代の働く女性です。以前からコレステロールの薬を内服していました。ちなみに、眼底とは球体である眼球中、瞳の奥の一番遠い部分です。ですから、ただ、外側から目を見ても解りません。当院が自宅の近所に開院したのを機に、治療継続を希望され来院されました。直近の職場での健康診断の結果を持参するようお願いし拝見したところ、眼底出血を指摘されているにもかかわらず放置していることに気付きました。早速当院で眼底写真を再検査したところ、網膜中心静脈閉塞症の切迫状態であることが判明しました。心臓から出て行く血管が動脈で、心臓に戻って来る血管が静脈です。小さな臓器である眼球には血管の出入り口が一つしかありません。ですから動脈と静脈はすぐ隣り合わせに平行に走っています。脂質異常症や高血圧などで動脈硬化が進行すると硬くなった動脈が隣の柔らかい静脈を圧迫し、静脈が押し潰され、静脈内の血液が流れにくくなることがあります。さらに流れの悪くなった血液が血管内で固まる(血栓といいます)と、静脈はダムで堰き止められた川のようになり、ダム湖を形成するがごとく怒張してきます。その圧力に静脈壁が耐えられなくなると、血管から血液が漏れ出してくるのです。眼底写真では、すべての静脈が怒張蛇行している様子、いたるところから血液が染み出している様子がはっきりと分ります。また、動脈硬化で硬くなった動脈の枝が並行して走る静脈と交叉する場所で静脈を押し潰している様子も分ります。この方は視力を司る黄斑部に出血が及んでいないためまったく視力は下がっていません。

右網膜中心静脈閉塞症の眼底出血3ヶ月後
健診での血圧は119/73mmHgとまったく正常でしたが、内服治療をしているのにもかかわらず、悪玉のLDLコレステロールは145と下がりきれていませんでした。念のため家庭血圧を測定していただいたところ、起床時血圧は145/80と早朝高血圧(隠れ高血圧、逆白衣性高血圧)であることが判明、コレステロールの薬を増量するとともに、動脈硬化改善作用のある降圧剤で高血圧の治療も始めていただくことにしました。処方薬により血圧、脂質ともコントロールが改善、3ヵ月後には眼底の出血は収まり、網膜中心静脈閉塞症を未然に防ぐことができました。網膜中心静脈閉塞症は、高血圧内科のところでお見せしたような網膜静脈分枝閉塞症のように眼球内の一部ではなく眼球全体に出血、視力回復の難しい病気です。すんでのところで助かりました。


高トリグリセライド血症について

レムナントリポ蛋白やsmall dense LDLが増加したりすることが分り、それらを介した作用であって直接的に血管を障害するものでないとする意見もありました。最近の研究では、やはりトリグリセライドは冠動脈疾患と関連性が強く、トリグリセライド84mg/dl以上で心筋梗塞のリスクが高まることが明らかになっており、やはり高値の場合、是正が必要です。
トリグリセライド値は、コレステロール値と異なり、直前の(短期的な)食事内容により大きく変動します。LDLコレステロールは139mg/dlが上限ですが、増加してもほとんどの方が250以下です。一方、トリグリセライドは149mg/dlが上限ですが、500程度はざらで1000を超える方も時々います。そういった方でも飲酒や糖分の過剰摂取を是正することにより急速に改善します。ですから、コレステロールと異なり300mg/dl程度の異常であっても生活習慣の是正を強くお勧めしています。それでもどうしても改善しない場合のみ、薬物療法を行っています。
そもそも、トリグリセライドはグリセロールに3個の脂肪酸が結合したもので、エネルギー源の貯蔵庫としての役割があります。脳はブドウ糖をエネルギー源としていますが心臓のエネルギー源はトリグリセライドです。また、皮下脂肪を形成し防寒や、外部からの衝撃から内蔵を守る役割も担っています。高トリグリセライド血症は血中の脂肪酸の増加を招きます。脂肪酸は大きく分類すると、

1. 飽和脂肪酸(ココナッツ、動物性脂肪、バター、パーム油、ラードなど)
2. 一価不飽和脂肪酸(オリーブ油、ナッツ類、サラダ油、バターなど)
3. 多価不飽和脂肪酸(n-3系=EPA:ナタネ油、魚油、n-6系=AA:紅花油、ひまわり油、大豆油、コーン油など)

になります。飽和脂肪酸は動脈硬化を促進させ、一価不飽和脂肪酸は抑制します。多価不飽和脂肪酸のうち、n-3系は動脈硬化を抑制しますが、n-6系は促進させます。両者とも体に必要な必須脂肪酸ですが、両者のバランス、EPA/AA比が低下すると動脈硬化をきたし血栓ができやすくなるのが分っています。以上のような仕組みがあるため、高トリグリセライド血症の場合、レムナントリポ蛋白やEPA/AA比の測定も行います。
また、トリグリセライドは1000mg/dlを超えるような極端な高値の場合、急性膵炎が発症しうることが分っています。急性膵炎は基本的に入院が必要な病気の上、重症化すると死亡率が高く危険な病気です。ですから、1000mg/dl以上の場合、緊急避難的に初めからお薬をお勧めしています。

低HDLコレステロール血症について

HDLコレステロールが低ければ低いほど動脈硬化性疾患が発症しやすくなります。しかし、逆に高いほど発症しにくくなります。そのため善玉コレステロールと呼ばれています。内臓脂肪が蓄積するメタボリック症候群ではトリグリセライドが増加し、HDLコレステロールが減少するため心筋梗塞を発症しやすくなります。
最近、LDLコレステロールとHDLコレステロールの比、L/H比=2が動脈硬化発症の分水嶺であることがわかってきています。L/H比2以下では血管壁は薄くなり、逆に2以上では厚くなっていきます。もちろんこれはLDLコレステロールを適切な値まで低下させていることが前提です。
LDLコレステロールを低下させる薬は多数ありますが、残念ながらHDLコレステロールをしっかりと増加させる薬はありません(多少はあります)。HDLコレステロールを増加させるには、適度な運動、動物性脂肪を減らし、野菜、海草、魚類を中心とした食事、肥満の是正、禁煙などが有効です。
定期的に飲酒されている場合、HDL-コレステロールが増加します。しかし、これは動脈硬化を抑制させる働きのない使用済みのHDLコレステロールです。ですから、むしろ動脈硬化を促進する可能性があります。ですから1日25g以上の(エチル)アルコール(日本酒1合、ビール中ビン1本、焼酎半合弱に相当)は控えて下さい。

最後に

今回薬物療法の種類や適応、治療目標値、さまざま特殊ケースに関する治療方針などの説明は割愛しています。実際の外来診療において患者さんにご説明しながら診療を進めていきます。

脂質代謝内科追記:n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA;エイコサペンタエン酸、DHA;ドコサヘキサエン酸)の効用

そもそも脂質とは

コレステロール値の高い患者さんに、高脂血症について説明していると、ときどき「先生、中性脂肪が正常でもコレステロールが多いのは高脂血症ですか?」「トリグリセライドと中性脂肪は同じものですか?」「こんなに痩身体型で皮下脂肪がないのに高脂血症なのですか?」「っこいものが嫌いでほとんど食べないのに高脂血症なのですか?」「オリーブオイル魚油なのに高脂血症に良いのですか?」「DHAEPAのサプリメントは脂肪酸と書いているのに高脂血症の私が摂っても大丈夫なのですか?」等と素朴な疑問をぶつけられることがあります。
これらの疑問は、脂質にまつわる用語が多数あるため混乱されているのだと思います。そこで、まず、その辺を整理してみたいと思います。

1、「脂質」とは、生物内に存在する水に溶けず有機溶媒に溶ける有機化合物の総称
2、「脂質」を分類すると下記の3種類になります。

  • 単純脂質:アルコールと脂肪酸のみがエステル結合してできているもの
  • 複合脂質:分子中にリン酸(リン脂質)、糖(糖脂質)やタンパク質(リポ蛋白)を含む脂質
  • 誘導脂質:単純脂質や複合脂質から、加水分解にて誘導される疎水性化合物

単純脂質のうち、生体内ではアルコールとしてグリセロール(=グリセリン、浣腸に使う物質)を持つものが多く、それらはグリセライド(=グリセリド)と呼ばれます。グリセロールには3つの水酸基があるため、エステル結合した脂肪酸の数により、モノグリセライド(脂肪酸1個)、ダイグリセライド(2個)、トリグリセライド(3個)の3種類が存在します。生体中のグリセライドのほとんどがトリグリセライドです。トリグリセライドは脂肪として生体内に蓄えられ、エネルギー貯蔵や組織保護(クッション、肉布団)を担っています。
複合脂質は細胞膜などの生体膜を構成したり、生体内での情報伝達を担ったりしています。
誘導脂質には、脂肪酸、イコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン等)、ステロイド(コレステロール、胆汁酸、ステロイドホルモン)、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)等があり、身体の構成、エネルギーの貯蔵、ホルモン等の生理活性物質として働いています。
このように、体内の脂質には多種多様なものが存在しますが、高脂血症といえばコレステロールやトリグリセライドが高値の場合です。
では、脂質と脂肪はどう違うのでしょうか。脂質は上記の通りです。一方、「脂肪」という言葉は広義には有機溶媒に溶ける物質、すなわち脂肪=脂質として使われますが、狭義では「脂肪」は「脂(あぶら)」とも呼ばれ、動植物に含まれる栄養素で、糖質、たんぱく質と合わせ三大栄養素を構成するものです。その実態は、上述のごとくグリセライドです。純粋なグリセライドは無色、無味、無臭、中性のため中性脂肪とも呼ばれています。血液中のグリセライドのほとんどが「トリグリセライド」であるため、一般に医学の世界では中性脂肪というとトリグリセライド(トリグリセリド、TG)と同義です。すなわち、「脂肪」(ステーキ肉周囲の脂身、霜降りの松坂牛のさし、肥満者のお腹に付着した皮下「脂肪」)は中性脂肪(トリグリセライド)がその実態です。
さらに、「脂肪」は栄養学上「油脂」とも呼ばれ、常温で液体のものを脂肪油(単に「油」、oil)、固体のものを脂肪(単に「脂」、fat)と呼び分けます。

脂肪酸

脂肪酸とは上述の如く誘導脂質の一種で、グリセロールとエステル結合し中性脂肪を構成します。脂肪酸には、下図(持田製薬ホームページより転載)の如く分類されます。

不飽和度(炭素鎖に二重結合や三重結合等の不飽和結合があるかないか、難しく考えず聞き流して下さい)により不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸に分類されます。飽和脂肪酸は、動物性脂肪、ラード、バター、鶏卵、ヤシ油等に多く含まれ、不飽和脂肪酸に比べ融点(溶け出す温度)が高いため常温では固体のことが多いです。出血時、止血させる血液凝集作用がありますが、過剰になると動脈硬化を促進させることになります。ですから、食事中の脂質は基本的に下記の一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸でまかなうことが推奨されています。
一方、不飽和脂肪酸は、不飽和結合の数によって一価と多価不飽和脂肪酸に分類されます。不飽和脂肪酸は、逆に飽和脂肪酸より融点が低いため常温では液体のものが多いです。一価不飽和脂肪酸は、オリーブ油、ベニバナ油、ナタネ油、サラダ油等に多く含まれます。その代表がオレイン酸でオリーブ油の主成分です。オレイン酸の名前の由来はオリーブ(Olea europaea)です。飽和脂肪酸は体内に取り込まれた後、不飽和脂肪酸のこのオレイン酸に変換されますが、それは一部のため結果として動脈硬化を促進させます。
多価不飽和脂肪酸は、メチル基末端から数えて3番目の炭素の位置に最初の二重結合があるものをn-3系(ω-3系、オメガ3系)、6番目にあるものをn-6系(ω-6系、オメガ6系)として分類します(ここも聞き流して下さい)。
n-6系の代表的脂肪酸がリノール酸ですが、その代謝産物アラキドン酸からはトロンボキサン類やロイコトリエン類の脂質メディエーターが放出されます。これらのn-6系脂質メディエーターは、動脈硬化、喘息、関節炎、血栓症などの病気に関与しています。血管内皮の炎症を惹き起こし、結果、n-6系多価不飽和脂肪酸は動脈硬化を促進させます。一方、n-3系の代表的脂肪酸はα-リノレン酸です。その代謝産物エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は動脈硬化を抑制したり、中枢神経系疾患(認知証、うつ病、統合失調症等)の改善作用が示唆されたりしています。つまり、n-6系とn-3系多価不飽和脂肪酸は互いにアクセルとブレーキの関係です。

n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA;エイコサペンタエン酸、DHA;ドコサヘキサエン酸)の有用性

EPA有用性の発見は、1970年代、デンマーク領グリーンランドでの疫学調査で、本国の白人に比べグリーンランドのイヌイットは、狭心症や心筋梗塞による死亡率が非常に低いと報告(下図、持田製薬ホームページより転載)されたことがきっかけでした。

白人とイヌイットの摂取脂肪酸組成と心血管系疾患リスク(持田製薬)

本国の白人、イヌイット両者とも総カロリーに占める脂肪摂取率が同程度であったにもかかわらず、本国の白人に対しイヌイットは総コレステロールや中性脂肪が低く、逆にHDLコレステロールが高値でした。摂取脂肪の内容を調べると漁師を生業とするイヌイットの主食が魚やアザラシ等の海獣(魚を主食とするためn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富です)であったのに対し、白人は牛肉や豚肉が中心でした。そのため、n-3系とn-6系の脂肪酸摂取比を調べると、イヌイットは白人に比べ10倍近くn-3系の摂取比率が多かったのでした。さらに、デンマーク本国の都市部に移住したイヌイットも食生活が白人化すると、狭心症や心筋梗塞による死亡率が上昇しました。
同様千葉県沿岸部(勝浦市周辺)と内陸部農業地域(柏市周辺)で行われた疫学調査(下図、持田製薬ホームページより転載、平井愛山, 日本内科学会雑誌 1985;74:13-20より改変)においても、漁業地域では虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)や脳血管障害の死亡率が低いことが明らかになりました。

漁業地域と農業地域における虚血性心疾患脳血管障害の訂正死亡率(持田製 薬)

さらに、グリーンランド同様、EPA摂取量が漁業地域で明らかに多いことが判明(下図、持田製薬ホームページより転載、平井愛山, 日本内科学会雑誌 1985;74:13-20より作図)、その動脈硬化予防作用が示唆されました。

漁業地域と農業地域の魚介類およびEPA摂取量の比較(持田製薬)

全国的に見ても、食生活の欧米化等により脂質摂取量が増加していますが、逆に魚摂取量が減り、EPAの摂取量が急激に低下しています。それと反比例するように、脳梗塞や虚血性心疾患の死亡率が増加しています(下図、持田製薬ホームページより転載、厚生統計協会:国民衛生の動向,厚生の指標36:48,1989)

EPA摂取量と動脈硬化性疾患死亡率(持田製薬)
このような疫学データに端を発した最近の研究において、実際EPA製剤を内服すると虚血性心疾患が減少することが明らかになりました(2009年、JELIS試験)。
では、一体このEPAの心血管イベント抑制効果はどのような機序でもたらされるのでしょうか。研究によりEPAには、①コレステロールやトリグリセライドを低下させる、すなわち高脂血症改善作用、②血小板凝集抑制作用〜血液をさらさらにして凝固しにくくする作用、③血管の弾力性を保持する作用〜動脈硬化改善作用等があることが明らかになっています。
一方、DHAはEPAと似た物質ですが、EPAとは異なった特徴を持っています。それは脳や網膜(眼にある光を感じるための膜)にはEPAはほとんどなくDHAしかないことです。摂取したEPAは脳内ではすぐにDHAに変化するため、結局脳内のn-3系脂肪酸はほとんどがDHAです。脳の約60%は脂質です。そして実にその約20%がDHAなのです。DHAは脳内ではリン脂質として存在します。リン脂質は上述の脂質の分類うち複合脂質です。細胞膜などの生体膜を構成したり、生体内での情報伝達を担ったりしています。DHAには神経細胞の新生、分化誘導促進作用があります。そのような特徴があるため、脳、中枢神経系に対するDHAの効用に関するさまざまな報告がなされています。DHAの記憶や学習機能向上作用が報告されています。「魚を食べると頭が良くなる」とか「日本人の学力が高いのは魚食中心の生活をしているからだ」といった話を聞いたことはありませんか。これは余りに単純化した結論のため額面どおり受け取るわけにはいきません。いくらDHAをたくさん摂っても、自然に頭が良くなることはありません。脳を使わなければ脳内の神経ネットワークは発達しないはずです。つまり、いくらDHAをたくさん摂っても勉強しなければ成績は上がりません。しかし、不足するとさまざまな障害をきたします。とくに乳幼児期の脳の発達には必須であることは間違いないようです。妊娠中DHAが不足すると網膜の成長が阻害され視覚障害をきたします。また、発達障害や学習障害のある児童にDHAを投与すると改善したとする報告があります。
また、DHAのアルツハイマー病の予防改善効果を示す研究結果が幾つか報告されていますが、まだ確定していません。日本、フィンランド等で、魚食量の多いヒトの方が少ないヒトより、うつ傾向、自殺が少ないとする研究結果も報告されています。アルツハイマー型認知証やうつ病の一部の方では、脳のとくに海馬(新しい記憶の形成をつかさどる部位)が著しく萎縮することが報告されています。海馬は脳の他の部位に比べ2倍以上DHAを多く含みます。そのため、魚を多く摂取すると萎縮した海馬の容積が増大することが報告されています。また、統合失調症に対する有効性の報告もあります。完全に解明されていない点も多数ありますが、脳神経系に対するDHAの効用はかなり確かなようです。

必須脂肪酸EPAとDHAの上手な摂り方

n-3系、n-6系多価不飽和脂肪酸とも、ヒトは体内で合成することができず、必ず食品から摂取しなければなりません。そのため必須脂肪酸と呼ばれています。ちなみに、生体内で生合成できないため個体の成長や維持のため食物によって摂取しなければならない栄養素で、不足するとさまざまな欠乏症状をきたす微量活性物質を必須栄養素と呼びます。一般に、18種類のビタミンと20種類のミネラル、そして8種類のアミノ酸を合わせ合計46種類といわれていました。しかし、最近、これら多価不飽和脂肪酸も必須栄養素であることが解ってきました。摂取したα-リノレン酸からEPA、DHAに代謝されるのは10%程度な上、多価不飽和脂肪酸は生体内で合成できないため、生体内でのn-3系とn-6系の比率は、食品からの摂取量に依存します。つまり、食物中のn-3系とn-6系多価不飽和脂肪酸のバランスがそのまま生体内のn-3系とn-6系の比率に反映されるのです。
n-6系は、コーン油、マーガリン、大豆油、ひまわり油、紅花油、クルミ、サラダ油等に多く含まれます。n-3系の内、α-リノレン酸はシソ油、エゴマ油、アマニ油等に、EPAやDHAは、魚油、肝油、海藻類、オキアミ油等に多く含まれます。多くの食用油はn-6系脂肪酸を多く含み、n-3系はほとんど含まれません。
食生活の欧米化に伴い上述の図の如く現代人では、EPAに代表されるn-3系脂肪酸の摂取量が著しく減少しています。
実は、ヒト同様、魚類も含め動物はEPAやDHAを体内で合成することはできません。海藻や植物性プランクトン内で合成されたn-3系脂肪酸がオキアミ等の動物性プランクトン、魚類と順次食物連鎖により蓄積しているのです。そのため、魚類には多くのn-3系脂肪酸が含まれています(下図、持田製薬ホームページより転載、五訂増補 日本食品脂溶性成分表(2005年))。

主な魚のEPA含有量(持田製薬)

図の如く、n-3系多価不飽和脂肪酸は、魚と言っても青背の魚、いわゆる青魚、赤身魚、寿司ネタの光り物に多くに含まれます。ひらめ、かれい、きす、たら等の白身魚はそもそも脂質含有量が少ないためn-3系脂肪酸も少ししか含まれません。青魚が回遊魚であるのに対し、これらはみな岩場や砂場に棲み付いている魚、底物です。
青魚も獲れた時期で極端にn-3系脂肪酸含有量が異なります。例えば、かつおは春獲り(初鰹)と脂の乗った秋獲れ(戻鰹)では含有量の差は10倍以上です。魚の部位でもかなり異なり、本マグロの赤身は脂身に比べ、EPAは約50分の1、DHAは約25分の1しか含んでいません。DHAは目玉の裏のゼリー状の部分、眼窩脂肪に最も多く含まれます。
また、調理法によっても脂肪酸の摂取効率はかなり違います。焼魚や煮魚にすると約20%脂肪酸は減ります。天ぷらやフライに至っては約60%減少します。やはり、生食(マリネ、酢の物)、刺身、あるいはホイル焼き等が最も効率よく脂肪酸を摂取できます。
また、不飽和脂肪酸は、不飽和結合を持つため酸化されやすいという弱点があります。脂肪酸が酸化されると、変色したり固化したりし、本来の作用を発揮できません。ですから、新鮮な食材を加熱し過ぎないよう調理するのが大切です。また、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール等の抗酸化物質を含む、緑黄色野菜、果物、お茶、コーヒー、赤ワイン等も食べ合わせるとよいでしょう。ちなみに後述する処方せん医薬品のEPAやDHA製剤は、ビタミンEを配合したり、包装内に窒素ガスを充填し酸素と触れないようにしたりして、酸化されないよう工夫されています。EPAやDHAのサプリメントメーカー各社ホームページで、n-3系脂肪酸を効率よく摂取するレシピが多数紹介されています。参考にされてはどうでしょうか。
厚生労働省は、年齢にもよりますが、EPAやDHA等を合わせたn-3系多価不飽和脂肪酸を1日当たり1〜2g摂取することを推奨しています。サバの水煮缶詰には実に2370mg(可食部100g当たり)もDHAが含まれます。EPAやDHAを効率よく摂取するには、脂の乗った青魚を旬の時期に刺身で頂いたり、兜煮や兜焼で頂いたりするのがベストですが、あまり難しく考えずに隔日(1回で二日分)で青魚を頂くようにすればよいのではないでしょうか。私自身も、昼食は緑黄色野菜サラダ、ゆで卵、サバ水煮または味噌煮缶詰のお弁当を定番で持参しています。

魚介類の摂取と水銀汚染について

魚介類の中に水銀が含まれていることをご存知でしょうか。魚介類過剰摂取による水銀の健康への影響にてついて、厚労省でも「これからママになるあなたへ」と題するパンフレットを作成し注意を促しています。妊婦以外の方では問題はありませんが、妊婦に関しては胎児への影響が懸念されており注意が必要です。妊婦の方はパンフレットをお読み下さい。

EPAとDHAの過剰摂取について

これまで、EPA、DHAの効用についてばかりお話してきました。しかし、上述の水銀汚染の問題のみならず、マイナス面もあります。n-3系脂肪酸は適量摂取すると血液さらさら効果がありますが、逆に1日3g以上過剰摂取すると、血液凝固能が極端に低下し、出血傾向(出血しやすい、出血が止まりにくい)をきたす可能性があります。実際、薬としてEPA製剤を内服されている方は、服用を中断した後でなければ内視鏡検査を受けられません。とくに、血栓症に対するワーファリン等抗凝固剤、アスピリン等血小板凝集抑制剤の投与を受けている方は、一層出血しやすくなるため注意が必要です。服用前に主治医にご相談されることをお勧めします。
EPA、DHAの功罪に関して詳しく知りたい方は、独立行政法人国立健康・栄養研究所「健康食品」素材情報データベースでEPAやDHAを検索してみて下さい。

脂肪酸4分画(EPAやDHA血中濃度)測定と投薬治療について

最近、EPA、DHAのサプリメントの宣伝をよく見かけます。「DHA」でググって見ると、「サントリー」「キューピー」「富士フィルム」「味の素」「大正製薬」「DHC」などなど有名どころの公告が真っ先に出現、挙ってサプリメントを発売しているのが分ります。商品によりEPA、DHAの含有量がかなり異なりますが、EPA、DHA両者合わせて1日摂取量500mg程度のサプリメントで一1ヶ月分が2,000〜8,000円前後(1日1g換算で一月4,000〜16,000円)のようです。
このようなサプリメントが多数販売されているのは、上述のように、①EPA、DHAが健康によいこと、②それらが必須脂肪酸でヒトの体内で合成できないこと、③食生活に欧米化により、現代日本人では不足しがちなこと、④青魚が食べられない方が珍しくないこと、等が主な理由です。
実は、EPAは既に処方せん医薬品として認可されています。閉塞性動脈硬化症や高脂血症の治療薬としてエパデール®という商品名で発売されています。一月の薬品代は7,830円ほどですが、上記疾患に罹患中の方は保険適応のため、780円(1割負担)〜2,350円(3割)となります。さらに、ジェネリック医薬品ではかなり安く一月2,930円(1割負担で290円、3割負担で880円)ほどです。
さらに、EPA+DHA合剤が処方薬として2013年1月認可されました。高脂血症治療薬としてロトリガ®という商品名で薬価収載になっています。一月の薬品代は7,620円ほどですが、上記疾患に罹患中の方は保険適応のため、760円(1割負担)〜2,290円(3割)となります。この薬剤は新薬のためジェネリック医薬品は発売されていません。もちろん両薬剤とも診察料等があるため、医療費はこれだけではすみません。しかし、既に慢性疾患で通院治療中の方は、診察料等二重に請求されることはありませんので追加費用は薬品代だけとなります。
健康増進目的の方はサプリメントを購入し服用するのがよいでしょうし、現に閉塞性動脈硬化症や高脂血症を患っている方は、主治医に服薬治療すべきかご相談下さい。
なお、当院では、高脂血症で通院されている方で、狭心症・心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞、頸動脈超音波検査で動脈硬化症を認めた方には、EPAやDHA投与前に必ず、「脂肪酸4分画」検査(採血)を受けて頂きます。この検査では、n-6系のDHLA(ジホモγ-リノレン酸)、AA(アラキドン酸)、n-3系のEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)を測定し、n-3系脂肪酸の不足程度を評価、その上で投薬治療の要否を判断しています。EPA、DHAは過剰投与で出血傾向という副作用がありますから、むやみ内服すべきではありません。
閉塞性動脈硬化症、高脂血症をお持ちの方は是非当院を受診して下さい。

糖尿病・甲状腺内科

糖尿病・甲状腺内科 糖尿病内科

糖尿病とは慢性的血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなった状態です。糖尿病もまったくといっていいほど自覚症状がありません。
しかし、糖尿病が恐ろしいのは、気付かないうちに合併症を伴ってくるからです。

糖尿病合併症は

  • 眼底出血から失明
  • 腎不全になり人工透析(体から血液を抜き取り洗浄、元に戻すという5時間の作業を週3日ほど行います)
  • 全身の神経が麻痺し働かなくなる
  • 動脈硬化が進行し、脳梗塞、心筋梗塞、足の壊疽(足を切り落とすことになります)が起こる

の4つです。

糖尿病の場合、治療を怠ると10〜15年後、万人に確実に合併症が出現します。最近の統計では予備軍まで含めると日本人の5人に1人が糖尿病といわれています。現在では糖尿病の治療薬は多種多様あり、意欲があれば必ず合併症を防ぐことができます。

当院では糖尿病の有無や治療の良否を判定するHbA1c検査結果が6分でわかる機器を導入、初診時にその場で糖尿病の診断を行っています。

甲状腺内科
工事中

高尿酸血症・痛風内科

高尿酸血症・痛風とは

尿酸塩針状結晶高尿酸血症とは、なんらかの原因により血清尿酸値が7.0mg/dlを超えた状態です。尿酸は細胞の中にある遺伝子(DNA)やエネルギー物質などが新陳代謝される過程で出てくる老廃物です。本来、尿として体外に排泄されるため尿酸と名づけられました。時々尿で調べる検査と勘違いされている方がいますが、血液検査です。しかし、なんらかの理由で血液中の尿酸値が過剰になり7.0mg/dlを超えると溶けきれなくなり、針状に結晶化します。結晶化した尿酸塩は、体の至る所に沈着し、下記のごときさまざまな病気を引き起こします。

  • 関節に沈着し痛風関節炎(いわゆる痛風)を引き起こす
  • 尿から排泄される途中で結晶化し、尿路結石となる
  • 腎臓そのものに沈着し、腎機能低下(「痛風腎」と呼びます)を引き起こす
  • 高尿酸血症では高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を合併することが多く、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める


ここで何よりも強調したいのは、高尿酸血症、痛風は、ただ足が痛くなる病気と軽く考えないで欲しいことです。高尿酸血症の合併症として痛風が余りに有名なため、血清尿酸値が高いのを放置してもただ足が痛くなるだけと勘違いしている方が余りにも多いのです。違います。尿酸が高いのを放置すると痛風腎から慢性腎臓病を発症、透析になったり心筋梗塞や脳梗塞を併発したりする方がたくさんいるのです。そして今このことが世界中で問題になっているのです。高尿酸血症、痛風は全身疾患なので内科の私が拝見しているのです。
高尿酸血症、痛風は、以前はまれな病気で、明治時代に日本を訪れたドイツ人医師、ベルツは、「日本人は痛風にならない。」との記録を残しているほどです。そして、たいていの痛風患者は飽食だったため、「ぜいたく病」などと言われていました。しかし、大東亜戦争後、食生活の欧米化、肉類などの動物性蛋白や飲酒量の増加、運動不足や過食による体型の肥満化に伴い罹患率は増加の一途をたどり、最近の統計では成人男性の4〜5人に1人が高尿酸血症です。また、全痛風患者のうち、女性の占める割合はたったの1.5%程度で、痛風患者100人のうち男性は98人以上と圧倒的に男性に多い病気です。これは、女性ホルモンに尿酸排泄促進作用があるため、一般に女性は男性より尿酸値が低いためです。(下図、帝人ファーマホームページより転載)

国民生活基礎調査による痛風患者数の推移(テイジンHPより)
ところで、血液中の尿酸値が過剰になる仕組みは大きく三つに分かれます。一つは尿酸が体内で多量に産生され、血液中にあふれている場合(尿酸産生過剰型)、二つ目は、尿酸産生量は普通ですが、尿酸の腎臓から排泄が悪く血液中に残りあふれている場合(尿酸排泄低下型)、そして三つ目がその「混合型」です。日本人の場合、その比率は産生過剰型が12%、排泄低下型が60%、混合型が25%と、排泄低下の関与する割合が圧倒的に多いです。各々先天的な体質に加え、下記のような生活習慣、病態で尿酸値は増加します。

血清尿酸値が増加する生活習慣、病態
アルコール過剰摂取
肥満
尿酸の原料となるプリン体が多量に含まれている食事の過剰摂取(下表を参照)
運動負荷(無酸素運動など無理な運動)
脱水症〜水分摂取不足
腎機能障害の持病
利尿剤などの薬物

100g当たりのプリン体含有量(高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版)
極めて多い(300mg〜) 鶏レバー、マイワシ干物、イサキ白子、あんこう肝酒蒸し
多い(200〜300mg)

豚レバー、牛レバー、カツオ、マイワシ、大正エビ、
マアジ干物、秋刀魚干物

少ない(50〜100mg)

うなぎ、ワカサギ、豚ロース、豚バラ、牛肩ロース、牛タン
マトン、ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ツミレ、
ホウレンソウ、カリフラワー、

極めて少ない(〜50mg)

コンビーフ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、焼ちくわ、
さつま揚げ、数の子、すじこ、ウィンナーソーセージ、
豆腐、牛乳、チーズ、バター、鶏卵、とうもろこし、
ジャガイモ、サツマイモ、米飯、パン、うどん、そば、果物、
キャベツ、トマト、にんじん、ダイコン、白菜、海藻類


痛風(痛風関節炎)とは

高尿酸血症の合併症で最も有名なのが痛風関節炎です。痛風は、全身の関節包に沈着した尿酸塩結晶が、いろいろなきっかけで剥がれ落ち、それを異物として白血球が攻撃、炎症(痛み、圧痛=押すと痛いこと、発熱、発赤、腫脹)が引き起こされることにより発症します。(下図、グラクソ・スミスクラインホームページより転載)

組織中尿酸濃度の変化による痛風発作〜痛風発作が起こるまで(GS KのHPから)

右足第1中足趾節関節痛風発作痛風発作の痛みは激烈で、風が当たっただけでも痛く感じることから痛風と呼ばれるようになりました。写真は典型的な足の親指付け根の痛風発作です。尿酸塩は温度が低く(体温の高い体幹中心から遠い場所、手足の先端、耳たぶなど)、血流の乏しい場所に沈着しやすいです。そのため、痛風発作の起こりやすい場所としては、足の親指の付け根、足首、足の甲、膝、手首、肘などです。物理的刺激により関節包から尿酸塩が剥がれ落ちることが多いため、全身の関節中、最も負荷のかかる足の親指の付け根が最も痛風発作が起きやすい場所で、初回の痛風発作の約90%を占めます。 
関節が痛んだとき痛風発作かどうかの判断は、1、男性である、2、以前も同様のエピソードを経験したことがある、3、痛む関節は1ヶ所のみ、4、関節は赤く腫れ熱を持っている、5、痛み始めて1〜数日で痛みがピークになる、6、足の親指の付け根が発作部位である、7、痛み始める前日に痛風発作部位の関節に負荷のかかるような行為、動作、運動の既往がある、8、以前尿酸値が高いと指摘されたことがある、以上に該当する場合、まず、痛風と思って間違いありません。
 尿酸値が7.0mg/dlを超えたからといってすぐに痛風になるわけではありません。尿酸塩結晶が関節に沈着するには時間がかかります。当然尿酸値が7.0より高ければ高いほど、また、高尿酸血症を放置している期間が長ければ長いほど痛風発作の発症リスクは高まります。(下図、帝人ファーマホームページより転載)」とする。

血清尿酸値と痛風発作再発頻度(日本)(テイジンHPより)
逆に痛風発作が発症した方は、高尿酸血症を数年来放置し、すでに関節面に大量の尿酸塩結晶が沈着している方です。よって、痛風発作が発症しあわてて尿酸降下薬を服用しても、関節に沈着した尿酸塩結晶が溶けて痛風発作が再発しなくなるには数年程度の時間がかかります。ですから、痛風発作は通常数日から1〜2週間で治まりますが、尿酸降下薬は、尿酸値6.0mg/dl以下を目標に長期に継続しなければいけません。高尿酸血症を放置すれば早晩痛風発作が発症するわけですから、生活習慣の改善で高尿酸血症を是正できない方は、痛風発作予防目的に、尿酸降下薬を服用する必要があります。

尿路結石とは

腎臓は血液の浄化装置で、血液中の老廃物を濾し取り、それを血液から搾り出した体内の余分な水に溶かし、尿として体外に排泄しています。尿酸も老廃物の一種ですから、腎臓で尿の中に溶かされ排泄されています。血液中の尿酸が過剰になると結晶化するごとく、尿中の尿酸が過剰になるとやはり結晶化し、尿路結石となります。

超音波右腎臓結石画像氏名削除改訂版2
画像は、当院の超音波検査で捉えた高尿酸血症の方に合併した腎臓結石です。ソラマメのような形をした右腎臓の中に直線で指摘した白い結節が結石です。高尿酸血症があっても、尿酸排泄低下型の場合、尿中の尿酸はむしろ低下しますから、高尿酸血症があると必ず尿路結石を合併するわけではありません。

尿路結石は以下のような条件のときできやすくなります。

  • 尿量が低下する(尿量が少ないと尿が濃縮され、尿中の尿酸濃度が上昇し、析出しやすくなります)
  • 尿中尿酸値が増加する(高尿酸血症の治療薬である尿酸排泄促進薬を服用すると、尿中に多量の尿酸が排泄されることになり、むしろ尿路結石発生の危険が増します。ですから、尿酸排泄促進薬を服用する場合、できるだけ多くの水分、具体的には1日2000〜2500cc以上を飲み、尿をアルカリ性にする薬を一緒に服用する必要があります)
  • 尿のpHが酸性になる(尿のpHが低下すると、尿酸溶解度が低下し、尿酸塩結晶が析出しやすくなります。ですから尿酸結石予防目的に尿アルカリ化薬を服用します。また、食事も下記のごとき酸性食品を避け、積極的にアルカリ性食品を摂取する必要があります)


尿を酸性にする食品とアルカリ性にする食品
酸性食品 酸性食品
卵、チーズ ひじき、わかめ、昆布
牛肉、豚肉、鶏肉、 干し椎茸、
パン、そば、 大豆、豆腐、ごぼう、ニンジン、なす
魚介類、アオヤギ、ホタテ、 キャベツ、大根、かぶ、サツマイモ、
えび、 日本茶、コーヒー、牛乳、
味噌、清酒、 イチゴ、りんご、柿、
白米、アスパラガス、 バナナ、メロン、グレープフルーツ、

痛風腎とは〜ここだけは必ず読んで下さい!

高尿酸血症が持続すると腎臓そのものにも尿酸塩結晶が沈着、腎機能が低下、末期腎不全となり、透析が必要になることさえあります。腎機能を調べる場合、以前は血液中の老廃物の一種である血清クレアチニン(Cr)値を測定し判断していました。すなわちCr値が高ければ血液中に老廃物が溜まっている、換言すれば腎機能が低下していることになります。Cr値が低ければその逆です。しかし、血清Cr値測定だけでは早期の腎機能異常を発見することはできません。その辺のいきさつは、2011年9月14日放送のNHKのTV番組「ためしてガッテン〜腎臓が突然だめになる 急増!沈間の新現代病」で取り上げられており、2011年10月29日の「院長コラム〜胃痛い放題」でも一度取り上げました。その内容を転載します。

「以前から、腎臓機能を調べる検査として、血液中のクレアチニン値の測定が用いられていました。クレアチニンは筋肉由来の老廃物です。これが血液中に多ければ腎臓の老廃物ろ過機能が低下していることになり、逆に少なければろ過機能が維持されていることになります。しかし、筋肉量は男女や年齢、個人差によるバラツキが大きいため、基準値を決める場合、それらを考慮してどうしても甘めにせざるを得ませんでした。そのため、かなり腎臓機能が低下しても異常値になりません。腎臓のろ過機能がおおよそ30〜40%程度にまで落ち込んでやっと血清クレアチニン値が異常になるため、腎機能障害を発見した時には、すでに手遅れとなっていることがよくありました。
つまり、患者さんは医者から「腎機能が低下しています。正常な方の3分の1程度です。」といきなり聞かされ、つい先日まで異常を指摘されたことのない腎臓が突然ダメになったと思うわけです。ちなみにろ過機能20%以下が人工透析開始の目安です。
そこで、何とか腎機能低下を早期発見できないものかと、性別や年齢で補正した腎臓のろ過機能(eGFRと呼びます)を推算するため早見表が作られたわけです。この早見表に当てはめてみると、クレアチニン値が正常でも腎臓のろ過機能がかなり低下している方がたくさんいるのが分ります。
当院では、この早見表は使用していません。というのも、いちいち手作業でクレアチニン測定値をこの早見表に当てはめなくとも、自動的にeGFRを算出する式をコンピュータでプログラム化し、クレアチニン値を測定すると自動的にeGFRが算出されるシステムを構築しています。ですから、私は以前から、腎機能はこのeGFRでしか説明していません。 三鷹市民健康診査でも、クレアチニン値は検査項目に採用されています。しかし、eGFRはありません。当院では、以前より自主的に算出したeGFRを市民健康診査の欄外に記載し、腎機能低下を早期発見し、人工透析を回避させるよう努めてきました。
eGFRを算出し腎機能をチェックしてみると腎機能が軽度低下した方が意外なくらい多数いることがわかります。こういった腎機能が軽度低下しただけの方でも積極的に注意を促すようにしています。というのは一度低下した腎機能を回復させる決定的な治療法がないからです。糖尿病や高血圧、脂質異常症など多くの生活習慣病は健常人と変わらないくらいデータ改善させる薬がすでに開発されています。しかし、eGFRを改善させる薬はありません。つまり、腎機能は低下してからでは遅く、予防のみが唯一の対策なのです。ですから、他の生活習慣病以上に早期に発見し、進展阻止に取り組む必要がある病気なのです。「テレビでやっていたeGFRって、以前先生が説明してくれた数字のことではないですか。先生と同じ説明をしていましたよ。」との言葉を頂き、またまた少々悦に入っています。これからもしっかり精進し、信頼して来院して下さる方々のお役に立ちたいと思います。」

このようにeGFRを導入してから、今まで腎機能が問題ないといわれていた方の中に、明らかに腎機能が低下(慢性腎臓病CKDと呼びます)している方が約10%、10人に1人もいることが明らかになりました。腎機能低下を招く原因として、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎炎などがありますが、これらがなくとも単に高尿酸血症が存在するだけで腎機能の低下された方が多数見つかっています。これらの方々は高尿酸血症が軽度で、痛風発作を引き起こすほどでなかったということで経過観察となり、結果として高尿酸血症が放置されてきた方がほとんどです。痛風発作や尿路結石はその痛みが激烈なため、積極的に治療を受ける患者さんが大多数です。一方、痛風腎は末期になり透析を受ける直前までまったく自覚症状がなく、放置されがちです。しかし、痛風や尿路結石は命に別状がありませんが、腎不全は命にかかわる病気です。しかも、いったん低下した腎機能を回復させる薬はありません。尿酸降下薬を服用し尿酸値を正常化させると腎機能が保持されることが明らかになっています。ですから、CKDをきたしている高尿酸血症の方は必ず治療を受けてほしいのです。血清尿酸値が高いと指摘されたことのある方は、必ずご自身のeGFRを確認して下さい。

高尿酸血症とメタボリックシンドローム

血清尿酸値の上昇にともないメタボリックシンドロームを合併している方の頻度が増加することが解っています。(下図、グラクソ・スミスクラインホームページより転載)

高尿酸血症は他の生活習慣病を高頻度に合併(GSKのHPより)

メタボリックシンドロームとは内臓脂肪蓄積により、脂質異常症、高血圧、糖尿病を高率に併発している病態です。内臓脂肪の蓄積に伴い血清尿酸値は上昇するため、高尿酸血症の方はメタボになっていることが多いのです。高尿酸血症の方は、脂質異常症、高血圧、糖尿病などを併発していないか必ず検査を受けていただきます。

高尿酸血症・痛風の治療

高尿酸血症の治療は、痛風発作、尿路結石、痛風腎などの有無により異なります。高尿酸血症の治療法を間違うと逆に痛風発作や尿路結石を誘発してしまうことがあるので注意する必要があります。

まず、痛風発作治療のポイントを列記します。(下図、帝人ファーマホームページより転載)

痛風発作の薬物治療(テイジンHPより)
  • 一般的な注意として、痛風発作中は発作部位を心臓より高い位置で安静に保ち、患部を冷やします。ですから発作中歩き回ったり、発作部位をマッサージしたりするのは禁物です。飲酒も控えて下さい。
  • 痛風発作前兆期にはコルヒチンを内服し、発作を屯坐させます。本格的な痛風発作の前兆として発作部位に違和感、チクチクした軽微な痛みを自覚する方が多数います。このタイミングで、白血球の活動を阻害するコルヒチンを内服すると痛風発作を屯坐させることができます。痛風発作を繰り返す方には、コルヒチンを常備していただきます。
  • 痛風発作が発症してしまった場合、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を短期間通常量より多く服用し炎症を沈静化(NSAIDパルス療法)させます。しかし、NSAIDは副作用として胃潰瘍を誘発させたり、腎機能を悪化させたりします。特に痛風発作を発症するような方は、上述したごとくすでに痛風腎を併発、腎機能が低下していることもまれではないため注意が必要です。それらの副作用でNSAIDが使用できない場合、副腎皮質ステロイドを投与することもあります。なお、NSAIDはワーファリンによる抗凝固療法中の方では相互作用により使用できないので同様の対応が必要です。
  • 上述したように、痛風の根本原因は高尿酸血症ですから、痛風を発症した方は必ず高尿酸血症を是正しなければなりません。一般に血清尿酸値は、痛風発作中はそれ以前より低くなり、基準値内の方もいます。そのため、痛風発作が治まった後、高尿酸血症の是正に取り組まない方がいます。そういった方は必ず痛風が再発します。
  • 上述したように、痛風発作は関節包に沈着した尿酸塩結晶が、剥がれ落ちることにより発症するので急激な運動、尿酸値の急激な変動で誘発されます。ですから、痛風発作中に尿酸降下薬の投与を開始すると逆に痛風発作を増悪させることもあります。そのため、痛風発作が治まった後2週間してから高尿酸血症の治療を始めます。また、すでに尿酸降下薬を内服している場合、尿酸値が変動しないようにそのまま服用を継続します。

次に、高尿酸血症治療のポイントです。(下図、帝人ファーマホームページより転載)
高尿酸血症の治療指針(テイジンHPより)
  • 血液中の尿酸のうち食事由来のものは20%程度しかなく、ほとんどが自身の体に由来するものであるため、食事制限だけで尿酸値を正常化させるのは難しいです。しかし、一定の効果はあるため、上述のようなプリン体を多く含む食品は避けるようにします。
  • 肥満、特に内臓脂肪と血清尿酸値は比例関係にあるため、肥満があれば標準体重に近づけるようにします。
  • 有酸素運動は体重減少効果、特に内臓脂肪燃焼効果があり、積極的に行いましょう。しかし、無酸素運動は尿酸値を上昇させる上、関節に負荷がかかり痛風発作を引き起こしかねません。ですから運動は無理せず適度かつ持続的に行いましょう。
  • アルコール摂取は血清尿酸値を上昇させます。特に、プリン体を多く含むビールにおいて顕著です。禁酒が望ましいですが、飲酒にはさまざまなプラス面もあり、1日あたり日本酒1合、ビール500cc、ウィスキー60ccを限度とします。
  • 痛風発作中の尿酸降下薬の使用方法は上述の通りです。
  • 上述したように血清尿酸値が高いほど痛風発作などの合併症のリスクが高まります。ですから、血清尿酸値8mg/dl以上の場合、尿酸降下薬の投与を考慮します。9mg/dl以上の場合はすぐに尿酸降下薬の内服を始めます。尿酸塩結晶を沈着部位より溶かし出すため、血清溶解度の7mg/dlよりある程度低い6mg/dl以下を目標にします。尿酸降下薬は内服を中断するとその効果も消失するため、尿酸値が目標値まで低下した後も継続的に内服する必要があります。しかし、上述のような生活習慣の是正で内服がなくとも6mg/dl以下を維持できるようになった場合、服薬を中止することもできます。
  • 上述の如く急激な尿酸値低下は痛風発作を誘発するリスクがあるため、尿酸降下薬は少量から始め、3〜6ヶ月かけて目標値の6.0mg/ml以下にします。(下図、グラクソ・スミスクラインホームページより転載)
組織中尿酸濃度の変化による痛風発作〜痛風発作がおさまったら(GS KのHPより)
  • 尿酸降下薬には尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬があります。尿酸産生過剰型の高尿酸血症の方には尿酸生成抑制薬(①一般名:アロプリノール、商品名:ザイロリック、②一般名:フェブキソスタット、商品名:フェブリク、③一般名:トピロキソスタット、商品名:トピロリック、ウリアデック)を、尿酸排泄低下型高尿酸血症の方には尿酸排泄促進薬(①一般名:ブコローム、商品名:パラミヂン、②一般名:プロベネシド、商品名:べネシッド、③一般名:ベンズブロマロン、商品名:ユリノーム)を各々の病態に合わせ服用していただきます。尿酸排泄促進薬は尿中尿酸値濃度を増加させ、尿酸結石を誘発することがあるため、尿アルカリ化薬(商品名:ウラリット)を併用します。

次に、尿路結石合併時の治療のポイントです。
  • 上述のようなアルカリ性食品は尿pHをアルカリ性にします。よって、尿酸結石予防の観点からアルカリ性食品を積極的に摂取するようにします。尿pHは6.0〜7.0を目標とします。
  • 尿中尿酸値濃度が高ければ高いほど結石はできやすくなります。尿中尿酸値を低下させるため少なくとも1日2000ccの尿量を確保することが望まれます。そのためには、1日2000〜2500ccの水分を摂取する必要があります。
  • 上述の如く尿酸排泄促進薬は尿酸結石を誘発するリスクがあるため、尿路結石合併者には尿酸生成抑制薬を使用します。
  • 尿酸生成抑制薬と尿アルカリ化薬の併用により、既存の尿酸結石の溶解も期待できます。

次に、痛風腎合併時の治療のポイントです。
  • 腎機能が低下してくると、尿酸排泄促進薬の効果が減弱しますので、CKD合併者には尿酸生成抑制薬の使用が基本となりますが、少量の尿酸排泄促進薬を併用することもあります。
  • 尿酸生成抑制薬はCKD患者の腎機能保持に有効であるため、継続的に内服する必要があります。

次に、メタボリックシンドローム合併時の治療のポイントです。
  • メタボ合併者は、運動療法などの生活習慣の是正が一層有効ですから、積極的に生活習慣の是正に取り組む必要があります。
  • メタボ合併者は心筋梗塞などの心血管イベントのハイリスク者ですから、血清尿酸値が8mg/dl以上の場合薬物療法を考慮します。
  • 合併する高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬には、血清尿酸値を上昇させてり低下させたりする副次的な作用を持つものがあるため、それらの特性を理解し、治療薬を選択します。
以上です。

最後に

尿酸排泄促進薬であるユリノームの肝障害に代表されるように、副作用のまったくないお薬はありません。ほとんどの高尿酸血症は、生活習慣の厳格な是正で治癒可能なものです。たとえ内服治療を開始したとしても、生活習慣の是正は必ず必要で、できうることなら薬物療法に頼らなくて済むように頑張ってほしいものです。

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三鷹市の災害時医療のお知らせ
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〜震度6弱以上の地震が発生した場合の取組み〜
日本尊厳死協会会報「リビングウイル」平成26年10月号
日本尊厳死協会会報「リビング・ウイル」の2014年10月号の表紙に当院が掲載されました。
TRY−F〜チャリティボクシングイベント〜 2013年12月23日(月・祝)新宿フェイス
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