はじめに
2024年12月より長く通院している掛り付け患者さんの訪問診療を開始しました。
開院当初、通院患者さんも少なく暇だったころ、近所の方が通院できなくなった場合、ひっそりと?往診していました。しかし、その後、徐々に患者数が増加、診療開始から夕方の終診時刻迄数珠繋ぎとなり、昼食時間を確保するのも儘ならず、まったく往診できない状況に。
長年、私を頼りにし通院して下さった患者さんが高齢となり、足腰が弱って通院できず、往診が必要になると、最近は、訪問診療を専門とする医療機関に御願いして、訪問診療に切り替えるようになってしまいました。20年来の患者さんは家族みたいなもの。患者さんだって、たとえ寝たきりになっても、自身のすべてを把握しいている当院の診療を引き続き希望されていたはず。私だって引き続き訪問診療できれば安心です。
さりとて、外来受診を希望し来院される患者さんをお断りすることもできず、内心忸怩たる思いでいました。これで、掛かりつけ医と言えるのか、自身でも疑問を感じていました。
しかし、数年前から志を同じくする医師の仲間が勤務、様々な業務を分担、私も昼休みを何とか確保、休めるようになりました。そのため、漸く訪問診療を本格的に開始すべく準備を始めました。
昨今、昔のように聴診器1本、紙のカルテ用紙1枚とペン1本のみ持参して往診というわけにいかなくなっています。カルテはすべてパソコンを使用した電子カルテですから。現在Wi-Fi設備を含め、そういったハード面を整備、訪問診療を始める準備をしています。
当院の診療の基本は、生活習慣病を中心とした外来診療です。訪問診療が専門ではありません。ですので、おもに通院患者さんを対象とした訪問診療の予定です。まったく通院歴のない方でも、近隣の方は出来るだけ対応しますのでご相談下さい。一見の患者さんなら当院が訪問しようと他の医療機関が訪問しようと同じことですから、むしろ訪問診療を得意とする医療機関の方が良いと思います。
ただ、現在も私の外来は患者さんが多く空き時間がありませんので、私の休みの日や、私以外の医師と協力し合いながらの訪問診療になります。もちろんカルテは共通で、日々相談し合っているので安心して下さい。(2024/12/18記)
「訪問診療」と「往診」
前述の文章でも「往診」と「訪問診療」という言葉が混在しています。当院がこの度始めたのは「訪問診療」であって「往診」ではありません。単なる言葉遊びではなく、各々厚労省により明確に定義付けされ、保険診療上の治療費計算方法も異なっています。
そこで、当院で実施する訪問診療と往診の違いについてご説明します。
厚労省によると「往診」は「患者又は家族等患者の看護等に当たる者が、保険医療機関に対し電話等で直接往診を求め、当該保険医療機関の医師が往診の必要性を認めた場合に、可及的速やかに患家に赴き診療を行うこと。」となっています。一方「訪問診療」は「在宅での療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者に対して、保険医療機関が定期的に訪問して診療を行うこと。」となっています。難しい表現ですので、解りやすい説明すると、下表の如くになります。
以上の如く、訪問診療は、足腰の病気やケガ、脳卒中、心臓病等で歩行困難になったり、認知症等のため通院できなくなったりした場合に、こちらから訪問して継続的に診療を行うことです。
当院で対応可能な「訪問診療」対象患者さんについて
往診と訪問診療には上記の如き違いがあり、当院で実施するのは訪問診療!ですから、当院では、基本的に当院の通院患者さんを対象として実施しています。
ただ、突然の病気やケガのため定期的な通院加療が必要になったにも拘わらず、通院困難な病状の方が、それまで元気でどこにも通院されていない場合もありえます。さらにそういった方が、当院のすぐそばにお住いだったり、転居されてきたりすることも。当院掛かり付けでない患者さんも、訪問診療が必要となった場合、ご連絡下さい。出来るだけ対応します。従来当院に通院されていた方の場合、その方の持病は当院で対応可能な疾患のはずです。しかし、他院からの転院やご紹介を受けた場合、当院で対応できない疾患、病状の場合もあり得ます。ですので、ご連絡頂いた後、当院で対応可能か検討の上、ご返事させて頂きます。
さらに、当院で対応可能な疾患、病状であったとしても、当院のマンパワーの問題もあります。訪問診療は、診療所での外来診療と異なり、こちらから患者さん宅に訪問する際の移動時間も必要なため、当院で訪問できる患者数がどうしても限られます。
因みに厚労省では、「絶対的な理由(島嶼部、他に医療機関がない集落等)がない限り保険医療機関の所在地と患家の所在地との距離は最大16km」と定めています。もちろんこの16kmは医療機関の少ない過疎地域を想定した距離で、当院から16km圏内は、東は千代田区、西は立川市、北は埼玉県志木市、南は横浜市都筑区に及び、当院がそこまで訪問するのは非現実的。当院では、都内、三鷹市内に多数の医療機関が存在することを考慮、訪問宅を当院からおおよそ2kmの範囲としています。ちなみ、その範囲は下図の如くになります。
図「クリニックから2km圏内」
ただ、長く通院されてきた患者さんに関しては、2km以上であってもできる限り訪問するつもりです。
訪問診療の依頼がありましたら、以上のような点を考慮の上、可否をご回答させて頂きます。
「訪問診療」訪問日、担当医、料金等について
訪問日
訪問診療は、月曜日と火曜日の午後、水曜日午前、木曜日と金曜日午後がおもな訪問日になります。訪問時、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネージャー、ヘルパー等と訪問時刻を調整、同時に訪問しサービス担当者会議を開催することもあります。そのため、患者さん都合で訪問日時を自由に決めることはできません。また、複数の患者さん宅を順番に訪問するため、予定した訪問時刻が前後することも多いです。その点、ご了承下さい。
患者さんによってはその曜日にデイサービス等通所介護、ショートステイ等居宅介護をご利用の方もいらっしゃることと思います。その折は、介護施設に曜日の変更をお願いして下さい。
祭日はお休みとし訪問しません。訪問日が祭日になった場合、訪問日を変更します。
基本的に前月訪問時に翌月の訪問日時を文書でお知らせします。訪問診療先の患家は、当然ですが、高齢者の一人暮らしや老々介護されているご夫妻の家庭が多く、お知らせした訪問日時を失念されることがときどきあります。ですので、訪問前日お電話で再度お知らせします。
病状の変化等ご不安、ご不明な点があり、急ぎ連絡を取りたい場合は、まずは依頼した訪問看護ステーションにご連絡下さい。ほとんどの場合電話対応で済むことが多いです。医師の判断、診察が必要な場合、当院は在宅療養支援診療所となっていますので、24時間365日対応致します。クリニック代表電話(0422-70-1035)にお電話下さい。「診療時間外の緊急時対応について」に記載しているようにこちらから折り返しお電話致します。
訪問回数
基本的に隔週で月2回訪問します。
第5週がある場合、病状により訪問したり、翌週の第1週目に変更したりします。
病状が大変安定していると判断した場合、月1回に減らすこともありえます。
訪問担当医
訪問は、総合診療科の院長、坂本、森田医師が担当しますが、基本的に各々の医師2週間毎に交代で訪問します。夜間緊急往診が必要となった場合、院長が対応します。
診療内容
診察以外に採血等も必要に応じて実施します。注射や訪問看護の協力など状況が許せば点滴も実施します。麻薬処方箋の発行、酸素吸入等も行います。輸血が必要な場合、連携医療機関(野村病院等)に依頼します。
診療内容の記録は、紙カルテに記載していますが、現在、遠隔で当院の電子カルテを操作できる端末パソコンを用意しています。
人生会議(ACP:Advance Care Planning)について
ACPとは「将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのことです。」(日本医師会ホームページより転載)人生の最終段階における医療の在り方を事前に相談しておくことです。
生前の意思表示としてとして5ステップを下記します。
- ステップ1、「大切にしていることは何かを考えてみましょう」
- ステップ2、「信頼できる人は誰かを考えてみましょう」
- ステップ3、「かかりつけ医に質問してみましょう」
- ステップ4、「家族や友人と話し合いましょう」
- ステップ5、「医療・介護関係者(医師、看護師、ケアマネージャー)に伝えましょう」
診療費用
初診時や毎月月初には「健康保険証」「限度額適用認定証」「介護保険証及び介護負担割合証」を確認します。訪問診療に掛かる費用は原則健康保険が適用されます。
在宅療養全体にかかる費用は、医療費と介護保険サービス費です(下図、「杉並区在宅療養ブック」から改変転載)。
表「20250330在宅療養に掛かる費用」
当院は、医師や看護師が24時間体制で対応する在宅療養支援診療所となっており、健康保険1割負担の方を例にとって、おおよその1ヵ月間の費用をご説明すると、2回の診察料(=在宅患者訪問診療料)に加え、24時間対応に掛かる費用として在宅時医学総合管理料が発生し、合計約5,600円が基本料金になります。おおよそと申し上げたのは、一軒家に一人の患者さんなのか、ご夫婦一緒に訪問するのか、同じマンションに複数人の患者さんがいるのか、病気の種類(難病だと高額に)、自宅なのか老人ホーム等の施設なのか、等々の条件により金額が上下するからです。
また、人工呼吸器を使用していたり、麻薬を投与していたりすると追加料金が発生します。
これ以外に、別途電話で医師に相談したり、臨時で訪問、診察したり、血液検査、点滴等を実施した場合、介護保険主治医意見書等の書類を作成した場合にも、追加費用が発生します。お薬を処方した場合の処方箋料は無料です。ただし、処方箋を薬局でお薬に交換する場合、薬局で支払いが発生します。 医療費が高額になる場合、限度額適用認定証を事前にご提示頂くと、それ以上は請求しません。
また、介護保険を申請、認定を受けている場合、ケアマネージャーへの定期的な診療情報提供として月約600円の居宅療養管理指導料が発生します。
以上を表にまとめると下表の如くになります。
訪問診療の場合、上記の如く様々な条件で診療費が変動するため、1ヶ月分の診療費を月末で集計、翌月初めにお支払い頂きます。
交通費
厚労省の指示により訪問に「要した交通費は、患家の負担とする」ことになっています。
近隣で、徒歩や自転車等で訪問する場合は頂きません。車で訪問する場合、患家の駐車場を利用できるなら、距離や当院からの訪問人数に関わらず一律訪問1回当たり550円としています。駐車場のご用意がなく、近隣のコインパーキングを利用した場合その実費も頂いております。
ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)を用いた診療情報の活用
当院では、当院のみならず歯科医師、訪問看護ステーション、薬局、理学療法士、栄養士、ケアマネージャー、ホームヘルパー、医療ソーシャルワーカー等とICTを用いて診療情報を共有・活用し、計画的医学管理を行います。具体的には多職種連携ツール、メディカルケアステーションを利用します。
在宅で療養したいと思ったら
当院掛かり付けの患者さんはまず当院に相談下さい。すでに介護保険の要介護認定を受け、訪問看護・訪問介護等を受けている方は、担当のケアマネージャーに相談してみましょう。介護保険を受けていない方は、三鷹市内7か所に設置されてある地域包括支援センターが相談窓口になります。
三鷹市地域包括支援センター一覧
入院されており、退院後在宅診療を希望されている場合は、病院の医療相談室(医療連携室)にご要望を伝えてみて下さい。
その他、不明な点があれば、お気軽にお電話でお問い合わせ下さい。