生活習慣病について

第10回、2009年3月、「生活習慣病−その本質は生き方そのもの−」

連載も今回で最終回となりました。これまで、運動不足、食べ過ぎ、飲み過ぎ、休養不足、喫煙等の悪しき生活習慣から高血圧、糖尿病、高脂血症が発病、動脈硬化が進行し、終にはドミノ倒しのごとく心筋梗塞、脳梗塞に至る道程を説明してきました。では、悪いと判っていながらなぜ悪しき生活習慣をやめられないのでしょうか。現代における悪しき生活パターンは、朝早くから通勤電車に揺られ出勤、お昼は店屋物ですませ、深夜まで残業、たまに早く帰れる日は同僚とついつい深酒、午前様で睡眠もそこそこにまた出勤。せっかくの日曜日も一日中ゴロゴロと過ごすか接待ゴルフ。煙草も職場が禁煙となりなんとか本数は減るものの喫煙室通いは止められない、といったものではないでしょうか。

止められない理由は簡単、止めたくないからです。やめたられた方は本心から止めたかったから止められたのです。なかなか煙草を止められなかった方が幼い子供や孫から臭いといわれ止められたといった話を時々耳にします。つまり、本気で悪しき生活習慣をやめたい理由が見つかったら止められます。

人生の目的が何であれ、健全な肉体があれば可能性は大きく広がります。会員の方々の人生設計は、健康であり続けていることが前提になっているはず。今一度自らの人生を見つめなおして下さい。誤解を恐れず申し上げれば、見つめなおしても止める理由が見つからなければ止めないで下さい。太く短くもまた立派な人生。医者が偉そうに他人の人生の口を挿むべきではありません。

第9回、2009年2月、「生活習慣病−慢性閉塞性肺疾患について−」

今までご説明してきた生活習慣病はみな肥満に関連したものでした。最近、タバコに関連した肺の生活習慣病として注目されているのが、慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)です。COPDは空気の通り道である気管支や空気中の酸素と血液の中の二酸化炭素を交換する場所である肺(胞)が破壊され、呼吸ができなくなる病気で、慢性気管支炎、肺気腫とも呼ばれています。風邪でもないのに年中咳、痰がでる、風邪が治りにくい、階段を昇ると息切れがする、息をするときゼイゼイ・ヒューヒューと音がする、等といった症状がでます。ただ、こういった症状の出る方はすでにかなり進行している方だと思って下さい。肺機能検査(肺活量などを測定する検査)を行うと自身で気付かないくらい早期のCOPDを発見できます。大気汚染、業務上の埃等が原因となることもありますが、COPDの原因の95%以上がタバコです。タバコ吸いの方は積極的に肺機能検査を受けて下さい。

COPDの症状を和らげる薬が最近開発されています。しかし、一度破壊された気管支や肺を完全に元通りにする薬はありません。さらにある程度まで進行すると禁煙しても坂道を転げ落ちるように進行が止まりません。ほんの少し息止めをしてみて下さい。人にとって息ができないことほどつらいことはありません。これほどの苦しみがあってもまだ吸い続けますか。息苦しくなってからでは遅すぎます。予防しかありません。禁煙を考えてください。タバコを吸わなければCOPDの95%は未然に防げるのです。(続く)

第8回、2009年1月、「生活習慣病−脳卒中について−」

前回のテーマである心筋梗塞同様、動脈硬化によって引き起こされる病気の一つに脳卒中があります。動脈硬化で血管内腔が狭小化、血流量が不足、脳細胞が壊死した状態が脳梗塞で、一方、血管が自然に裂けて脳内に出血した状態が脳出血です。ご存じのように脳は全身のリモコンスイッチです。ラジコンカーもコントールスイッチが故障するとうんともすんとも動きません。それと同じように脳細胞が破壊されると、破壊された細胞が担当している器官が働かなくなり、手足が麻痺したりします。麻痺が出た場合、発病前の状態に回復するようにリハビリ(テーション)とう訓練を行いますが、基本的に脳細胞は再生しないため、一度発病するとその症状が大なり小なり後遺症として残ってしまいます。症状の程度は破壊された脳細胞が担当していた機能によって様々です。壊死する範囲が広ければそれだけ重症となり、寝たきりになることもあります。さらに、生命の維持に関わる機能が破壊されると死にいたることもあります。

脳卒中は何の予兆もなく突然発病する場合もありますが、一時的に手足がしびれたり、足がもつれたり、呂律が回らなくなったり、物が二重に見えたりといった前触れがある場合もしばしばあります。こういった状態を見逃さず、治療を始めると大きな脳卒中を未然に防げることもあります。このような症状が現れたら迷わず医療機関を受診して下さい。(続く)

第7回、2008年12月、「生活習慣病−狭心症・心筋梗塞について−」

動脈硬化が進行し行き着いた先の一つが狭心症や心筋梗塞です。心臓も含め全身の臓器は、血管を流れる血液から酸素や栄養の供給を受けています。以前ご説明したようにそれらが不足、臓器が壊死する(腐る)病気が「梗塞」です。心臓は血液を循環させるポンプで内部に大量に血液をため込んでいるのに血液不足とはちょっと不思議な感じがするかもしれません。心臓の筋肉でできた壁は、実際にはその内部にある血液ではなく、周囲の冠動脈(心臓を冠のように取り巻いているためこのように呼ばれています)から酸素や栄養を受け取っています。

動脈硬化により冠動脈の内腔が狭小化、血流量が不足したためにおこる病気を虚血性心疾患と総称します。運動すると脈が速くなり心臓の酸素消費量が増します。こういったときに一時的に酸欠になり心臓が悲鳴を上げ、胸痛を感じる状態を狭心症と呼びます。安静にしていると5分程度で脈の速さが元に戻るため血流量が足りるようになり、胸痛も自然に消えます。正座で血管がつぶれ足が痺れても、しばらくしていると元通り動くようになるのと同じです。

一方、心筋梗塞は、虚血の程度が高度でかつ長時間のため心臓の筋肉が壊死し傷が付いてしまった状態。こうなると心臓のポンプとしての機能が不足したり(心不全)、ひどい不整脈や心臓の壁が裂けたり(心破裂)して死にいたることもあります。原因不明の胸痛を感じている方は必ず医療機関を受診して下さい。(続く)

第6回、2008年11月、「生活習慣病−糖尿病について−」

肥満合併症の中で最も重要なものは糖尿病です。最近の統計では予備軍まで含めると日本人の5人に1人が糖尿病といわれています。糖尿病も他の生活習慣病同様まったくといっていいほど自覚症状がありません。しかし、糖尿病が恐ろしいのは、気付かない間に出てくる合併症のためです。糖尿病合併症は眼底出血から失明、A:腎不全になり人工透析(体から血液を抜き取り洗浄、元に戻すという5時間の作業を週3日ほど行います。その大変さのためフィリピンまで出かけて腎臓を買い、腎臓移植をする人がいるくらいです)、B:全身の神経が麻痺(感覚がなくなり手が焦げても気づかなくなります。勃起不全にも)、C:以前ご説明したように動脈硬化が進行、脳梗塞、心筋梗塞、足の壊疽(足を切り落とすことになります)の四つです。

高血圧や高脂血症も、それを放置すると確かに様々な合併症を発症しますが、中には合併症ないまま普通の生活を送っている方もいます。しかし、糖尿病の場合、治療を怠ると10〜15年後、万人に確実に合併症が出現します。ですから、私は糖尿病を放置している方に合うと、15年後に足を切断、失明し、杖をつきながら週3回の人工透析に通っているその姿が思い浮かび、この人を何とかしなければとついつい熱くなってしまいます。

現在では糖尿病の治療薬は多種多様あり、やる気があれば必ず合併症を防ぐことができます。目先の欲望に流されることなく、自身の未来に想像力を働かせ最善の道を選んでほしいものです。(続く)

第5回、2008年10月、「生活習慣病−脂質代謝異常症(高脂血症)について−」

高脂血症とは血液中の脂肪成分が増加した状態のことですが、まったく自覚症状がありません。以前お話したように高脂血症、糖尿病、高血圧の生活習慣病は動脈硬化を進行させ心筋梗塞を招来します。このうち心筋梗塞発症に最も関与しているのが高脂血症です。血液検査では総コレステロール(以下総コレ)、LDLコレステロール(以下LDL)、HDLコレステロール(以下、HDL)、中性脂肪(=トリグリセリド、以下TG)の四つを測定します。総コレはコレステロールの合計です。LDLは増加すると動脈硬化の進行が促進、減少すると遅延するので悪玉コレステロールと、一方、HDLは反対に増加で遅延、減少で促進するので善玉コレステロールと呼ばれています。

HDLは低下が問題なのに高脂血症と呼ぶのは不自然なので、最近は脂質代謝異常症と呼ぶようになっています。少し前までLDLを測定する技術がなかったので総コレの値で高脂血症を判断していましたが、近年LDLが測定できるようになりLDLで直接評価するようになっています。LDLを下げHDLを増やすため習慣は、過食とくに脂っこいもの、飽和脂肪酸(冷やすと固まり白濁する油=獣肉類、バター、牛乳、卵、ココナッツの油等)を減らす、野菜(タマネギやニンニク等)を十分に摂る、運動、禁煙、適量の飲酒(日本酒換算1合以内)、ストレスを減らす等です。TGを減らすにはさらに糖分、果物とともにお酒も減らす必要があります。日本人の場合、満漢全席はダメで一汁五菜をバランスよくが大切です。(続く)

第4回、2008年9月、「生活習慣病−高血圧について−」

肥満合併症の一つとして高血圧があります。血圧とは、血管(動脈)の中を流れる血液の圧力のこと。高血圧になると頭痛や肩こりを訴える方もいますがほとんどの方が無症状。ではなぜ治療が必要なのでしょうか。一つは、高圧な血管内に血液を流し込むことは心臓にとって重労働です。心臓は筋肉でできたポンプ。毎日重労働を繰り返していると徐々に筋骨隆々(心臓肥大といいます)となります。適度に筋肉質なうちはいいのですが、過度になると逆に動きが制限され、ポンプ機能が低下(心不全)したり、分厚い筋肉の壁に十分酸素が行き渡らず酸欠になったり(狭心症)します。

また、高血圧は血管の劣化(動脈硬化)を促進、血行が悪くなり、腎不全や脳梗塞を来たしたり、自然発生的に血管が裂け出血したりすることも(脳出血、眼底出血)。高血圧はそのほとんどが本態性高血圧と呼ばれる明らかな原因のない遺伝的体質からくるものです。しかし、以前ご説明したように遺伝的体質という種に、肥満、運動不足、塩分過剰摂取、過剰飲酒、喫煙、過度のストレスなど悪しき生活習慣とうい肥料を与えることにより、病気という花を咲かせるわけです。

ですから、生活習慣の是正でかなり改善します。一般に1kgの体重減少で1.5mmHgの血圧が低下します。私見ですが、減量、運動、塩分制限、禁煙をしっかりやれば高血圧の方の半数は薬が不要になると思います。だらしない生活で副作用におびえ高い薬代を払う生活と、副作用も薬代も心配無用な生活、皆さんはどちらを選びますか。(続く)

第3回、2008年8月、「生活習慣病−メタボリック症候群と特定健診について−」

先年、「メタボ(リック症候群)」という言葉が流行語大賞を受賞、CMにも頻繁に登場し、大抵の方がこの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。前号にて、肥満からドミノ倒しのごとく心筋梗塞、脳梗塞が発病するお話をしました。ところが、同程度の肥満でも高血圧や糖尿病を発病する方もいればしない方もいます。以前は、単純に肥満=体重が多いことが生活習慣病の原因と考えられていました。しかし、調べてみると生活習慣病になりやすい肥満となりにくい肥満があるのが判ってきました。つまり、手足やお尻などの皮下に脂肪が蓄積する肥満(皮下脂肪型)では生活習慣病になりにくく、逆に、内臓周囲、つまり、おなか周りの腹筋の内側に脂肪が蓄積する肥満(内臓脂肪型)ではたとえ体重がそれほど多くなくとも生活習慣病になりやすいことが判ってきました。

このように内臓脂肪型肥満のため高血圧、A:糖尿病、B:高脂血症のうち二つ以上を発病している人をメタボリック症候群と呼んでいます。ちなみに腹囲径で男性85cm以上、女性90cm以上が内臓脂肪蓄積の目安とされています。このように、とくにメタボの方はドミノ倒しにより、心筋梗塞、脳梗塞を発病しやすい方々なため、厚生労働省は、平成20年度よりメタボの早期発見早期治療を目的とした特定健診を始めたわけです。(続く)

第2回、2008年7月、「生活習慣病−生活習慣病のドミノ倒し現象−」

前号にて生活習慣病を理解していただきましたが、それら生活習慣病群は一人の人間にしばしば複数発病することがあります。会員の中にも、血圧、血糖、コレステロールがそろって高いといった方もいるのではないですか。というのは、これら全ては肥満が主因となるため、過飲過食、夜食など不規則な食事、休養不足に運動不足といった生活習慣があると肥満となり、結果、高血圧、糖尿病、高脂血症が引き起こされるわけです。これらの生活習慣病は皆そろって血管の劣化を促進させます。血管の劣化を動脈硬化と呼びますが、下水管に無理やり(高血圧)、水飴(糖尿病)やてんぷら油(高脂血症)を垂れ流せば、下水管の内側にこびりつき、徐々に内径が狭くなり、終には詰まってしまうのと同じことです。動脈が詰まった場合、それより末梢側に酸素や栄養が運ばれないため、血管の分布する臓器が壊死してしまいます。こういった病気を「梗塞」と呼びます。つまり、一人の人間の人生において時間の経過とともに悪しき生活習慣から肥満になり、高血圧、糖尿病、高脂血症が発病、結果として動脈硬化が進行、終にはドミノ倒しのごとく心筋梗塞、脳梗塞に至ってしまうわけです。(続く)

第1回、2008年6月、「生活習慣病−生活習慣病と成人病−」

今号より「生活習慣病」をテーマに10回連載させて頂くことになりました。紙面に限りがあるので、解りやすくも要点を絞り込んだ解説にしたいと思います。また、最後に私見を交えその本質に迫ってみます。早速ですが「生活習慣病」とは運動、食事、飲酒、休養、喫煙等の悪しき生活習慣がその発病に深く関与した病気の総称です。代表的なものとして糖尿病、高血圧、高脂血症、脳卒中、虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患等があります。これらの病気は成人以後に発病することが多かったため、以前は「成人病」と呼ばれていました。ところが昨今、未成年者でも成人病が珍しくなくなり、成人病という表現が不適切になったため「生活習慣病」と改められました。最近、子供の肥満、体力不足が広く喧伝されています。いずれ、未成年者の心筋梗塞、脳卒中も珍しくなくなるかもしれません。しかし、生活習慣病は悪しき生活習慣のない方にも発病します。たとえば痩身で下戸な上、菜食主義にも関わらず高脂血症や糖尿病になった方も。実はほとんどの病気にいえることですが、病気は生まれ持った遺伝的体質と出生後の生活習慣や環境、その両者の合算として発病します。よって、きわめて健康的な生活を送っても生活習慣病の遺伝子が極めて強ければ発病するし、逆に、多少それらの遺伝子を持っていても良い生活習慣であれば発病しないわけです。つまり、生活習慣病になりやすい多少の素質なら自身の努力で克服できるというわけです。(続く)

※これは武蔵野法人会報連載記事原稿です。

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